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夏の思い出  作者: 凡。
7/9

(7)「祭り、そして決断」

楽しい時間の終わり。

これからを、未来を、決める決断。

夏祭り当日。祭りの屋台の所は通り過ぎ、俺は神社に急いだ。

拝殿を抜け本殿まで来たが、あいつの姿が見当たらない。

大狼像の近くにも居ない。周りを見渡してみたが、近くに居る気配もない。


「あれ?居ない……。」

「いるいる。ちょっと待って、祭りなら祭りで用意があるからー!」


大狼像の部屋の外の廊下に居たのを見つけると、

目の前で風が巻き起こり、そいつの姿が変わった。


「これでよし。」

「なぁその服なんて名前なんだ?」

「これはね。『常装』っていうんだ。

 普段着みたいなものなの。神主さんも普段はこんな格好になるんだよ。

 今までボクが着てた正服は、本当は大きな祭事の時に着る服なんだよね。

 後は、年始の1月1日に着る『礼装』っていうものもあるよ。」

「正服より動きやすそうだな。」

「そうだね、こっちの方が普段から着る奴だから。」


説明しながら、くるっと一回りして見せてくれる。


「じゃ、お祭り行こうか?」

「んー……見えないままでもいいのか?」

「うん、キミと行ければそれでいいよ。

 ボクの事が見えなくても、皆もキミも楽しんでくれればいいの。」


大きなままで座りながら俺の方を見上げ、ニコッと歯を見せながら笑ってくる。

尻尾もゆっくり左右に揺れている。


「そういうのがズルいよな。」

「何か言ったー?」

「何でもない。」


何度も、ねぇねぇと聞いてくる声を無視して祭りをしている場所へ向かう。

屋台があるところまで戻ると、既にかなりの人が集まっていた。

こんなに人が多いのはこの町では初めて見たかもしれない。

歩けないほどの混み具合ではないが、通るのに難儀するくらいではある。

人にぶつからないように歩くのは無理だな。


「スゴイ、人の量だねぇ。」

「そうだな。こんなのは初めて見た。屋台の中身は……っと。

 たこ焼き、お好み焼き、リンゴ飴……いつもの隣町の祭りと同じ感じなんだな。」

「そうなの? ボクは隣町に行った事無いから知らないけども。」

「うん、大体こんな感じ。クレープとか、ベビーカステラとかは、無いかな。」

「あそこに見える奴? そうなんだ。」


あとは屋台を見ながら、説明したり買い食いしたりして、一通り眺める。

少し多めに買っておきつつ、祭りは盆踊りが始まる頃に、俺は神社へ戻り始めた。


「あれ、もういいの?」

「ああ。お祭りも大事だけど、さ。」


本殿に戻り、大狼像の前へ祭りで買ったものを供える。


「久々にお供え物もらえた……。」

「そうか。」

「ありがとね。」

「うん、一緒に食べたかったから。」


供え終わったら、俺はそれを食べ始める。食べ終わる頃には、

遠くの祭りの音が小さくなってきており、祭りの終りが迫ってきていた。


「お祭り、終わっちゃうね。」

「出来ただけでも……とは言いたいけれど。」


やっぱり、このまま全てを終わらせたくはなかった。

役所の人たちの言葉を思い出す。何か言ってたような……。


「キミは、ニンゲンなんだから、ボクの事は気にしなくても良いんだよ。

 ボクはキミの先祖のヒトに助けて貰って約束をしただけの事。

 キミが責任を感じる必要も、頑張る事も無いんだよ。

 ほかの人に任せたって良いんだ。

 ボクとキミの生きる時間は一緒じゃないんだし。」

「だけど、俺は……。」

「うん、ボクはキミが好きだし、キミは好きって言ってくれた。

 それはとても嬉しい。だけど気持ちだけに流されちゃいけない。」


白い手が優しく俺の頭を撫でる。暖かくてフワフワした毛が心地いい。


「キミの事は、キミが決めていいんだよ。

 ボクは……今だけは、キミの為に居るんだから。」


優しく笑うそいつの顔は少し悲しげで、俺は涙があふれてきた。

その様子を見て、優しく抱き寄せられる。

そのまま胸元に埋まっていると、ちょっとだけ顔を上げさせられた。


「ホントは、キミをカミサマの世界に連れ去っちゃおうかとかも考えてたんだけど。

 それは止めた。だって、キミの意志じゃないもの。ボクはキミを奪えても、

 キミの気持ちを無視したくはない。だから、ココまで。」


そう言って、まっすぐ見つめたまま、優しくキスをする。

そいつを掴んだ俺の手にも力がこもる。

暫くしてから口を離し、独り言のようにそいつは呟く。


「『これから』の事も含めて、キミはどうしたいんだい?」

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