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今までからこれから

作者: 森永盛夏

夏が始まる。

暑い。額から流れ落ちる汗は目尻で涙に変わる。数メートル先で背中を見せる君を眺める。なんでだよ。飲み込んだはずの声が君には聞こえてる。肩をすくませて歩いていく。商店街。屋根はあるから濡れないけれど、パラパラと天気雨の音が聞こえる。一瞬だけジメッとする空気。半歩踏み出して引っ込めた。これは体の距離じゃない。心の距離だ。無闇に踏み込んで怪我をしたのは誰だ。あの子だ。僕は無傷だ。だからだめだ。すれ違う家族は笑顔で、スーツの男は真剣で、皆バラバラだ。だけど共通していることは何処か目的地があって、そこに向かって歩いていることだ。でも、でも僕だけは、僕だけは違った。僕は目的地を失ってしまった。君はどんどん離れてく。心が離れていく。顔は見えない。でもわかるよ。君が泣いていることくらい。なのに、君のことなら大概想えばわかるのに、君はもうそれをさせてくれないと言った。未練を連れた男はいつも情けないけれど、僕もそんな男嫌いだけど、いざ自分に順番が回ってくれば未練に連れられることに今気がついたよ。君の前でかっこつけて言っていたことがフラッシュバックして、全てが後悔に変わるよ。君は大切な思い出と言ってくれたけど思い出じゃ嬉しくなかった。過去じゃなきゃ嫌だった。そんな自分が一番嫌だった。

商店街の真ん中。道行く人々は僕を邪魔そうに避けていく。誰もが僕より幸せだ。そうとしか思えない。それが虚しい。

君に背を向けて歩いていく。お互い、お互いから離れていくという点では同じだけど君は希望に向かってる。僕は希望に背を向けてる。それは確かだ。

あぁ。離れてく。君から。

希望なんてのは初めからどうでも良かったけど君に背を向けるなんて絶対にしたくなかったのに。君はそれを僕に強いた。

目尻を通った汗は口に入り塩っぱい。

まるで夢でも見るように、僕らの始まりが目の前に映る。この商店街、あのコロッケ屋さんで僕は君と…。涙で歪んだはずの景色は鮮明に。

君はあのとき言ってたんだ。確かに。

「これからのことなんてわからない。けど、今はとても好きです。」って。

あぁ、辛いなぁ。

コロッケ屋さんの前の親子が、今晩のおかずを選んでる。そんな幸せそうな光景が好きで、でも憎くて。せっかくならメンチカツを一つ買おうと並んでいると、パタパタとサンダルの足音。君のに似てて、振り返ると知らない人が。目があって涙目を見られたときに、

「こんにちは。」

と心配そうに声をかけられた。

なぜだかその声がひどく優しく響いた。

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