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夏の思い出  作者: 凡。
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(6)「前日」

今できる、せめてもの想い。

ちょっと時間が過ぎて、夏祭り前日。


「あ、君たち。よく来たね。

 今日は夏祭りの設営の手伝いをして貰うよ。

 大きい荷物とかもあるから、一人で持たないようにね。

 無理そうなら大人にも手伝って貰って。」

「はい、わかりましたー!」


各々がテントの設営部品や折り畳み机を持って準備をし始める。


「夏祭りかぁ、どんなのになるんだろうなー。」

「聞いた話だと屋台も出るらしいぜ。」

「いつもは隣町まで行ってたしな。そういえば、今年はいつだっけ?」

「近くなると、のぼり旗出てるんだけどな。まだなんじゃねぇ?」


屋根部分だけ組み立てて準備を進めていく。当日になったら設営するが、

それまでは危なくないようにこうするのが普通らしい。

雨対策として、折り畳み机と椅子はテントの中に揃えておく。

電灯や提燈は脚立を使いながら揃えていき、電気が通るかだけ確認する。


「会場自体って、役場の前の広場でいいのか?

 祭りっていうくらいだから、神社の近くなんだと思ってた。」

「神社の近くまで屋台は出るらしいけど、祭り自体はこのへんなんだってさ。

 なんでも神社から見えるこの位置でやるのが記録にあったんだと。」

「そうなんだ。」

「あとは……予算の都合ってのもボヤいてたなぁ。

 急遽開催決定したようなもんだから、予算案作るの厳しかったとか。」

「そりゃそうか。まずは感謝だな。夏祭り開催までこぎつけたわけだし。」


俺らも一緒に大人たちにお願いはしたけど、決めるのは役場の人だし。

それからしばらくして作業も進み、一通りの準備は終わった。


「もう君たちは先に帰ってて良いよ。後は大人たちでやっておくから。

 明日はゆっくり夏祭り楽しんでね、こっちの手伝いは大丈夫だから。

 片付けの時に来てくれると嬉しいな。」

「はい、お疲れ様です!」


まだ昼を少し過ぎたころだったので、俺達は家に帰る事にした。


「じゃ、また明日な……っていってもバラバラに行くんだよなぁ。

 親とかも居たりするし。」

「ある意味、初めての地元の祭りだし、仕方ないんじゃね?

 お前は良いよなぁ、神社のオオカミも見えて、

 明日はたまたま親が帰ってくるのが遅いとかさ。」

「本当にたまたまだしな。それを羨ましがられても……。」

「ま、いいや。また終わってからなー。」


俺は家に帰って昼飯を食べ、特にやることも無いので神社に向かった。

階段の下の鳥居の傍にちょこんと座ってあいつが居た。

今日はもう小さい姿ではなく普段の大きなオオカミの方の姿だった。

すぐにこちらに気付いたようで駆け寄ってくる。


「あっ!お兄さんこんにちわ。」

「う、うん、こんにちわ。」


少し気まずい。風呂場の出来事から今日まで、神社を避けていたから。


「あー、よかった。嫌われちゃったかと思ってたんだよね。」


言いながら階段に座ってこっちを見ている。

近くまで行ってから、少し頬を掻いて俯く。


「その……ごめん。」

「いいよ。ボクが急に行ったんだし、キミの事考えてあげれてなかったんだから。」


俺もそのそばに座って、階段から役所の方を見る。


「……夏祭り、やってくれるってさ。」

「うん、知ってる。よかった。後は、キミたちがどうしたいのか、だね。

 ボクが居なくてもいいのか、それとも、ここを残してボクが守るのか。

 ボクもね、良く分かんなくなってきちゃったんだ。

 確かに昔の主との約束はあるから守りたいんだけど……。

 ボクは『カミサマ』だからさ、必要とされないとダメなんだよね。

 多くの人の願いや想いが無いのなら、此処に居られない……。」

「……俺は、居て欲しいけど。」

「それは、キミの『想い』だね。ありがと。

 初めて素直な気持ちが聞けた気がする。」

「うっせ、もう言わない。」

「あー、そんなぁ。もっと言っていこう?

 ボクに『心残り』とか作らせていこう?」

「なんでそうなるんだ。」

「そうしたら、もしかしたら、ボクがココに残れるかもしれないじゃん?」

「じゃあ……これでどうだ?」


そう言って俺は、階段から立ち上がり、そいつの頬にキスをした。

そいつの尻尾が真上に上がったのを見ると、相当ビックリしたようだ。

何か言い始める前に俺は階段を駆け上がる。


「え、ちょっと待って! 嬉しいけど何か違う! もう一回!」

「聞こえなーい!」


階段を駆け上がる俺の隣をそいつは飛んで追いかけてきたけど無視する。

一番上まで駆け上がったら流石に息が切れたので、

そのまま大の字に仰向けになって息を整える。


「いきなりキスとか……。最近の子はそういうもんなの?」

「何か言い方が古臭いな。」

「古臭くてもいいよ。」


そいつは俺の上に被さると軽く口付けして、俺を見つめた。


「『カミサマ』がこんな事言っちゃいけないんだけど。

 ……好きだよ。最初に会った時から。

 ボク、消えたくないよ。キミと一緒に居たい。」


俺は白い毛に埋まりながら、両手を広げて抱きしめた。

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