表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食料保存の科学  作者: 林海
1/17

1 〜食料の保存を妨げるもの〜

 ヒトが他の生物と異なる点として、火を使用することが挙げられます。火を使用することで、外敵を遠ざけ、寒さをしのぎ、生活圏を大きく広げることが可能になったのです。それだけではありません。火の使用は、体外消化ともいうべき調理・食品加工を発達させ、同時にある程度の期間の食品の保存を可能としました。


 これらの食料を原資に、人類は農耕と牧畜という供給面を充実させたのです。


 人類は、供給と保存という両面から飢えを克服する方法を手に入れ、その手法を今も洗練させ続けています。そして、流通という手段も加え、食料の量的限界まで人口を増大させ、それに伴う社会構造の充実という大きな成果を得ているのです。


 食料の供給と保存の安定化は、長期にわたる探検、航海を可能にし、さらなる生活圏の拡大を可能にしましたが、一方でそれは戦争の長期化を可能にしたという負の一面も持っていました。戦争は糧食補給のために、より長期の食品保存の方法の開発を求め、その結果によってさらに戦争状態の長期化を招くというサイクルは今に続いています。

 現在、人類は地球上のほぼ全ての場所に分布し、それに資した食品保存の様々な手法は洗練され、現在では美味を求める手段としても応用されるようになっています。

 これらの方法を科学の目から観察してみると、また新たな発見があることでしょう。


 今回、この文は、拙文「味噌汁の科学」の続編的位置付けで書いていますが、内容に重複部分もあることをお断りしておきます。また、今回の「食料保存の科学」においては、※の部分を設け、科学とは別の、軍事的や宗教的観点とを併記して記すことにします。食料の保存という技術は軍事との関係が深いからです。ただし、軍事についても、宗教についても筆者はどこに与するものではなく、科学の観点からの記述であることをあらかじめ言明させていただきます。


 食料を保存するにあたり、最初に知っておかねばならないことがあります。

 それは、食料保存の最大の敵、「腐敗」という現象についてです。


 どのような食料であれ、「微生物」が繁殖し、腐敗が進んでしまったら食べることはできません。それは、食品の変質のみでなく、微生物が人体に有害な物質を作り出すからです。

 このような、人間にとって都合の悪い働きは腐敗とよばれますが、その一方で人間にとって微生物が行う良い働きは、「発酵」と言います。

 発酵がおき、味噌やお酒のように保存性や栄養価が高まる場合もあります。しかし、発酵という現象を食品加工の手段にするためには、発酵を起こさせる微生物の生育条件を整える知見を得なければなりません。

 人類がそれを手に入れるまで、発酵は運に左右される極めて不確かなものに過ぎませんでした。


 腐敗がおきる条件としては、「腐敗を起こさせる微生物の存在」「養分」「腐敗するまでの時間」「温度」「水分」の5つが挙げられます。これは、腐敗を起こす微生物の生育、増殖の環境として必須のものです。なお、「酸素」は必ずしも必要ではありません。

 これらの条件を満たせないように、一つまたは複数の手法を組み合わせるのが、昔も今も食料保存の方法なのです。


− − − − − − − − − − − − − − − −


【注】 ここから先では、生物学的に「微生物」と表現すべき場所でも、「菌」等の言葉を多用します。純粋な生物学ではなく、人との関わりの中では「微生物」という用語は使用しにくいのです。例を挙げれば、「殺菌剤」という言葉はあっても「殺微生物剤」という言葉はないからです。

 また、「食材」は自然から採取したもの、「食品」は人間がそれを摂取できる形にしたものと定義させていただきますが、生野菜のように境界が定義しきれないものがあります。加えて、「食料」はこの2つを合わせたものと定義させていただきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ