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夏の思い出  作者: 凡。
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9/9

(8)「道:B」完

たどり着いた、俺が出来たこと。

蝉が五月蠅いのどかな田園風景と見慣れた田んぼ道。


「地元に帰るのも久々だなぁ……。」


俺は今でも、あの時の事を覚えている。あの夏の出来事を。


駅に着くと俺はIDカードを認証させて自動改札機を出る。

出た先には自動運転車が待ち構えていたのでそれに乗る。


「行き先は、GPSで設定した場所まで。」

『了解しました。安全運転にて走行します。』


抑揚のない声が天井から聞こえて、車が動き出す。

行先は自分の住んでいた町。彼の居た場所。

暫く乗っていると、幾つもの高層ビルが立ち並んでくる。

この駅までと、駅前はあくまで観光客向けの仮の姿。

実際には開発が進んで、この辺りのビル群がメインのオフィス街。

俺が住んでいた所は、そのオフィス街から少し外れた場所。

彼が住んでいた山も森も切り開かれてしまった。何も残っていない。


この姿を見たら、彼は何て言うのかな。

あの時と同じように寂しい目をしているのだろうか。

それとも俺を笑顔で迎えてくれるのだろうか。彼はもうソコには居ない。


『到着しました。ご利用ありがとうございました。』


広い公園。真ん中に湖。周囲には樹が生い茂っているが、しっかり整備されている。

ランニングコースもある。一面芝生の場所の一角にはドッグランの囲いもある。

公園の周囲にはタワーマンションも多く存在していて、住人の憩いの場になっている。

ココが、彼の居た山だった場所。神社も階段も鳥居も、もう存在しない。

こうなることは分かっていたつもりだが、現実を見るとやはり寂しくなる。


夏祭りの事を思い出す。最初で最後の地元の夏祭り。

祭りの後、親戚の家にも行って資料を探した。

蔵の中も探したのだが、あの山の話が見つからなかった。

俺が悪かった訳でも、誰が悪かったとかでもない。

元々決まってたことを覆そうとはしたんだ。でも、できなかっただけなんだ。


「ごめんな……。」


つい口に出てしまった。涙は必死にこらえる。

割り切ろうとしても、やっぱり割り切れない。拳にも力が入る。

だけどココに留まってたら、彼にも笑われる。

俺はその公園の中心に礼をした。彼はもう居ないのだけれど、そうしたかった。

そして背を向けて帰り始める。


「あー、酷いなぁ。オヤシロが無いからってそんな適当な事する子だなんて、

 思ってなかったのになー。残念だなー、お兄さん。」

「……え?」


振り向いたが何も見えない。一通り周りを見回しても見たが、特に変わった様子は無い。


「神社が無くなったら、流石にヤバいかなーって思ってたんだけど。

 キミがボクの事を忘れないでくれたから。何とかこんな感じ。

 土地の『守り』もしなくなったから、好きなところへ行けるようになったかもね。」


空から俺の身長の半分くらいのサイズで彼が現れた。


「やぁ、久しぶりだね。何年ぶりだろ。十年くらい?」

「それくらい、かな……。あの後、俺はココに来るのがずっと怖かったから。」


目の前の彼を抱きしめようとしたが、出来なかった。


「あれ?」

「うん、そう。神社がなくなった事でのデメリットがこれ。

 触れたり触れなかったりする体になっちゃったんだよね。

 神通力も弱くなったし、力を使えば触れるようにはなれるんだけど、

 それですら長くは出来なくなっちゃった。姿を現すのは、今のトコは無理かな……。

 あ、もちろんキミには見えてるんだけどさ。」

「……そうなんだ。良かった……。」


膝から崩れ落ちて、涙が溢れてくる。彼は物凄い慌ててボクを笑わそうとする。


「えっとね! ボクはもう、この土地に縛られてないんだよね。

 その……キミと一緒にどこにでも行けるんだよ。本当にどこにでも。

 神通力がもう少し回復とかしてくれれば、いろいろ出来るんだけどさ。」

「うん、うん……。」

「だからさ……もう、泣かないでほしいな。ボクとキミは一緒に居られる。

 ボクはキミと一緒に居たい。ダメかな……? ボクのワガママ。」

「断るわけが無いじゃないか。」

「なら良かった。じゃあ……その、スマホに付いてる鳥居のストラップ借りていい?」

「何をするんだ?」

「簡単に言うと『依り代』って奴になるかな。今のままだと結構ギリギリなんだよね、色々と。

 だから、物を依り代にすれば少しはマシになるし安定させられるの。

 まだまだボクはキミの傍に居たいから。」


そう言って鳥居のストラップの中に吸い込まれた後、そこから出てきた。


「これで良し。改めてよろしくね、大好きだよ。」

「俺も。」

「じゃー、まずはキミの家を拝見しに行こうかー!」

「ノリノリだな。」

「え、だってずーっとボクは待ってたんだよ、ココで。

 嬉しいに決まってるじゃん?」

「俺はずっとずっと悩んでたし後悔してたけどな。」


言いながら俯く俺の顔を、彼はのぞき込んで笑った。


=完=

これで、この話(B)も終わりです。


「道:B」の方はもう少しバッドエンドっぽくする予定もあったのですが、止めました。

何か良心が許さなかったので。バッドエンド書くのも難しいものですね。


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