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竜の子とともに  作者: 眠々
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8話 冒険者

8話完了です。お待たせしました。


今回ちょっと急展開です。


~ミレイ視点~



 あれから、風によって飛ばされた荷物の捜索をしてみたのだが、魔術師のコールが動けない為、近場の捜索のみにして切り上げた。

 このパーティーの眼として行動を左右するシーフのライムによって指示された、簡易的な拠点、活動する範囲を決め、ライムにコールの護衛を任せてきた。

 そして現在、私は食料の調達の為、闘士のガルドと共に、森の入り口付近で何か食べる事が可能な物を探している。


「ミレイ、これなんかどうだ?綺麗な色してるじゃねーか」


 ガルドの手に握られている茸?の様な物体を見て顔が引き攣る。


「・・・ガルド、どうだ?って事は、それが食べられる物か、って聞いてるの?」


「ん?そりゃそうだろ、食料調達に来てんだぞ俺らは」


「・・・はぁ」


 傘の部分は紫色、下は真っ黒だ。とても食べられる様な代物とは思えない。


「ガルド、何でもいいって訳じゃないのよ。荷物が無くなった今、毒なんて受けたら目も当てられないわ」


 そこ、首を傾げるな。傘の部分に触るな。何か黒い煙みたいなの吹いてるから、お願い止めて。


「だがよぉ、正直、俺ぁ野草に詳しくねぇ。連れてくるならライムの方が良かったんじゃねぇか?」


 食料の調達を優先するのであれば、確かにガルドの意見も尤もである。だが、コールの事もある。


「忘れたの?コールの意識が無い事。ライムを待たせたのは、彼女がこのパーティーで、一番気配に敏感だからよ。ガルドは、一番そういうの、察知するのが苦手でしょう?」


「だがなぁ・・・このままじゃ今日は飯抜きだぜ?」


「わかってるわよ・・。だから、今も必死に探しているんじゃない」


 正直、私もそこまで野草に詳しくはない。子供の頃からずっと剣ばかり振っていた。他の事に脇目も振らず、ただ只管に。

 だから、冒険者になりたての頃は、よく箱入りだと馬鹿にされた。

 そういうのとは違うのだが、普通の子は外に出て、年長者に連れ添ってもらい、少しずつ、活動範囲を広げながら子供の出来る範囲での仕事なんかを教えてもらうらしい。

 私が箱入りだと言われたのは、初めての野宿で自分が何をするべきなのか、一切がわからなかったからだ。


「まだまだ、勉強不足かな」


「ん?なんか言ったか?」


「いいえ、なんでもないわ。・・私がライムと変わるわ。彼女なら、短時間でも今の現状を打開できると思う」


「しゃぁねぇか。幸い、まだ夜にはならないしな。そうと決まれば早いとこ戻ろうぜ」


「ええ」


 二人揃って収穫ゼロ。ライムに叱られるだろうか。まあ、素直に叱られよう。

 それと、帰ったら今回必要になった知識も教えてもらおう。


 その時だった。

 森の中からの気配。ガルドの事を言えたものじゃなかった。私も、気配に敏感な方ではないようだ。


「俺が前衛、お前はバックアップしてくれ」


「わかった、タイミングは任せる」


 ガルドは拳を打ち鳴らし、私はゆっくりとした動作で愛用の剣を抜く。

 緊張する。ここは試しの森。許可証を得た冒険者にとっての最初の関門だ。魔物自体は普段から見かける物だが、油断は出来ない。


「くるぞ!」


ガサッ!




「ん?」


 出てきたのは魔物ではなく、背に少女を背負った、私と同年齢程の女性だった。


















~ファルミア視点~


「うおおぉぉ・・・・おかしいだろぉ・・・・」


(主様、お気を確かに・・・・!


 ステータスはレベルが上がれば上昇する。それは当然の事だ。

 だが上昇量がおかしい。CHAの値こそおかしかっただろうが、他の項目はそれでも3桁、4桁だったはず。

 それが今は全項目5桁である。もはや能力値だけ見れば完全に人外の仲間入りだ。


「しかもなんだこのスキルは・・・嬉しいけど、あぁくそ!」


 確かに、魔導の極致は欲しいと思ってはいたが、まさか初戦闘クリアで習得するとは思う筈がない。

 それに付随しての神器生成のスキル。言葉に出来ない。嬉しいのだが。


「・・・いや、もう悩んでもしょうがないな。俺は竜だ。竜なんだからな」


(主様・・・とうとう現実逃避を・・・)


「いや、違うからね!現実逃避とかしてないからね!自分を見つめ直す良い機会だったよ!!」


 正直、もう加護の項目の時点でおかしいのだから、これ以上どうなろうともう考えない事にしよう。


「・・さて、じゃあ聖女を探すか」


(・・・はぁ、ここから真っ直ぐ行った先にいます)


 あれ、なんか溜息着かれた?気の所為?


 暫く更地となった森だった場所を歩くと、丁度俺の後ろにあった木は無事だった様だ。

 木の根元に聖女は倒れていた。


「うーん・・・助けたはいいけど、この子、どうするかなぁ」


 明らかに何か、陰謀というか、そういう流れを予想してしまう。


「白水、聖女の呪いって俺に解けるのか?」


(わかりません。魔族とは私もあまり関わりがありませんので・・・)


「・・まあ、ここに置いていく訳にもいかないし、とりあえず教国までは運ぶか」


(主様、先に人の形にお戻り下さい)


「おっと、忘れてた。・・しかし、聖女が起きたとき、見ず知らずの男に背負われてるのも怖いだろうな」


(たしかに、まだ子供ですし、気を失う前の状態が状態でしたからね)


「・・オークに食われそうになったと思ったら、さらに竜が来た、だもんな。そんなの俺でも気を失うわ」


(主様が普通の竜に恐れるとは思えないのですが・・・)


「例えだよ、比喩。まあ、やりたくはないが、仕方ないか」


(どうなさるのです?)


「竜に性別はないんだろ?だったら、女性の人型になればいいんじゃないか?」


(なるほど、なるほど・・・・)


「疚しい気持ちはないからな!?誤解しないで!?」


 白水がちょっといじめるんだけど、あれ、俺主様なんだよね?


「ふぅ、じゃあイメージ、っと」


 変化の術は人型になるだけが総てではない。自分の想像する通りの姿となる事が可能なのだ。

 ただ、それには正確なイメージを意識の外に抽出する必要がある。

 俺の男モードのイメージは中学生頃の俺だ。あの頃は若かった・・・。


「そういえば、この世界に黒い髪って珍しいか?」


(そうですね。人族の中では、ほぼ見かけないかと思います)


「じゃあ、まあ、こんな感じでいいか」


 ぽふん、という音と共に煙の様なものが自分を中心に広がる。

 決して、頭に葉っぱを乗っけている等という事は無い。


 現れたのは、金を薄くした、白に近い髪に、翠の瞳の20代前半の女性。

 特徴的な長く尖った耳をしており、身長もそこそこ高いだろう。

 装備は白水のままだが、服は母さんと同じ、着物にしてみた。

 母さんは遊女の様に着流している。本人曰く、この方が楽なのだそうだが。

 俺の場合は特に模様や装飾等を施さず、黒一色。帯は白く、赤い帯締めで止めている。


「よし、いい感じだ。エルフの着物って中々見れないからな」


(エルフはあまり自分達の領域から出ないのですが・・あぁ、そういえば昔、英雄と称された冒険者パーティーの中にエルフがいましたね)


「そうか、なら大丈夫だろう。その英雄に憧れて、っていう理由ならいいんじゃないか?」


(はい、ですが、エルフは基本的に他種族に対し高圧的です。人族にもエルフを好まない者もいるかもしれませんが)


「その辺はまあ、なんとかなるだろ」


(わかりました)


「さて、聖女は・・とにかく傷を治そう。見ていて痛々しい」


 年端もいかない少女が、傷だらけでいるのはとても見ていて辛いものがある。

 衣服は所々が破れ、露出した部分は黒ずんでいる。足も捻っているのか、少し腫れているようだ。


「白水、傷の手当っていうのはどうすればいい?魔法でやるのか?」


(主様、先程取得されたスキルを)


 魔導の極致か。実際、これがどういうものか俺はまだ理解できていない。

 そもそも、自分の持っているスキルはほぼ全て理解していないのだ。


「なあ、スキルってどういうものか説明とかってないのか?」


(?ありますが、何故です?)


 何言ってるんだこの人、という感じで答えが返ってくる。ちょっと、穴があったら入りたい感情に包まれる。

 見れるのであれば簡単だ。とにかく魔導の極致を確認しよう。

 要領としてはいつも通り、説明が見たい、と念じるだけで願いは叶った。若干拍子抜けである。



スキル説明 魔導の極致


スキルランク SS


 基本6属性、無、聖、時、神聖、破壊、禁忌

 上記全ての魔術を取得した者に送られるスキル

 魔術を扱う者としての頂点



 思っていた以上にぶっ壊れていた。しかも禁忌が入っている。極致に達するのに禁忌を犯さないといけないのか・・・。

 とりあえず、全ての魔術が行使できるのなら、聖女の回復についてもクリアできるだろう。


「とりあえず、発動してみるか。魔導の極致」


 スキル名を唱えると、目前に12冊の半透明の辞典の様な厚みの本が現れる。

 各魔術は色で大体は判別できる。一番最後に黒い靄を纏ったのがいるが、絶対に触れてはならない気がするので、見ない事にした。


「本が出てきたんだが、回復するのはどの魔術だ?」


(治療の際に使用する魔術は、基本的に光系統のものです。光、聖、神聖が該当します)


「わかった。それじゃ光魔術で」


 半透明の白い本に手を伸ばし、触れた途端、頭が揺れる。

 膨大な魔術の知識、光の魔術に関する全てが一瞬で俺の頭に流れ込んだ。


(主様・・・?どうなされました?)


「いや、大丈夫だ。元々知識がないと、多分こうなるんだろう」


 抱える一冊の本は半透明ではなく、重さも感じる。普通の、白い表紙の本だ。

 中身を確認するが、既に中身の全てが俺の中に在る為に、頁を捲ってみても全てが空白となっていた。


「よし、あー・・・そうだな、口調も変えておくか。やるのなら徹底的にやらないとな。」


(本来の主様の口調も良いと思いますよ?)


「いやいや、今俺は女だからな。このままじゃまずいだろ。とにかく、聖女を治療するぞ」


 聖女に近付き、傍に片膝を着き、聖女の前に手を翳す。

 徐々に白く澄んだ魔力が集まり始め、掌に暖かさを感じる程になった所で、それを放出する。

 聖女の身体を光が包み、傷の部分に光が集まると、徐々に修復していった。


(無詠唱とは・・、しかも初めての術、ほぼ初級のものでこれ程までの治療をするのですか・・)


「諦めなさいな、私はもう諦めたからね」


(はぁ・・本当に、主様が枠に収まらないお方だと、再認識致しました・・)


「ところで、この口調でどう?問題なさそうかな?」


(あまり今までと変わらないと思いますが、色々な方がいらっしゃいますから、大丈夫ですよ)


「あれ?何だか、今呆れられてるの私?」


(いえいえ、そんな事はございません)


 むっ、と口を尖らせるのだが、それも白水にはあまり効果がないようだ。

 このままでは主としての威厳が、と思ったが、そもそも威厳とは無縁の人間だった俺には、全くそんなものは備わっていない。


「ふふ、初めてですよ、私をここまでコケにしたお馬鹿さんは」


(何言ってるんです?移動しましょう、そろそろ森は出た方がいいですよ)


 肩を落としながら、言われた通り少女を背負い、歩き出す。

 白水、最近ちょっと冷たい。


















 更地部分を過ぎて、また森に入った。

 聖女の身体は軽く、片手で支えているだけでも十分にバランスが取れたので、空いた腕で一冊ずつ、魔法の本に触れていった。

 現時点で俺が使える魔術は、火、水、風、土、光、闇、無、時である。

 時の魔術書に触れた際、大きく身体をよろめかせたので、白水に注意された。

 さすがにこれ程の情報量を一度に多く理解するのは、竜となった今の俺でも負担が大きいらしい。


「うぅ・・・頭痛い・・・」


(1日、しかも数分の間に一介の魔術師が、一生を掛けても覚えられない量の知識を詰め込んだのです。逆に、精神を崩壊させない主様が異常ですよ・・・)


「・・まあ、たしかにそうかもね」


 異常、その言葉はどうも好きになれない。

 否定し様がない事実なのだが、どうしても俺はまだ、人としての俺を捨てきれていないんだと思う。

 人として30年も生きていたのだ。それが、どうして半年竜になった程度で、変われるものだろうか。


(・・申し訳ありません、失言でした)


 どうも、俺は暗い顔をしていた様だ。


「いや、いいんだ。異常なのは確かなんだからね、まあ、乗り越えないといけない部分ではあるよ」


 また暫く歩く。そこで、気配を感じた。近い。

 魔物であれば、相手ももう気づいている筈だ。俺は気配を遮断する力は無い。

 ただ、竜としての存在ではなく、人としてのそれだ。

 魔物が逃げようとしないのも、人間として認識しているのならば頷ける。


 相手は動かない。その場で臨戦態勢で待ち受けている様だ。

 魔物の気配、人の気配。そのどちらも今はまだ判断出来ない。気配を察知する能力もこの世界に来てから、しかも魔物と遭遇したのはあのオークが初めてだ。人間に関しては見た事すらない。

 とにかく今は、聖女を安全な場所に連れて行くのが最優先だ。魔物の一匹や二匹、すぐに片付けてやる。


 そのために、先程まで焦って魔術を覚えていたのだから。


 と、やる気満々で接敵するのだが。


「ん?」


 人だ。男と女。

 男は軽装だが、筋肉質な身体に、手甲を着けている。

 女の方は甲冑を纏い、剣を抜いている。剣士と格闘家ってところだろう。

 両者共に油断の欠片も無く、構えている。


「お前は誰だ。何故、こんな所にいる」


 女の方が尋ねる。いや、尋ねるというよりももっと高圧的な口調で俺に問う。


「この辺で大きな音がしてね。見に行ったらこの子が倒れていたんだよ」


 立ち止まったまま、身体を捻って後ろに背負う少女を見せるのだが、それでも彼等は警戒を解く様子はない。


「ここに一人で入ったのか?その格好で?見た所エルフの様だが、何故此処に?エルフは自身の生活範囲から滅多に出ない筈だが」


「質問の多い子ね。ええ、単独で入った、この格好でね。少々恥ずかしいんだけど、昔の英雄に憧れたクチだよ。外に出ている理由はね」


 漸く警戒を解いたのか、女の方が剣を鞘に戻す。あまり感心する所ではないのだが、男の方は既に警戒を解き、何故か若干顔が紅潮している。


「余程、強いのですね。ここに一人で来るなんて・・・それで、その子は?」


「傷だらけで倒れていたのを見つけたの。もう治療は魔術で終わらせたから、後は意識が戻るのを待つだけ」


「魔術師の方が、ここに単独で・・・」


「あぁ、私は魔術師ではないよ。戦う時に多少は魔術も使うけど、メインはこっち」


 再度、身体を捻って腰に挿してある白水を見せる。


「珍しい形をしていますね、剣・・ですか?」


「いいえ、これは剣じゃない。使い方は確かに、剣と酷似してるけどね」


 白水を見る女の顔は、ただ珍しい物を見た、というモノではなく、どこか嬉々とした表情を浮かべている。


「なぁ、とりあえず拠点に戻ろうぜ?もう夜になっちまう」


「そ、そうだな。これ以上待たせると、心配するだろう。私も、コールの様子が気になる」


 と、言いつつも女は白水から視線を離そうとしない。余程気になるようだ。


「姉ちゃんも来いよ。飯はないが、うちのシーフが安全だと言う場所がある」


「そうだな!一緒に来るといい!歓迎しよう!!」


「み、ミレイ・・・・落ち着けよ」


 おい、若干仲間が引いてるぞ。


「お邪魔しようかな。確かに夜通し歩くのは危険が伴う」


「ん?そういえば姉ちゃん、これからどうするつもりだったんだ?」


「そうだね、私自身は聖教国に向かっているから、そこでこの子の回復でも待とうと思っているよ」


「なんだ、目的地は俺達と一緒だな。俺達もここで一泊するが、明日はミスティナに戻るところだ」


「そうなの?じゃ、御一緒しても?」


「いいぜ、丁度魔術が使える奴が一人いるんだが、そいつが倒れちまってな。助かるぜ」


「倒れた?負傷したの?」


「とりあえず歩きながら話そうぜ。・・うちのリーダーは・・姉ちゃんの腰の物に夢中っぽいしな」


 そう、あの言葉の後、ずっと白水を見ている。時折ふわぁ・・・とか、綺麗だなぁ・・・とか聞こえてくるだけだ。

 というか、この女がリーダーなのか・・・先行きが少し不安になる。

 それは気にせず、提案の通り、背負う聖女の位置を直しながら、返答する。


「わかった、じゃ、道案内お願いね」


「お、おう。任せろ」


 ちょっと微笑を浮かべたら、また男の顔が赤くなる。


 えっ?これ、俺まさか?初めての相手が男とかやだよ?


(自業自得です・・)


 待って、白水ほんと最近冷たくないか?おい男!チラチラこっち見るんじゃねぇ!!


 そんなこんなで、とりあえず今夜の移動はここまでになりそうだ。

冒険者との初めての出会いでした。


次話はまた明日になります。よろしくお願いします。


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