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竜の子とともに  作者: 眠々
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4話 親と子と

お母さん

美人

かわいい


ま、マザコンじゃないんだからねっ!

 体感的にだが、半年、は経ったと思う。あれから毎日、竜のあれこれを聞かされた。その分、スキルについてはあまり理解しておらず、飛行スキルについてもつい最近やっと安定してきた程度だ。


「母さん、朝ご飯できたよ」


「くぁ・・・もうそんな時間か」


 習慣となった朝食だが、これについては俺が言い出さなければ始まらなかった。というのも、母さんは食事というものをあまり必要としないらしく、魔力だけをそのまま取り込めればそれが食事となるらしい。俺にはそんな事はできない。何より、幼体なのだからやはり身体を作り上げる栄養は必要なのだ。


 そして今、声を掛けた相手は洞窟の最奥に作られた寝床に横になっている。


 人の姿で


 そう、やはりあったのだ。別に凝った名前でもなく、ただ単純に変化の術、というらしい。昔にやはり俺と同じく人の営みに触れてみたいと考えた竜が開発したらしい。とてもグッジョブだ。


 母さんは多分、滅茶苦茶美人だ。ずっと思ってた事だが、3次元だからやっぱりなぁ・・・等という感覚は当て嵌まらないだろう。銀色のサラサラの長髪を特に纏めたりもしていない。だらしないとか思うかもしれないが、そう思えない程に綺麗に感じる。顔立ちについては現代の日本であってもすぐにモデルにでもなっていそうな印象を受ける。モデルという印象を受けたのは、顔立ちもそうだが、そのスタイルの良さも相まっての事だ。


 とりあえず、俺もその術を習って人に変化して生活している。俺の場合は黒髪黒目、まあその辺は黒刃竜だから当然だろうと思う。若い頃は憧れたが、今更やはり黒髪以外になろうという気も起きないし、丁度良かっただろう。


「ファルよ、そういえばそろそろ半年が経つ。お前、どうしたい?」


「どうしたい・・・か、そうだな。やっぱり俺も人の生活を見てみたいよ。行くとしたら聖教国に行くだろうな」


 人に変化している状態だからか、俺達の食事は人間のそれに似せている。最初の方こそ生肉を食え、と渡されたりして苦労したものだが、焼いて欲しい、調味料が欲しい等と色々母さんに面倒を掛けてしまったと思う。

 それもあってか現在のこの洞窟の中には、凡そ人間が暮らし始めても特に不自由が無い程に整っている。不思議な奴だ、と何度も言われたが、それ以上を言ってくることはなかった。


「教国か。くく・・・ファル、お前は聖女とやらに会いたいんだろう?」


「何度も言ってるだろ、それだけが理由じゃないよ。色々見て回りたいんだ。この世界を」


「まあいいだろう。そういう事にしておいてやる。ああ、お前の事だ、もう発つ予定も立ててあるんだろう?」


「何か、あんまり一緒にいられなくてごめん」


 やはり自分の子がこうも早く自分から離れるのはどうかと、自分でも思う。僅か半年、親と子が共に過ごす期間がこれだけとは、あまりにも短すぎるだろう。竜の親子がどの程度の期間を共に過ごすのかわからないが、普通に考えれば異常な事じゃないだろうか。


「気にするな、お前は刃竜だ。普通の竜とは違うという事は理解している。だが、そうだな、最初の内は1ヶ月に一度は顔を見せに来い。幸い聖教国はここから一番近い。」


 近いと言っても1000キロ以上はある。

 驚いた事に、このトリムウェルの距離や重量等の数え方は同じらしい。アリシアさんの管理する世界だからだろうか。違うのは通貨だけのようだ。ここら辺は小説とかで読んだから、あまり気にしていない。ちなみに通貨の基本的な物はこうらしい。


1ウェル    = 小銅貨1枚

10ウェル   = 銅貨1枚

100ウェル  = 大銅貨1枚

1000ウェル = 小銀貨1枚

1万ウェル   = 銀貨1枚

10万ウェル  = 大銀貨1枚

100万ウェル = 小金貨1枚

1000万ウェル= 金貨1枚

1億ウェル   = 大金貨1枚

10億ウェル  = 皇金貨1枚


 最初は覚え辛いかもしれないが、慣れるとそこまでのモノじゃない。

 さて、1000キロの道程だが、飛行スキルを使えば2日もあれば行ける距離だ。人型で飛行すれば2日、竜形態であれば1日もあれば着くだろう。だが竜形態で飛行すればそれこそ騒ぎになるだろう。実感は全然湧かないが、崇められたりするらしいからな。見つからないに越した事はない。


「わかった。絶対にその約束は守るよ」


「それと、そうだな。我の寝床にある物で必要な物があれば持って行くが良い」


「ありがとう母さん。ちょっと見てみるよ」


 母さんの寝床には色々な物がある。話では昔、母さんの寝床を襲撃してきた人間が身に着けていたり、所持していた物らしい。衣類、武具、金銭、本まである。本は魔術の触媒でもあるらしいが、今の俺には必要ないだろう。とりあえずは入国する際に必要であろう小銀貨、銀貨を何枚か貰っておく。衣類に関してだが、俺が今着ている服は人型になった際に自動的に身に着けていた物だ。母さん曰く、変化の術とこの服はセットになっているらしい。術を作った人は本当にグッジョブだと思う。


 武具に関してだが、とても高価そうな物がごろごろと転がっている。その中にふと気になった物があった。形状は刀のそれなのだが、刀身、柄と来て、その先にさらに刀身があるのだ。形状は違うだろうが、これも仕込み刀という物だろう。刀身は白銀に輝き、花びらの様に波打つ波紋。一瞬で心を奪われる。柄を握る刹那、暗い、何か意思の様なモノが押し寄せる。殺意、怨念、憎悪、そのどれもが、一気に。


「何だ、この感じは・・・」


 呪い、呪われた武器。多分こいつはそういうモノなんだろう。生憎だが、俺には状態異常が意味を成さないから意味がないんだが。それでもやはり気にはなる。何故この刀がそこまでの憎悪を募らせているのか。


「お前、何をそんなに恨んでいるんだ?」


 刀との対話、俺は鍛冶師なんかじゃない。長年槌を振るってきた鍛冶師は刀の声が聞こえると、昔聞いたことがあったのだが、それが俺に出来る訳はない。だが、なんとなく話掛けていた。その美しい刀身に。


(誰だ、妾に触れるのは。この身は人の手に納まるものではない)


 声が聞こえた。


 その美しい刀は、同じように凛とした声が。


(俺は人ではないよ。人の形をしてはいるがね)


(竜・・・いや、違うな、普通の竜ではない。貴様は誰だ)


(俺は黒刃竜のファルミアという)


(黒刃竜?その座は永きに渡り空座となっていた筈だ)


(あぁ、そうだな。俺はまだ0歳だ。生まれてから半年しか経っていない)


(半年?半年だと?馬鹿を言うな。生後半年の竜がそれ程の・・・いや、そうか、黒刃竜と言ったな。ふむ・・・)


 やはり半年で喋ったりするのはおかしいだろうな。しかし、空座だった事、竜である事に普通の竜ではない事を理解できるという事はだ。


 普通の刀ではない。いや、そもそも喋ってくる時点で普通ではないのだが。


(お主、妾の主とならぬか?)


 唐突な問い。だが、確かにこの刀を視界に捉えた時点で惹かれてはいるのだろう。


(いいのか?まあ、お前がそれを望むなら吝かではないけどさ。で、あの憎悪とか悪意の様なモノはなんなんだ?)


(あれは・・・そうだな、妾に斬られた者達の恨みや憎しみによるモノだ。何百年と存在していればこうもなろうよ)


(どうにかならないか?振るう度にあの声が聞こえるのはちょっとな)


(手がない訳ではない。私の意志をリセットするだけだ。まあ、記憶は継がれるが妾という意思は消え去るだろう)


(リセット?なあ、お前はそれでいいのか?)


(記憶は継がれると言っただろう?意思が初期化されるだけだ。気にする事はない)


(なら、頼めるか?)


(わかった。すまぬがリセットには1日かかる。その間は只の良く斬れる刀でしかない)


(ああ、わかったよ。明日にはここを出発しようと思っていたからな。丁度良いだろうな)


(では・・・)


 それっきり、白水の声は聞こえない。意思のリセット、初期化。前の持ち主はどんな人物だったのか。あれ程の憎悪を一振りの刀が蓄積するなんて、あれは妖刀の類なのだろうか?


 とりあえず腰に・・・止め具とかなかったな、そういえば。小説とかだと、町に行った際に買ったりするのが一般的だろうが、教国まで腰に挿さずにいるのはどうもな。すると、不意に腰の辺りに光が灯り、無骨だが頑強な作りの止め具の様な物があった。本当になんでも有りだ・・・。


 腰に挿してみる。うむ、良い感じだ。俺自身の武器はこいつだけで十分だろう。


「くく、ファルよ、まさかそいつを選ぶとはな。他にも良い武器はあるだろうに」


「いんや、俺はこいつでいいよ。中々面白い奴だ」


「そうか、まあそれとは別に私からも贈り物だ。スキルだがな」


「スキル?」


「ああ、隠蔽という。ギルドにも行くのだろう?種族が露見するのはお前も望む所ではなかろう?」


「確かに必要なスキルかもしれない。でもスキルの譲渡なんて可能なのか?」


「そうだな。その前に、スキルというのは先天的に覚えているものと、成長や修練の末に覚えるものがある。だがその他に迷宮や私の様な者が住む場所に永い年月を経て鉱石が成長し、その中にスキルを宿した物が現れるのだ。それを継承石という。王国や帝国等、人間が多く住む場所であれば売っている場所もあるな」


「スキルは何個まで覚えられるか、っていうのは決まっているのか?」


「うむ、レベルによって覚えられる数は制限がある。まあ、お前は気にする必要のない事だ。刃竜にその制限は通用せん」


 レベルによって制限があるらしい。母さんはレベル1000だが、その場合はどこまで覚えられるんだ?そもそも、一般人はどのくらいのレベルなのか、スキルはどうなっているのか。あまりにも情報が足らない。


「わかった、ありがたくその継承石?とやらを使わせてもらうよ。使うにはどうするんだ?」


 藍色のクリスタルの様な鉱石を受け取り、ふと疑問に思った事を問う。まさか食え、なんて言わないよな。竜とはいえさすがに食べて覚えるなんて選択は遠慮したい。実際こういう物を使って覚えるっていうのはよくある話だ。だが、使って覚えるまでの過程がわからない。あっちではボタンを押せば覚えていたから、実際に使うとしたらどうすればいいんだ?


「使い方は簡単だ。自分の力でそれを割ればいい。手で握り潰すのも良し、その刀で斬っても良い。その者がスキルを覚えられる状態であればそれ程力を入れずとも割れるし斬れる。だが、覚えられない状態では何をしようとも割れんのだ」


「意外と・・・いや、本当に簡単なんだな」


「まあ、試してみよ」


 言われた通り、今回は手で握ってみよう。力を入れなくても割れると言われても、相手は鉱石だ。重さも手に持った感じの硬さも、普通に鉄や鋼のそれだ。訝しみながらも手に力を入れてみる。


パキッ


 驚いた。あの硬そうな物質がいとも簡単に割れたのだ。割れた、と思ったのも束の間、鉱石の欠片が砂の様に消えていく。掌に納まる程度の大きさではあったが、粒子となって零れ落ちる。


『スキル 隠蔽を取得しました』


(!?)


 聞き覚えのある声だった。最後に会ったのは半年前、あの不思議な部屋で、炬燵の上に座していた。


(アリシアさん・・・?)


 僅か半年の期間だが、どことなく懐かしく感じる。

 

 何かスキルを覚えたら彼女が教えてくれるのだろうか?

 

 レベルも上がったらもしかして彼女が囁いてくれるのだろうか。

 

 自分でも思っていた以上に印象深く俺の記憶に残っているらしい。


 主にあの肉球の感触が。


「なんだ?手をじっと眺めて。ちゃんと覚えられたのか?」


「あ、うん。覚えられたよ。それで、一般的な人の能力ってどの程度なんだ?」


「ふむ、一般的な人間の成人で能力値が30前後だ。騎士団にいるような人間であれば200前後だろうな」


「冒険者としてやっていこうと思っているから・・・そうだな、100を平均に弄っていこう」



名前:ファルミア


種族:人間(隠蔽/黒刃竜)


年齢:15歳(隠蔽/0歳)


性別:男


レベル:10(隠蔽/EXP0)


<ステータス隠蔽中>


STR:102

VIT:120

INT:119

AGI:123

DEX:118

CHA:54


スキル

剣技(C)

火魔術(B)

光魔術(B)


加護




「まあ、こんな感じかな。人間に偽装した事で性別も反映された。隠蔽した状態ならギルドでの登録も問題ないのか?」


「我は人の国に行った事などないのでな。確実とは言えんが、それでも隠蔽しないよりは良かろうよ」


「さっき聞いた一般的な能力値が本当なら大騒ぎになるよな・・・」


 改めて自身の能力値の高さを知るのだが、これでレベルが1なのだから尚更驚きだ。

 便利なスキルを得た事で、これから人の世界に入る事も容易になるだろう、だが気を抜くとボロが出るものだ。自分が人とは違う存在である事に、今までとは違う事を意識していかないといけない。


「何にせよ、これで準備は整ったか?」


「ああ、明日出発するよ」


「そうか」


 ここ最近人の姿のままいるからか、母さんの表情や声で、俺でもなんとなく判ってしまう。寂しそうな声、寝床から出て行く母さんの姿が、弱々しく見えた。

隠蔽後の能力値を修正しました。

本文の内容を修正しました。


白水の一人称「妾」わらわ、と読みます。

実際に意味を調べてみると白水が使うにはまた違うんだろうか、と悩みましたが通しました。

そもそも私の変換ではわらわ、で「妾」は出ないんですよね。

とあるお話だと、昔は自分よりも身分の高い相手に使う一人称である、と書いてありました。

少し時が経つと変わって、身分の低い相手にも使うようになった。という事です。

諸説ある事だと思いますが、この物語の中では使っていこうと思います。

では、次回の更新は明日の予定です。読んで頂きありがとうございます。

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