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オレと生徒は1歳差!?  作者: 谷 透
第1章:【共通編】春から夏まで
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第4話 アカデミーサイゼリア結成!

5.生徒ファイル④ アカデミーサイゼリア結成!

水谷由香センセイは、塾だけでなく大学でも目立つ存在だ。

彼女は、オレと同じ大学の経済学部3年生。つまりオレの"2個うえ"。


学部もオレと一緒だから専門科目の授業とかでカブるときもたまにあるのだが、

その時の彼女は、まるで教室のよどんだ空気を一瞬で取り払うような気がして・・・。

その長身から醸し出される21歳とは思えないオトナな雰囲気と弱めの香水に夏の訪れを感じる、、ってな。

いつになく詩人になっちまった。


ともかく、そんな"お姉さん"は多摩ゼミではバイト講師の一番の古株で、

おもに中学英語を担当し、時には数学のオレと一緒に高校生担当としてタッグを組んでいた。

高校生の男ドモも水谷センセイにはタジタジで、

安藤たちも、いつものオレに対する減らず口は彼女の前では閉口するしかない。

でも、やつらは自分と4つしか歳が離れていないことはもちろん知らない。

それがこの塾の"掟"だからね。。



梅雨が明けて、学校は夏休み。

オレもこの仕事に慣れてきたころ、

先輩センセイからは「地獄」といわれる夏期講習が、始まった。


夏期講習では、

生徒ひとり当たり前期5日、後期5日が割り当てられ、

小学生から高校生まで全70人を12人の講師総出で担当するわけだ。

朝は8:30から夜は21:00まで、

労働基準法そっちのけでフルに時間割が組まれる。

まあオレたちバイトの講師が社員の給料を上回ることもあるらしいから、

若いからこそできるっつうことか・・・。


高校部を担当するのは、

英語の水谷・辻田、数学・物理・化学の新藤つまりオレ・町村、

現代文・古文・漢文の坂口、地理・世界史・日本史の江崎の6人だ。

地学とか倫理がないのはまあ生徒がいないってことで(汗)


生徒は18人、うち受験生として全面バックアップをしないといけないのが5人。

2人が国立・早慶、2人が中堅私立、1人が短大を志望している。



「よし、じゃあ夏期講習初日だけど前半戦がんばろうぜ!」

「うん」

「よろしくっす~」


オレが19:45~21:00の最終コマで担当するのが、

中学3年生の中谷ヤスオと、高校3年生の大村ユキだ。

教科は両方とも数学。

学年が違っていると、植村と小杉コンビみたいにまとめて指導できないから

2倍の体力を消耗するのだが、中谷・大村コンビは嫌いじゃない。


この二人を受け持つのは夏期講習が初めてではなく、5月からの付き合いだ。

まだ垢ぬけていない純朴な少年の雰囲気を残しつつ、遅めの反抗期をこじらせている中谷。

「えぇ、こんなに宿題あんの?学校のもあるんだぜ?減らしてくれよ~

 そうそう、オレの学校の野球部、西東京大会で決勝まで進んだんだぜ!」


「お!すごいじゃ~ん!ってことは、応援が大変ってわけだ。がんばれトランペットボーイ(笑)

 たしかに新藤センセイの宿題なんてやってる場合じゃないね。

 吹奏楽部の応援練習も受験勉強もがんばるんだよ~よしよしっ」

「やめろって!・・・フンッ」

こうやって見ていると仲がいい姉弟だ(笑)

大村は夏服の襟元をパタパタさせながら、オレを真ん中において中谷をからかっている。

彼女は、地元のトップ都立高校にいて、国立を狙っている。つまり、オレの大学をだ。

そして、当然彼女はオレがその大学の1年生で、歳も1才しか違わないことも知らない。

もしかしたら同い年かもしれない、オレは早生まれだから・・・。


彼女は同年代、ってか、"ほぼタメ"のオレから見ると、

癒し系でいて芯の強さをどことなく感じる女子高生だ。

いつも赤い頬をふっくらさせて犬みたいなかわいさがある。そんな、生徒だ。

いかにもお姉さんっぽい雰囲気に、同僚の町村も「あいつに手を出すなよ」とか言ってくる。

まったく・・・、生徒と付き合うとかいつのトレンディードラマだっての。


ふと、去年の高校生活を思い出す。

(あ、またこのフラッシュバックだ・・・)



・・・夕焼けに染まる一面の稲。

・・・それを放課後の教室から仰ぐオレと一年下のちっこい生徒会長。

(なんだが私たち青春してますね・・・

    来年にはこの瞬間がもう思い出になってるんでしょうね・・・)



「・・・センセイ??ねえセンセイ?この証明は合ってるかな?」

大村から軽く腕をゆすられた。お、おうと答えたオレはそれが精いっぱいだった。

「・・・もう、センセイ朝から働きすぎなんじゃない?(微笑)」

微笑んでいるオレの左隣の大村と居眠りしている右隣の中谷。


この最終コマは教室にも生徒はまばらだ。

なぜかこの瞬間が、とてもいとおしく感じるのだった。


~しばらくして~


「おーい、もう教室しめるよー」

水谷センセイがコンコン、と個別指導教室のガラスをたたいた。

既に終業時刻を回って、21:30になろうとしていた。


「あ、すまん、キリがわかるかったから続けてたらこんな時間に。。」

と、オレは二人に手を合わせて軽く謝ったと同時に1日が終わったことにホッとした。


けど、甘かった。


こんな時に限って、お二人ともやるきマンマンで・・・。


「えーー、オレまだ学校のほうの宿題が進んでない!」

「うん、私ももうすこし今日はがんばりたい気分だなあ・・・」


~15分後~


「わーーい、フライドポテト!」

「センセイ、オレ飲み物取ってくるから、何がいい??」

って、いつのまにかファミレスにいる、オレと大村と中谷。

大村はにやにやしながら参考書をおもいきりテーブルに広げている。

「いやぁ、塾と違って広くていいわ~」

ドリンクバーから帰ってきた中谷に至っては、

遠足のようにはしゃいでいる。


どうしてもっ!!、という二人に根負けして、

「絶対ご父兄や塾には内緒だから」という約束で、

多摩ゼミとは駅の反対側の適度に人が多いファミレスで、

教室を閉めたあとに落ち合うことにしていたのだ。


二人とも受験生なのだが、そのあたりの正当性はあるのかもしれないが、

オレがつきあう義理は本当はないはずだ。

中谷は昼は部活で消化できない学校の宿題を、

大村はここのほうが集中できる、ということらしい。


ま、オレも大学1年でこいつらとも5つも離れてないんだし、

友だちって整理でつきあってやっかなあ。


これが新藤センセイの延長ゼミナール、

「アカデミーサイゼリア」の結成となったわけだ。


~教室を出る水谷由香~


私は、今日一日の生徒との授業を思い返しながら駅に向かっていた。

(それにしても、授業中にあの居眠りっぷりはないわよね、新藤クン(微笑))

クスンと微笑んだその視線の先に急ぎ足で駅の反対側に消えていく新藤クンがいた。


(あら?電車に乗らないのかしら?)

追いかけようとしたけれども、夏本番の夜の熱気に私の気力はもう残っていなくて。


(まあ、飲み会かなにかかな。遅刻するんじゃないですよ~)

と心の中で手を振りながら改札口に向かった。

熱帯夜の暑さにあたって、もうちょっと爽やかな香水に変えてみようかな・・・

ふと、そう思った水谷由香だった。


(6.高校生のオレと事象の地平面に続く)

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