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竜の子とともに  作者: 眠々
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25話 密会

25話 完了です。


遅くなりまして、本当に申し訳ないです。

更新が激遅でありながら、一部一部の話が短めという事も、申し訳ありません・・・。



「ようこそ、歓迎するのじゃ」


「歓迎って、外の門で不審者扱いされたわよ?連絡はしっかりしてほしいわね」


 まずは牽制だ、そこから相手の出方を見よう。

 案内されて入った室内は、これまた白、白、白で統一されている。それ以外の色を見つけるのを難しいと思った事など、初めての体験である。

 窓を通して視界に入り込むそれだけが、唯一の色だった。

 そんな小さな世界にエレインという少女はいた。いや、実際は少女ではないのだが、見た目からして、それ以外に表現の仕方が思いつかない。

 彼女自身もやはり白をメインの色とし、少ないながらも露出した肌以外には肩にかかっている帯と、頭上の冠だろうそれだけだ。


「それに関しては申し訳ないとしか言えんのじゃ・・」


 小さい身体を更に小さく見せるように、頭を下げる。これが貴族の前であったなら、また横から口煩く言われるんだろうな。


「気になったんだけど、エレインは教皇なのに、何故そう簡単に頭を下げる事ができるの?貴族連中からしたら、許容できる事じゃない筈だけど」


「それは確かにそうじゃな。ということで、頭を下げるのはこれが最後としたいのじゃ」


 ふっ、と顔を上げたエレインの顔に張り付く笑みに、やられた、と軽く嘆息する。

 腹の探り合いについては彼女の方が一枚、いや、それ以上に上手なのだろう。一般人として三十まで生きた俺と、教皇としてここまで生きているエレインとでは、経験が違いすぎる。


「はぁ・・とりあえず座りましょう。貴女とはあまり長く話たくないわ」


「なんと、それは残念じゃの。それで、ファルミア様のお話というのは、どのような?」


 俺が先に席に着き、エレインも遅れて席に座る。

 エレインの場合、単純に座るというよりも、よじ登ってから、という動作が途中に入る。椅子の位置が高すぎて、すんなりとは座れないのだ。

 というか、わざわざそんな椅子を使うより、もっと小さい椅子を使えばいいのに、と思う。


 さて、話の内容だが、最初に言う事は決まっている。


「まず、私は竜、っていうのはわかってると思うけど、私は男なの」


「・・よくわからんのじゃが、どういう事じゃ?」


「簡単でしょう?私は人族の男なのよ、元々は」


「いや、言っている事は理解しておる。しておるのじゃが、その姿で言われても信憑性は皆無じゃて・・」


 失念していた。自分の今の姿が、美少女エルフのそれだという事を。

 そういえば、母さんや白水から言われた通り、暫くは女の喋り方を模倣していた訳だが、それも中々に、いや、本物の女性をすら騙せるくらいのものだったようだ。

 というか、忘れてしまうくらい女性の身体に慣れていたという事か。


「まあそうなのだけれど、私の前世がそうだったのよ」


「なんじゃと?前世の記憶を持っているということか?」


 持っている。というか、前世の生まれてからの記憶と、死んでからの記憶。どちらも途切れることなく俺の頭の中にある。

 前世というものの言い方をしていいのか、甚だ不思議な感じではあるが、今のこの状況からいっても地球での事が前世である事は事実なのだろう。


「この事を知っているのは私と、エリスと母さん。そしてエレインだけよ」


「まさか刃竜様の前世が人であったとはの・・では、何故今その姿をしているのじゃ?それも人の女性ならまだしも、エルフの姿というのもわからん」


「話すと長いんだけど、まずはエリスと初めて会った時の事からね」










 エリスとの邂逅から契約に至るまでの流れを掻い摘んで説明する。

 所々でエレインが顔を顰める部分があったのだが、取りあえずは先に説明を進めていった。


「大体、こんなところかしらね。エリスのため、というのがあるけれど、実際はもう契約をした事で、私という存在がどういうものか、彼女は理解しているわ」


「ということは、現状、その身体を維持する必要はないということかの?」


「そうなるわね。まあ、男でも女でも、私はどちらでも構わないのだけれど」


 元々の身体、母さんと生活をしていた際にイメージした姿になれば、少ないながらも面倒が生じるだろう。

 エルフの俺と会った事のある人間に対しては、俺が人間ではないという事を自ら暴露するようなものだ。それがまずい訳ではない。説明すればいいだけだ。

 まあ、何が面倒かというと、俺が黒刃竜ということで、変に態度を改められても、という事だ。


「そうじゃな、エリスがファルミア様の事を姉と慕うようにしているのであれば、その姿のままでも構わないのではないじゃろうか?」


「まあ、そうね‥男の姿をする時は、一人で動きたい時に限定する事にしようかしら」


「ふむ、なら一度、その男の姿になってほしいのじゃが。私も一度は見ておきたいのじゃ」


 俺の男の姿を見たことがあるのは、今のところ母さんだけだ。まあ、べつに秘密にしたいという訳でもないし、構わないだろう。


「じゃあ、ちょっと魔力が漏れるかもしれないけど、変に騒ぎ立てないでよね」


 若干皮肉っぽく言うと、エレインも苦笑で応える。少し久しぶりとなる変化の術だったが、特に問題も無く済んだようだ。

 男の姿のイメージは変わらず、あの洞窟で過ごしていた姿そのまま。女性の姿とは違い、若干幼さの残る姿だ。


「なるほど、これは見事なものじゃな。着ている衣服こそ珍しいものじゃが、黒髪に黒眼とは、ファルミア様らしさが現れておる」


「こんな感じだ。一人で動きたい時、女性では面倒になりそうな時はこの姿で動く事にする」


「‥わざわざ、口調までしっかりと変えるのじゃな‥」


「俺が考えた事じゃない。母さんに言われたんだよ‥。まあいい、それで二つ目だが、あの屋敷に俺の母さんが住むのを許可してくれ」


 ニンマリと悪童のような笑みを浮かべていたエレインに、俺からの二つ目の話を告げる。

 眉を顰めた顔になり、此方を見る視線にも訝しむ感情が見て取れる。


「別に、構わんのではないか?」


「いいのか?そんな簡単に」


「いや、そもそもじゃ、ファルミア様の屋敷については我が国の法は適用外じゃ。人の決めた法でファルミア様を縛ったところで、良い結果は見えんじゃろうしの。まあ、前世の話を聞いた今であれば然程懸念すべき事もなかろう」


 言い分から、暗に『法の範囲外だけど、進んで罪を犯すような事はしないで』という事なのだろうと思う。

 俺がそういう存在だからとしても、こうも簡単に法の適用外と言われると、中々にくるものがある。まあ、これも慣れだろう。

 人としてというよりも、最初からそういう存在なのだと認識しているのであれば、俺自身も変に取り繕う必要もない。


「わかった。まあ、相手が馬鹿でない限り、俺もそう簡単に怒ったりはしないさ」


「怒ったり・・のぅ。初対面からいきなり泣かされた身に対して、そう言うのか」


「あの時は規格外の馬鹿の相手をして、こっちとしても気が滅入ってたんだよ」


 そう口にして短く嘆息する。実際、あの夜は本当に疲れた。身体的にではなく、精神的に。

 人を初めて殺した。それが事実ではあるのだが、実感が湧かない。あの貴族の周囲に居た人間も纏めて消し飛ばしたにも関わらず、だ。

 自分にとっての他人だったからなのか、それとも怒りと憎悪で感覚が麻痺しているのか。


 眉を顰めて思考を巡らせていると、エレインが懐から小さな包みをテーブルの上にそっと載せた。


「あの夜、ファルミア様に声を掛けた騎士。まあ、こやつも悪気があった訳ではないのじゃ。騎士としては当然の事をしていたのじゃがな」


「当然、ねぇ・・で、今それを出したということは、治せ、ということでいいのか?」


 目の前にあるこの掌程の大きさの球は、模擬戦場で俺に怒鳴り声を上げた騎士の一人。

 こうして人としての形を保っていなくとも、生きていると言われて信じられる者はいないだろう。

 空間生成のスキルを使用して、この騎士の周囲を俺の造った空間に飲み込ませた。暴れようと声を上げようと、その空間の中は何もない。

 ここにある球はそんな彼の着用していた鎧やら剣やらが圧縮された物だ。問題はないのだが、害になるものを一緒に入れようとは思わない。


「この者に罪はない。あるとすれば、それは私が負うべき罪。謝罪を望むのであれば喜んで頭を下げる。品を望むのであればいくらでも捧げよう。じゃから、この者を元に戻して欲しい」


「・・・わかったよ。謝罪も品物もいらない。ただ、治した後にまた同じ様な事が起これば、言わなくてもわかるだろう?」


 教皇という立場にありながら、騎士一人の為にここまでするとは、正直驚いている。

 が、それと同じ様に落胆もしている。国主がここまでの人間であるのに対し、それを支えるべき貴族達の一人が、目の前の球を存在させる理由を作った。

 この世界においても、国というものは一枚岩ではないのか。どうにもまだ、転生というものに夢を持っているらしい。


「異世界っていうのは、もう少し優しいもんだと思ったんだけどな・・・」


「・・何か言ったか?」


「いや、なんでもない。それよりいいのか?今戻すと、テーブルが潰れるぞ?」


「う、うむ。そうじゃったな」


 異形の球を大事そうに抱えて椅子から降り、テーブルから少し離れた場所に球を置く。

 嘆息する。何故か、先程から徐々に罪悪感が沸々と湧いてくるからだ。エレインの姿がその原因と言ってもいい。

 少女の大事な物を魔改造してしまったから、それを治す。外聞的にも大問題になりそうな話だ。


 模擬戦場と同じ様に、地面に転がる球を指差す。

 フッと、今まで球体だった物が人の形に変わる。球がボコボコグニャグニャと形を変えるのではなく、瞬時に人の形に変わる。


「・・?ここは・・ぐっ!」


 鎧と剣等は身に付けず、薄手のチュニックとズボンを身に付けていた男の上から、取り外されていた鎧と剣が降りかかる。

 その際、丁度頭の部分に剣を落とす事で、騎士の意識を刈り取る事にした。


「・・感動の再開というものをさせてくれんのじゃな・・」


「また煩くされても面倒だろう?」


 此方をじろりと見るエレインに、涼しい顔で応える。


「まあ、良いじゃろう。まだ話はあるか?無ければ、この者を運んでやりたいのじゃが」


「・・エリスと、エレインの繋がり、関係についてだ」


 一瞬、時間が止まったかのような錯覚を覚える。空気が変わるというのを、こうも分かり易く感じたのは、多分だが俺の予想が間違っていなかったという事だろう。


「・・・」


「・・まあ、大体は想像していたけどな。やはりか。エリスは知らないんだろう?」


「知っているのは私と、ヴェサリア家当主とその妻であるファリアだけじゃ」


「なるほど、まあ、隠す理由があるんだろうけどな、今度教えてくれ。俺はそろそろ帰るよ」


「うむ・・ファルミア様であれば、隠す理由もなかろう。あぁ、門までは送るのじゃ」


「大丈夫、道は覚えているから。それと一つ言い忘れた事があったな」


 会談当初は俺の未熟な腹芸を遊びながら躱された事に、少し悔しい気持ちもあったのだ。

 だから、俺はここで爆弾を投下する。情報通のフェルトに効果的だったのだ。エレインにもこれは通用するだろう。


「なんじゃ?」


「屋敷に一緒に住む俺の母さんだけど、同じ竜族で、皇竜って種族だ。それじゃあな」


「そ、そうか、黒刃竜様の親じゃものな。で、ではな」


 室内から扉を出て、その扉が閉まると同時に、何かが倒れる音がしたと思うのだが、気にしないでおこう。

 さて、人目に付く前にまた女の姿に戻らないとな。というか、いつまでこの姿でいる日々が続くんだろうか‥。

 エリスが姉さんと呼ぶ事が定着している現状、その願いが叶う日が来てほしいな、と、ひっそりと心の底で願う事にした。

お読み頂き、ありがとう御座います。


ファルミア「あれ・・これ今後もずっと女体化って事・・?」


ソロ活動する日が早く来るといいですね(ゲス顔

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