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食料保存の科学  作者: 林海
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12 〜食品添加物、輸送〜


 食品添加物とは、「食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物」です。

 食品衛生法という法律に定められているのです。


 たとえば、豆乳を豆腐に固めるための凝固剤としての「にがり」すなわち「塩化マグネシウム」や、粉ミルクに添加される人体に必要な栄養素など、無くては成立しないものから、着色料のように見た目を良くするためのものまで幅広い概念なのです。


 今までは食材・食品保存を妨げるものとして腐敗について多く論じてきましたが、現代では輸送という過程にともなうリスクとして、虫などによる食害も考えねばなりません。

 そのため、収穫した食材は薬剤によって殺菌に加え、殺虫がされることがあります。収穫後の薬剤使用なので「ポストハーベスト」(収穫の後)と呼びますが、収穫の後ですから農業という産業の枠内ではなく、食品添加物という扱いになります。

 日本では収穫後の薬剤散布は禁じられていますが、輸入食材では散布されたものが国内に入ってきます。

 

 これについてもさまざまな議論がありますが、どれも一筋縄ではいかないものです。

 日本には本来いない外国の昆虫類が侵入したら、「生態系」への影響は無視できませんし、農産物を食害する事態に至ったら、その分日本国内での殺虫目的の農薬散布を増やさざるを得ません。それならば、水際で侵入を阻止するポストハーベストの方がまだまし、という判断もあるでしょう。

 また、食材輸送中に発生するカビは「マイコトキシン」と総称される毒を生産し、その中には天然の物質の中で最も発癌性の高いといわれるものまで含まれています。

 カビを防ぐために散布された人工の薬剤の使用が、法的基準値以内であれば健康への影響が極めて小さいと目されるのに比べ、これらの天然毒の危険性の方がはるかに高いということもあるのです。


 さらに、この問題を考えるのにあたり考慮しなければならないのは、そもそもなぜ食料を輸入しなければならないかです。

 日本のように贅沢品としての食品や畜産物を生産するために飼料を輸入するという恵まれた国はともかく、なけなしの外貨を国民を飢えさせないために食料輸入に使わざるを得ない国もあります。

 そのような国では、カビ毒が発生しているからといって輸入した食材を破棄することはできません。明日の発病リスクより今日の食事という判断をせざるを得ないのです。

 そのため、このカビ毒の基準は各国で異なっています。そのような中で、カビ毒を防ぐことができるであろうポストハーベストを、一律に廃止することはできないでしょう。


 このようなどちらの問題点を許容するかという取引に対して、日本に限らず全ての公的機関はまず国民を飢えさせないことを原則とします。「飢餓」は生命の維持に直結する問題だからです。そのために、まず「量」の確保を目指しますし、それができて初めて「安全・安心」という「質」を語れるようになるのは残酷な現実です。人類の食料保存の技術の歴史は、飢餓という最も残酷な現実を避けるために発展してきたのです。


 このような考えをまとめたものを「食糧安全保障」といいますが、「国連食糧農業機関」では「全ての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況」と定義しています。

 各国は、自国の状況に合わせて独自にそれを定義し、食糧安全保障を実現しようとしているのです。


 現代の日本に住む私たちは、ありがたいことに最低限の食糧安全保障を超え、選択をする自由があります。「安全・安心」を語れる社会的豊かさがあり、国産の農産物を選ぶこともできます。

 どのような食料を選んでも、どこで調理されたものでも食べても良いのです。他の章でも示したとおり、自らの口にするものに対して選択の自由があるのは素晴らしいことです。


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