6 〜灰まぶし、灰汁漬〜
「酸性」にすることで食材が保存できるのであれば、「アルカリ性」ではどうかと考える人もいるでしょう。
当然のように、その方法もあるのです。
手近に手に入るアルカリ性を示す物質は灰ですから、最初は、焚き火の灰を食材にまぶしたことから始まったことでしょう。
日本では灰干しワカメが150年ほど前から作られていました。もともとワカメはpH6.8くらいですが、灰をまぶすことでアルカリ処理をし、これによってワカメの色を保ち、微生物の繁殖やカビの発生防ぎ、常温で長期間保存を可能にしているのです。食べる際には、灰を洗い流します。
中国では、アヒルの卵を灰や炭、籾殻に漬けて保存する皮蛋があります。卵のタンパク質が、卵殻を通して染み込んできた灰のアルカリ成分によってゼリー状に固まります。これは長いものでは常温で2年もの保存に耐えるのです。
フランスでは、灰をまぶしたチーズがあります。エジー・サンドレという種類のものですが、発酵によって急激に酸性に傾くのを灰のアルカリ性で抑え、結果としてきつい匂いも抑えられて食べやすくなっています。食べる際には、軽く叩いて灰を落とします。
また、現在ではあまり行われなくなりましたが、ジャガイモを植える際に芋をいくつかに切り分けますが、その切り口に灰をまぶしていました。これも種芋の腐敗防止のためです。現在では直射日光に当てる方法が主流となっています。
さらに、灰を水につけ、溶け出してきた「炭酸カリウム」を含む「灰汁」も利用されてきました。これは強いアルカリ溶液ですから使用しやすく、ワラビのアク抜きから洗濯まで日常的に幅広く活用されました。
− − − − − − − − − − − −
※ 灰汁まきという食べ物もあります。薩摩藩が文禄・慶長の役の時、もしくは関ヶ原の戦いに向けて作ったといわれている兵糧食です。これは灰汁に浸けたもち米を、灰汁に漬けておいたタケノコの皮で包み、さらに灰汁で3時間煮るというもので、常温で一週間も保存が可能です。
この灰汁まきは、1877年の「西南戦争」時に「西郷隆盛」が兵糧としており、それによって薩摩藩以外にも広まったといわれています。