いち。秋華ちゃん。
新しいお話です。不定期更新ですが、おつき合いくださると嬉しいです。
高校生活も慣れてきた6月。クラスメイトの女子、犁嘩子ちゃんに声をかけられた。肩までの黒髪ストレートを揺らしながら、てか身体ごとクネクネしてた。どうした、病気か。
「あのねぇ? 秋華のねぇ? カ・レ・シ♥がねぇ? 瑞癸ちゃんのねぇ? アド知りたいんだってぇ? 友達になりたいのねぇ? 教えてもいいかなぁ?」
全部が疑問符なのはなぜだろう。てか、カ・レ・シ♥って誰だ。しかも自分のじゃないのに、その照れっぷりも如何なものか。
「もぉう、落くんのことぉ! シャイだから直接言えないんだってぇ。ねぇ、いぃい?」
「かまわないけど」
一体なにを話せと? というより、秋華ちゃんに許可はいらないのか? 秋華ちゃんは優しい子だが、いつの間に犁嘩子ちゃんと友達になった上に、犁嘩子ちゃんは秋華ちゃんのカ・レ・シ♥と仲良くなったんだろう。謎だ。いや、深く突っ込んではいけない。しかし、うん、まぁ、スルーで。
家に帰ったらメッセージがスマホに届いてた。落って誰だ。おち? らく?
《落です。犁嘩子から聞きました。よろしく!》
あぁ、これが噂の。あんまりよろしくしたくはないが、しないとダメだろうか。
《瑞癸です。よろしく》
とりあえず無難なあいさつしとこう。後は既読スルーだ。と思ったら《電話していい?》ときてすぐ鳴るスマホ。返事待てよ! 了承してねぇよ!
バカにつける薬はない。名言だ。
あのあと、しつこく鳴るコールに渋々出ると、あーだかうーだかぐだぐだしたあげくに、4月から気になってましたつき合ってください! とか言われたんだがこれぶん殴ってもいいだろうか。電話じゃなきゃやってたよ、間違いない。
しかも、入学してすぐのクラス交歓会で、即席でダンスした時から目をつけてたとか、ぽろっともらしやがった。誕生日に告ろうとしたら、その誕生日を知らなかったし待てなかったと。
我慢も努力もできない上に考える脳ミソも亡いとみた。頭振ったらカランからん音するんじゃね? てくらい。あ、中身空っぽだったよ。じゃぁしょうがないな。
4月からって、じゃぁなぜに君には彼女がいるのかね? と聞けば、えー成り行き?
仮につき合うとして、秋華ちゃんはどうするのか? と聞けば、えーどうしよう?
そもそも、秋華ちゃんは知ってるのか? と聞けば、えーナ・イ・ショ♥
犁嘩子ちゃんとはどういう? と聞けば、えーヤキモチ?
……とまぁ、話にならなかったよ。とりあえず、あなたのような軽っ々しい思考の持ち主とはおつき合いどころか友達もゴメンだ、とオブラートに包み損ねて伝えたら、あれ以来連絡はない。なのでブロックしたあと放置継続中。私は困らないし、むしろ快適。
てか、あんな優しい秋華ちゃんになんの不満があるんだバカモノめ。
「落くんのぉ? あれはぁ? ビョーキみたいなぁ? ものだからぁ?」
君はもう少しちゃんと喋ろうか犁嘩子ちゃん。
「病気?」
「2ヶ月でぇ? 8人にぃ? 告ったらしいしぃ? ち・な・み・にぃ? あたもぉ? 告られちゃった♥ きゃっ」
「ほう。それはまぁ、数打ったね」
「……え?」
奴の好みがわからん。手当たり次第としか思えない。しかも頭が足りてないか大人しい子か。あ、選んではいるのか。確かに病気だな。
ちなみに、その一年後。奴は他校の三年生を妊娠させたとかで退学していった。そこに至るまでのあれこれを包み隠さずオープンにしすぎたせいで、知らない人はいないくらいの噂ーー八つ股して全員孕ませた挙げ句、誰にも責任を取らずに逃走。その後捕獲され土下座行脚し去勢されて8人の子供を育ててるーーになった。
噂だからね、嘘と真実と事実がごちゃまぜになってたよ。
それを聞いた秋華ちゃんは泣き笑いのような顔で、あたし見る目ないなぁ、と呟いた。かける言葉はないので頭を撫でておいた。
ふっきれた秋華ちゃんは、明るく優しい子にランクアップし、真面目な彼氏をゲットした。その彼氏とデート中に元カレとバッタリ会うというテンプレを体験したらしく、ついでだからと元カレをぶん殴ったそうだ。ぐっじょぶ、秋華ちゃん。
犁嘩子ちゃんは、クネクネと疑問符が半分くらいに減ったよ。なにか思うところがあった模様。いいことだ。
今時あんな疑問符で会話するJKはいなかろうな、と思いながら書いてました(笑)