少年の夢
猫は思った。
この鍵はあの人間の子供の大切なものなんだな。と。
そこで猫は鍵を人間に返してやることにした。
猫は鍵をくわえて、先ほどの少年を探し始めた。
とはいっても森は広いので、仲間を呼んだ。
シャケ、マグロの兄弟猫、この森に住み始めてから知り合った奴らだ、
自分の名前を自分の好物にしている。
よお、アッネコダ、呼んだかい、アッネコダ。
とマグロが言った。
そう、僕の名前はアッネコダという、人間が僕を見るとアッ!ネコダ!、と口をそろえて呼ぶので、
僕の名前はアッネコダになった。
この鍵の持ち主を探してるんだけど、手伝ってくれない?
わかったぜ、見つけたら鳴いて知らせるわ。
とマグロは言って行った。
そしてマグロに黙ってついてゆくシャケ。
アッネコダはマグロたちとは反対側を探すことにした。
一方、
少年は、寝ていた。
探し物は向こうからやってくるのよ。
と母が教えてくれたことを思い出しながら森の中で寝ていた。
ブルーノ、よくお聞きなさいね。
この鍵は、どんな扉も開けることが出来るの、
母の言葉だ、鮮明に聞こえる。
夢を見ているのだろうか。
だから間違ったことに使えば、恐ろしい罰が下されるのよ。
間違ったことってなに?
僕が尋ねている。
泥棒をするために使ったり、とかね。
母は何か隠しているようだった。
言葉を選んでいるような。
なのでべつのことを聞くことにした。
恐ろしい罰ってなに?
その人にとって最も辛いことを受けさせられるのよ。
今度は、何も隠してないようだった。
じゃあ、
それじゃあ、母さんが突然いなくなったのは、
罰を受けたってこと?
間違ったことをしたってことなの?
僕が訪ねる。
母さんは、何も喋らなくなった。
母さんがいなくなってから僕は一人だ。
母さん、さびしいよ。
ずっと一人なんだよ。
帰ってきてよ。
どこに行ったの。
鳴き声が聞こえた。
猫の鳴き声。
さびしい。さびしい。
自分の体を丸めて、小さくなる。
猫の鳴き声が聞こえる、
とてもさびしい猫の鳴き声。
体を丸めて、鳴いている、
母さんをさがして鳴いている。
顔に妙な感触があった。
顔をさすられているような、
いや、顔を舐められている?
少年は、ハッと目を覚ました。
涙が出ている。
夢を見ていたみたいだ。
猫が、僕の顔を舐めていた。
あっねこだ、と思った。
ゆっくり身を起こした。
なんの夢を見たのか思いだせない。
だけど悲しく感じたのはわかる。
猫が鳴いていた。
鳴き声、夢のなかで聞いたような気がする。
ふと、二匹の猫が僕にすり寄っていた。
人懐こい猫だ、と少年は思った。
悲しい夢を見るとなんだか疲れた気持ちになったので。
少年は、もう一度横になった。