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12/22

12.何かあっても守るからさ

 練習を終えた後、わたしたちは自分の部屋に戻った。

 あとは明日の本番を迎えるだけで、もう他にやることはないらしい。


 時刻的には、ちょうど昼食のタイミングだった。

 学校ジャージから部屋着に着替え、キーファとモーファに昼食を頼むことにする。


「本橋くんは、お昼、何食べるの?」

「下妻と同じの」と、にやりと笑う本橋くん。

「ダメです。朝はわたしが決めたんだから、今度は本橋くんの番なの」

「その理屈でいうと、夕食を決めるのは下妻な」


 しまった。

 まあ、いいけどさ。


 本橋くんは、何かボリュームあるものが食べたかったらしい。

 牛丼に、様々なものをトッピングしてくれるよう、キーファにお願いをしていた。

 わたしはトッピングなしの牛丼を頼んだ。

 そしてやっぱり、小盛りにした。


「女子って、やっぱりあんまり食べないんだな」


 そうでもない。

 人による。

 が、実際のところ、わたしは小食な方だった。

 体が小さいせいもあるのかな。


 やがて運ばれてきた牛丼を食べた後、わたしたちはリビングでだらだらとして過ごした。

 スマートフォンが使えないせいで、ネットサーフィンが出来なかった。

 なのでリビングのテーブルの上に設置してもらったテレビで、本橋くんが見たいという映画やアニメを、ただひたすらに眺めた。


 本橋くんのいうところの「異世界転移モノ」のアニメは案外面白く、結局夕方までの時間をかけて、最後まで見終わってしまった。

 そのアニメの中で、主人公はピンチや絶体絶命の場面こそ迎えるものの、死に至るようなことは起こっていなかった。

 ま、そりゃ当然か。

 もし死んでしまったら、物語自体が終わってしまう。


 だが大して親しくもないが、主人公の味方側の一人、ぐらいのキャラクターは、結構あっさり、バンバン死んでいた。

 誰にも意識されず物語から退場していく彼らを眺めていくうち、かすかな不安が胸をよぎりはじめた。


 明日、わたしたちは竜と戦う。

 勝率は百パーセントだという。

 だけど、もしも負けてしまうと、わたしたちは死ぬことになる。


 まだ若いのに。

 しかもこんな異世界で死ぬなんて。

 なんだか暗い気持ちになりながら、テーブルに両肘を置いて手を重ね、その上に顎をのせていると、不意に本橋くんがわたしを覗き込んできた。


「あのアニメ、つまらなかった?」


 ちょっと不安そうな顔をしている。

 ううん、とわたしは首を横に振った。


「なんか、なんだかさ、それなりに不安になってきちゃって。明日、竜と戦うんだな、って思うとさ」

「ふむ」と本橋くんは少し意外そうな声を出し、それからうなずいた。「そう言われれば、そうだな」

「だって、あんな、小学生にもできそうな、お遊戯みたいな感じのことで、竜が倒せるっていうんだよ? 信じられる?」

「だなあ」


 本橋くんは、案外のんきな声を出す。

 昨日と今日とでわかったが、本橋くんは結構落ち着いている。

 というか、のんびりとしている。


「信じるか、信じないかで言われれば、……ま、信じろって方が無理だよな」


 そんな風に言いながら、本橋くんは、わたしのそばに腰を下ろす。


「でも、結局俺たちは、アイツらを信じることしか出来ないんだよ」

「今から言って、戦うの、辞退する」そう言って、わたしは肩をすくめる。「なんてことは、やっぱ、出来ないしなあ」


 本橋くんが笑い声をあげる。


「そういうところ、下妻って真面目だよな。ずっとクラス委員もやってるし」

「あれは押し付けられてんの」

「嫌々だって、引き受けてるんだから、すごいよ。……ま、大丈夫だよ。勝率、百パーセントだし」

「うーん」

「何かあっても俺が守るからさ、心配するな」


 うん、と生返事をしてから、わたしはふと気づく。

 いま、すごいことを言われた。

 そんなの、白馬の王子様がいうセリフじゃん。


 わたしは不意に恥ずかしくなって、隣に座る本橋くんの顔が見られなかった。

 耳とか赤くなってないだろうな。

 死ぬ不安よりも大きなその不安を覚えながら、わたしはじっと、胸の高鳴りが過ぎ去るのを待った。

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