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優海の奮起

 風香ちゃんは優海ちゃんの部屋でドンと仁王立ち状態だ。


「風香ちゃん……」

「姉さん……」

「……」


 そして何やらこの部屋で緊迫した空気が流れる。


「先輩……」


 布団から起き上がった彼女は小声で僕を呼ぶ。


「なぜ姉さんが私達の秘密を知ってるんですか?」

「それは……成り行きというか……君の部屋に行く理由を説明するのに致し方なかったんだ」

「そうですか……」

「何こそこそ言っているの?」


 ツンケンした口調の風香ちゃんはいつの間にか座って僕に近寄っていた。


「わっ!」

「何、驚いているのよ? 元恋人同士でしょ?」

「ちょっと姉さん! 先輩から離れて下さい!」


 風香ちゃんは優海ちゃんの方をじっと見る。


「はいはい」


 と言いながら僕から少し距離をとった。ふう、やれやれ……。そして僕達はしばらく無言で腹の探り合いをする……が、そんなことしても互いの気持ちは分からないので初めに優海ちゃんが口火を切った。


「で、姉さんはどんなことを訊きたいの?」

「! ……そうね、やはり孝君が私から優海に鞍替えするのは少し早すぎることかしらね?」


 彼女は少し冷たい声で言う。


「だって大体一ヶ月前なら私と別れてからそんなに経ってないでしょ?」


 仰る通りです……。


「そして私にフラれたからって妹に手を出すなんて見境がなさ過ぎ……」

「それは私がフラれた先輩に告白したからですっ!」

「あら? 優海から告白したの?」

「そうよっ!」

「フラれた気持ちにつけ込んで?」

「……」


 彼女は返事をしなかった。今思えばそれはあっただろうな。


「それとどうして私に隠してたの? 私にバレると何か良くないことでも言うと思った?」

「……それはもう言ってるでしょ」

「そうね、それは否定出来ないわ」


 ……そうだな。


「それと周りに秘密にしているのはなんで?」

「それは……」

「姉にフラれたからって妹に手を出したのが周りにバレるのが嫌だったから?」

「……」


 御明察。


「それもそうね、優海からの告白とはいえ、周りから見たら奇怪な目で見られそうね。それにどっちにしても孝君の切り替えの早さには感服だもの」


(済みません……)

 と思いながら僕が項垂れていると、優海ちゃんは声を大きくして、


「先輩は、悪くないわっ!」


 いつも優しく丁寧な優海ちゃんが珍しく叫んだせいからか僕達はしんとした。


「優海ちゃん……」

「……」


 優海ちゃんの顔は眉間に皺を寄せて顔を赤らめている。


「まぁ、でも……」


 振り向くと、彼女は少し不敵な笑みを浮かべていた。


「まさか孝君はまだ私に未練があるとはねーーっ」

「!」

「!?」


 聞いていたのか!? 僕は急に体が熱くなる。恥ずかしいっ!


「優海っ」

「!?」

「貴女も大変ね。こんな未練たらったら男を好きになるなんて」

「……」

「それも自分の姉を好きな男を」

「……」

「こんな未練たらったらでどうしようもない男なんてさっさとフったらどう?」


 風香ちゃんは笑いながら言う。あれ? こんな嫌なキャラだっけ? 付き合っている時はもう少し優しかったような……。そしてしばらく黙っていた優海ちゃんは小さく言葉を発し始める。


「……れない」

「ん?」

「絶対別れませんっ!」

「そうっ」


 風香ちゃんはすっと立ち上がり、真顔で優海ちゃんの方を見ながら言う。


「私が相手になるのね」

「!!」


 相手? 一体どういう意味だ? 


「そう、分かったわ」

「……」

「恨みっこなしよ」

「……えぇ」

「手加減もなしよ」

「はい」

「それと」

「?」

「体調は早く治しなさいよねっ。でないと相手にすらならないわ」


 そう言って彼女は魔王さながらに優海ちゃんの部屋から出て行った。


「……先輩」

「ん?」

「私、負けませんからっ」

「お、おう……」


 それから次の日、優海ちゃんから学校に行く由の内容がスマホに届く。

『学校に行きます』

『大丈夫?』

『はい! 大丈夫です』

(良かった。体調戻ったのか)

 そして翌日の早朝に偶々登校中に彼女の元気な顔を見てから席に着くと、風香ちゃんが視界に入る。相変わらず彼女は友達と話して、僕は可愛い後輩と話をする。


「小野原先輩! この前ほったらかにして、ひどいっ!!」


 そうだ、まだこいつがいたんだ……。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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