アルネ村
久しぶりの更新です
俺は2日ほどかけアルネ村の近辺まで来た。睡眠も食事も摂らず強行軍で来たが、まったく眠くないし疲れない。(どういうことだ・・・)と考えるほど明らかに異常だと感じるには恐らくシセスタだけではないだろう
シセスタ「俺って・・・もしかして人間やめてる?」
独り言を呟きながら山道を道なりに進んでいると草むらからガサゴソと音がしたので警戒しているとモンシロチョウの幼虫に似た生物が草むらから頭を出しコチラに糸を吐き掛けて搦め捕ろうとしてきたではないか!
(おっと 魔物図鑑で見た確かクロウラーと言うヤツだ)と考える余裕があるほどシセスタはだいぶ戦闘も手慣れてきた。クロウラーの糸吐き攻撃をバックステップで難なく避け、流れるようにシャードで斬りつけるとクロウラーはアッサリ死んだ
解体スキルが発動しクロウラーの躯は光の粒子となってシセスタに吸収されると、いつもどおり脳内に戦利品情報が表示される
≪解体スキルが発動しアイテムが追加されました!≫
≪クロウラーの肉だんご≫
≪絹糸≫
絹糸は高級そうだが【クロウラーの肉だんご】は、いったい何に使うのだろうか?ま、まさか食べないよな・・・そんな恐ろしい事は考えたくもない・・・
そんな事を考えている内に森林の近くに柵に覆われた集落が見えてきた。その集落の中心には小川が流れており畑には水路が引かれている・・・恐らくアレがアルネ村だろう。
シエスタは村の入口と思われる扉もない木製の簡素な入り口に向かう。すると村の入口の脇で椅子で座っていた男が警戒した声でコチラに問いかけてきた
門番「おい! お前は誰だ!」
恐らく来客には碌でもない連中がいるのだろう...況してや、こんな小さな村だ。危険な世界とはいえ、こちらはシャードを腰にぶら下げ武装している警戒するのも無理はない。それにシセスタもこの世界に来ていきなり山賊に襲われたので気持ちは痛いほどよくわかる
シセスタ「オレは首都のフェイルシュタットから来た冒険者だ!」
そう言いながら九等級の認識票とインテリジェンスカードを見せて悪意がない事をアピールした!
門番「そうかい。いったい何の用だ?」
シセスタ「この村で出された依頼主たちを訪ねに来た 」
門番「そうか...きっと村長たちだな...すまない。こんな危険な時勢だから来訪者全員に、こんな態度をとっているんだ。気を悪くしないで欲しい 」
シセスタ「いや、いいんだオレも賊に襲われた事がある・・・警戒するに越した事はないと思うよ」
門番「そうか・・・皆んなあんたみたいに理解があると良いんだが・・・中にはオレの態度に激高する奴もいてね。そう言う奴らは入れたくないんだトラブルを起こすからね・・・入りな。でもトラブルは起こさないでくれよ 」
シセスタ「ああ。分かった。オレはシセスタ・アデルという名前だ。よろしく。ところで・・・」
門番「ん? なんだ」
シセスタ「今一番、大事な事に気がついたが・・・ここはアルネ村だよな?」
門番「ああ。そうだ。」
シセスタ「よかったよ。こんな大げさなやり取りをして違う村だったら笑いの種になる所だった。村長の家は?」
門番「ここを左だよ。村長はいつも軒先にいるから、すぐわかるよ。」
シセスタ「ありがとう。行ってみるよ。」
椅子に座っている男に礼を言いその場を後にすると村の中を進んでみた・・・
村の中では女性たちが収穫物のレタス?のような葉物野菜を木網のカゴに入れ、せっせと食料用の蔵と思われる場所に運び込んでいる。一方、男性たちは鍬や鎌を研いだり補強したりして農具の手入れしているようだ...
シセスタ「この世界の技術は凄いのに、こう言う所は進んでいないだな・・・」
なぜだろうか?この世界の技術力と発想力を持ってすれば耕うん機やトラクターに相当するモノくらい、すぐに出来そうだが・・・労働力が余剰にならないように政策とかで開発を禁止でもしているんだろうか?それとも命の危険が多すぎるから武器や兵器に関する事が優先されている?
(う~ん……分からない...)
結局“分からない事を考えても仕方ないよね!”と元もこうもない結論に至った・・・
(おとなしく村長の家を探そう・・・)
軒先のある家を8分くらい迷いながら探し、ようやく村長と思われる初老の男性が軒先に立っているのを見つけたので、さっそく話しかけてみる...
シセスタ「失礼。アルネ村の村長さまですか?」
村長「おや?これは雅な、お方ですな・・・アルネ村へようこそ旅のお方。私がこの村の村長です。当村に何か御用ですかな?旅のお方。」
入口にいた男と違って腰の低い人物のようだ。
シセスタ「はい。この依頼書を見て依頼主を訪ねに来ました」
俺はアイテムボックスから請負証明書を出し村長に渡す・・・
村長「なんと・・・これは天の助けですかな?こんな困難な依頼を出しても誰も来てくれないだろうと思っておりましたが、どうぞ付いて来て下さい。私だけでは説明しきれないのでアーリュン教会から派遣されている神父さまの所へお連れします。」
俺は村長に案内されアーリュン教会から派遣されていると言う神父のところへ向かった。
2~3分もしない内に村の中心にある神父のいる場所に到着した...内装や間取りから察するに、どうやら農家の家だった場所を教会兼住宅として利用しているようだ。非常にこぢんまりとしていて聖職者が住むにしても質素な感じだ・・・
その家では中年くらいの神父らしき男性が聖書を呼んでいたが来客に気づくと丁寧に応対してくれた。そして男性と村長から依頼書を出す羽目になった経緯を聞くことが出来た。
どうやら依頼者の子は、まだ小学生くらいの娘で母親が不治の病を発症してしまい、日々食べるモノに困るくらい困窮しており小さいながら自分と母親が食べられるよう村人に混じって頑張って働いているらしい。
父親の方は戦争で既に亡くなっており母親はそれでも村の負担にならないように女手一つで娘さんを育てようと頑張っていたのだが、ある日突然、重病にかかってしまい働けない状況になってしまったとの事だ。
本来なら足手まといで村を追い出される事もこの世界では珍しい事ではないのだが村長は娘さんの両親を幼い頃からよく知っており父親が兵士として徴発され亡くなった後も母親が村の皆の足手まといに成らぬように日々頑張っている姿を見ていたので村がどんなに苦しくても心苦しくて追い出す事が出来なかったらしい
神父の男性の方も“自分を奴隷商人に売った金で娘だけでも村で面倒を見て貰えないか?村の皆さんにお願いして欲しい”母親に頼まれており、その娘さんの方も泣き晴らしたい年頃にも関わらず娘さんが母親が“これ以上悲しくないように”と歳不相応に笑顔で振る舞っている様子を見てダメ元で冒険者ギルドへの依頼書を代筆したとの事だった
あまりの惨状と現実の厳しさに、「こんな一生懸命に頑張っている母子に不幸が降りかかるなんて・・・なんと言うか・・・世の中色々と間違っているな・・・」と思わず声が漏らすと村長も神父も「まったく、仰る通りです」と同意してくれ強く頷いてくれた
ある程度の事情と経緯を把握した俺は肝心の霊薬草の在り処について心当たりはあるか聞いた...
村長は首を横に振ったが神父によれば“霊薬草は断崖絶壁”の危険な場所に生えやすいらしく故に希少価値が高く、なかなか市場にも出回らない。仮に市場に出回るようならばオークションにかけられ一輪60万ユーフティスは下らないほど高額になるとの事だった。日本円に直すと180億円・・・とても庶民に買える値段ではない...
シセスタ「わかりました...時間も無さそうだし困難そうですが何とか見つけて来ましょう。近くの断崖に心当たりは?」
神父「ウ~ン...聖職者として危険なところはオススメしたくありませんが、この近くなら『絶望の断崖』という場所が村の北東にあります。霊薬草が群生している条件が嫌というほど揃っておりますが...なにぶん...」
村長「神父さま...いくら冒険者の方とは言え無償に近い仕事で...あんな危険な場所に行かせても良いのでしょうか...」
村長が良心が咎めるくらい危険な場所ということか...神父も申し訳なさそうな難しい顔をしている
シセスタ「ご心配なく元よりこんな稼業ですから命がけなのは承知しています。お気になさらず、その『絶望の断崖』について詳しく教えて下さい」
神父を説得すると重々しく口調で神父は『絶望の断崖』について語った。神父の話によれば『絶望の断崖』と言う場所は空飛ぶ魔物の巣窟でワイバーンなどの飛竜種をはじめ、神の使いとして恐れられているグリフォンまで生息する文字通りこの世の絶望を詰め込んだ地獄のような場所らしい・・・
故にそれら危険生物の高濃度な魔素を含んだ堆肥が崖伝いに流れるため、霊薬草は崖に群生しやすく、その危険度と霊薬草の薬効が付加価値を高め高額で取引される最たる理由との事だった
シセスタ「……ヤバそうだが、やるしかなさそうですね。」
村長・神父「……」
俺は黙りコケる村長と神父を尻目に、さっそくアルネ村を出て『絶望の断崖』へと出発した・・・