(8)「道:B」完
たどり着いた、俺が出来たこと。
蝉が五月蠅いのどかな田園風景と見慣れた田んぼ道。
「地元に帰るのも久々だなぁ……。」
俺は今でも、あの時の事を覚えている。あの夏の出来事を。
駅に着くと俺はIDカードを認証させて自動改札機を出る。
出た先には自動運転車が待ち構えていたのでそれに乗る。
「行き先は、GPSで設定した場所まで。」
『了解しました。安全運転にて走行します。』
抑揚のない声が天井から聞こえて、車が動き出す。
行先は自分の住んでいた町。彼の居た場所。
暫く乗っていると、幾つもの高層ビルが立ち並んでくる。
この駅までと、駅前はあくまで観光客向けの仮の姿。
実際には開発が進んで、この辺りのビル群がメインのオフィス街。
俺が住んでいた所は、そのオフィス街から少し外れた場所。
彼が住んでいた山も森も切り開かれてしまった。何も残っていない。
この姿を見たら、彼は何て言うのかな。
あの時と同じように寂しい目をしているのだろうか。
それとも俺を笑顔で迎えてくれるのだろうか。彼はもうソコには居ない。
『到着しました。ご利用ありがとうございました。』
広い公園。真ん中に湖。周囲には樹が生い茂っているが、しっかり整備されている。
ランニングコースもある。一面芝生の場所の一角にはドッグランの囲いもある。
公園の周囲にはタワーマンションも多く存在していて、住人の憩いの場になっている。
ココが、彼の居た山だった場所。神社も階段も鳥居も、もう存在しない。
こうなることは分かっていたつもりだが、現実を見るとやはり寂しくなる。
夏祭りの事を思い出す。最初で最後の地元の夏祭り。
祭りの後、親戚の家にも行って資料を探した。
蔵の中も探したのだが、あの山の話が見つからなかった。
俺が悪かった訳でも、誰が悪かったとかでもない。
元々決まってたことを覆そうとはしたんだ。でも、できなかっただけなんだ。
「ごめんな……。」
つい口に出てしまった。涙は必死にこらえる。
割り切ろうとしても、やっぱり割り切れない。拳にも力が入る。
だけどココに留まってたら、彼にも笑われる。
俺はその公園の中心に礼をした。彼はもう居ないのだけれど、そうしたかった。
そして背を向けて帰り始める。
「あー、酷いなぁ。オヤシロが無いからってそんな適当な事する子だなんて、
思ってなかったのになー。残念だなー、お兄さん。」
「……え?」
振り向いたが何も見えない。一通り周りを見回しても見たが、特に変わった様子は無い。
「神社が無くなったら、流石にヤバいかなーって思ってたんだけど。
キミがボクの事を忘れないでくれたから。何とかこんな感じ。
土地の『守り』もしなくなったから、好きなところへ行けるようになったかもね。」
空から俺の身長の半分くらいのサイズで彼が現れた。
「やぁ、久しぶりだね。何年ぶりだろ。十年くらい?」
「それくらい、かな……。あの後、俺はココに来るのがずっと怖かったから。」
目の前の彼を抱きしめようとしたが、出来なかった。
「あれ?」
「うん、そう。神社がなくなった事でのデメリットがこれ。
触れたり触れなかったりする体になっちゃったんだよね。
神通力も弱くなったし、力を使えば触れるようにはなれるんだけど、
それですら長くは出来なくなっちゃった。姿を現すのは、今のトコは無理かな……。
あ、もちろんキミには見えてるんだけどさ。」
「……そうなんだ。良かった……。」
膝から崩れ落ちて、涙が溢れてくる。彼は物凄い慌ててボクを笑わそうとする。
「えっとね! ボクはもう、この土地に縛られてないんだよね。
その……キミと一緒にどこにでも行けるんだよ。本当にどこにでも。
神通力がもう少し回復とかしてくれれば、いろいろ出来るんだけどさ。」
「うん、うん……。」
「だからさ……もう、泣かないでほしいな。ボクとキミは一緒に居られる。
ボクはキミと一緒に居たい。ダメかな……? ボクのワガママ。」
「断るわけが無いじゃないか。」
「なら良かった。じゃあ……その、スマホに付いてる鳥居のストラップ借りていい?」
「何をするんだ?」
「簡単に言うと『依り代』って奴になるかな。今のままだと結構ギリギリなんだよね、色々と。
だから、物を依り代にすれば少しはマシになるし安定させられるの。
まだまだボクはキミの傍に居たいから。」
そう言って鳥居のストラップの中に吸い込まれた後、そこから出てきた。
「これで良し。改めてよろしくね、大好きだよ。」
「俺も。」
「じゃー、まずはキミの家を拝見しに行こうかー!」
「ノリノリだな。」
「え、だってずーっとボクは待ってたんだよ、ココで。
嬉しいに決まってるじゃん?」
「俺はずっとずっと悩んでたし後悔してたけどな。」
言いながら俯く俺の顔を、彼はのぞき込んで笑った。
=完=
これで、この話(B)も終わりです。
「道:B」の方はもう少しバッドエンドっぽくする予定もあったのですが、止めました。
何か良心が許さなかったので。バッドエンド書くのも難しいものですね。




