20.ほとんど告白だ
はっ、と目を覚ましたとき、わたしは部屋のベッドに横たわっていた。
周囲を眺める。
部屋の中には誰もいない。
ベッドから起き上がる。
服は、いつの間にかスウェットに替えられている。
なんでこうなってるんだっけ。
竜と戦っていたはずなのに。
はっきりとは思い出せない。
それからわたしは部屋を出て、リビングへと向かう。
そこには本橋くんが椅子に座ってテレビを見ていた。
すぐそばのソファーにはキーファとモーファも座っている。
「下妻、起きたのか」
「うん。……わたし、どうなったんだっけ」なんだか、ぼんやりとして前後のことが思い出せない。「竜は?」
「倒したよ」
「……ほんと、焦りましたよ。お二人がしっかり指示に従ってくれれば、あんなことにはならなかったのに」
口をとがらせるキーファに、本橋くんは苦笑してみせる。
「悪かったよ」
「でも下妻さん、守ってもらえてうれしかったでしょう?」とモーファが笑顔を向けてわたしに言う。
「そういう問題じゃないんだよ」とキーファ。
「でも女の子にはそういう問題の方が大事なんだよ」とモーファ。
わたしには何のことやら、さっぱり。
わたしのそんな表情を見て、三人は顔を見合わせる。
「……もしかして、下妻、忘れてる?」
うん、とわたしは素直にうなずいた。
「途中までは覚えてるけど……」
なんだかビームを食らいそうになって、そして……。
やっぱり、思い出せない。
本橋くんはじっとわたしのことを見ていた。
そのうち、笑いながら言った。
「じゃ、別に思い出さなくていいよ。あの後も、下妻、変なことを言ってたし」
「……なに、変なことって」
ちょっと、焦る。
「いい。俺ももう、忘れた」
本橋くんはにやにやしながらそんなことを言う。
なんだか、釈然としない。
「それで、下妻さんの体調は大丈夫なんですか?」
モーファがそう聞いてくる。
腕を振っても、頭を振っても、どこにも問題がない。
「全然、だいじょうぶ」
「なら、よかったです。単なる、魔法の使いすぎですね。お茶でも飲みますか?」
うん、とうなずいてわたしもソファーに座る。
それからふと気づいて、本橋くんにたずねる。
「なんだかすごくのんびりしてるけど。わたしたち、帰るんじゃないの?」
「だって、下妻があんなだったからさ。帰るの、明日に伸ばしたんだ」
「あ、そうなんだ」
あんな、というのがどんなだったのかわからなかったけれど、それはまあラッキー、とわたしは考えた。
もう一日、本橋くんと一緒にいられる。
「そういえば、今って何時ぐらい?」
「ここにいると時間の感覚、なんか薄れてくるよな。俺のスマホによれば、午後三時十七分」
竜と戦いはじめたのは、まだ朝だったのに。
結構わたし、寝てたんだな。
「あ、お腹すいた」
「モーファに頼んで、好きなの食べろよ」と本橋くん。
それからわたしは食事を終え、だらだらと本橋くんと映画やアニメを見た。
その夜は、本橋くんは先に眠ってしまった。
キーファとモーファには、部屋を暗くしてもらい、先に帰ってもらった。
豆電球だけをつけたような部屋の暗さの中で、わたしはなかなか眠れず、一度見たことのあるドラマをずっと、ぼんやりと眺めていた。
そして不意打ちのように、竜との戦いや、その後の記憶が戻ってきた。
……やばい。
半ば寝ぼけて本橋くんに言っていた、あんな言葉はもう、ほとんど告白だ。
わたしは頭を抱えてうなった。
この場に本橋くんがいなくてよかった。
もしいたら、即座に挙動不審になっていたところだ。
でもその後で、本橋くんから守られたことを思い出してにやにやした。
で、それからまたうなった。
明日、どうしよう。




