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竜の子とともに  作者: 眠々
25/27

23話 エンカウント

23話 完了です。


お待たせしました。なんだか新年早々からPC壊れて散々なんですが・・・。

今回はエンカウントします。


 母さんの正体を伝えた事で、あの後は大変な惨事に陥った。

 まず、気を失った事でその場に崩れ落ちるフェルト。完全に意識を手放している状態なので、白目を向いて泡を食っている状態。先程までの余裕を保つ紳士的な姿はそこにない。

 黙々といまだ食事を口に運び続ける母さんと、俺と同じく呆然とフェルトを眺めているエリス。なんとも形容し難い空気が室内に漂う。


「とりあえず、人を呼びましょうか・・」


「そう、ですね・・・」


 その後、部屋を出てすぐの場所に待機していた従業員に経緯を話し、フェルトの看護を任せて店を出る。最後まで食事から離れたがらない母さんを引っ張るのが一番大変だった。

 従業員の話によると、フェルトが意識を取り戻すなり、エリスや俺といった上客の相手をしている時に気を失うなど、末代までの恥だと、暫くの間は酷く落ち込んでいたらしい。


 さて、ファナト商会での食事を終えて、これ以上変に動き回り、更に厄介な事になるのも遠慮したいところなので、昼を過ぎたばかりではあるが屋敷に戻る事にしよう。

 教会区にある屋敷に戻る。先程まで屋台で賑わいを見せた場所も、今は人がちらほらと居る程度だ。人混みが無くなった事で動き易くなった反面、俺達三人の姿も少ないながらも人々の目に映るようになってしまう。

 という事は、やはりこういう手合いも出て来やすくなるという事だ。


「そこのエルフ、止まれ」


 上から目線の強い口調。声の発生源を辿る先には、豪奢な衣服ではあるのだが、着ている人物がどう見ても二足歩行する豚にしか見えない。

 そんな男が二人の屈強な鎧に身を包んだ護衛だろう、男達を引き連れて此方に歩いてくるのが見えた。中央の豚の格好からして、多分だが貴族なのだろう。


「姉さん」


「はぁ・・ただの散歩だったっていうのに。母さん、エリスを連れて先に帰ってくれる?」


「ふむ、構わんが、あまりやりすぎるなよ?」


 若干怯えた表情のエリスを見て嘆息すると、中腰になって頭を撫でてあげる。破顔して擽ったそうにする横で、呆れた様に身体を使ってジェスチャーをする母さん。

 俺だってやりたくてやりすぎている訳ではないんだが・・。まあ、それはさておき、屋敷に向けて進む母さんの後に、ててて、と後を追うエリスを見送り、豚の方に身体を向ける。


「それで、何かしら?」


 既に近くまで来ていた豚に話しかける。まあ、話くらいは聞いてやろうじゃないか。流石の俺でもいきなり、有無を言わさず制圧するという事はしない。

 豚は俺の姿を上から下まで舐める様に見た後、何言か護衛の男に告げる。すると護衛が前に出て、俺の前に立った。


「拝聴する姿勢を整えよ。我が主は貴様が話を聞く姿勢が出来ていないと仰られている」


 反射的に首を傾けてしまう。何を言っているんだこいつは、と。

 其方から呼びかけておいて、話を聞く姿勢が出来ていない?さも当たり前の様に言い切った護衛が顎をしゃくる。速くしろ、と急かすように。


 屈強な男の前にいるのはエルフの少女。周囲の人々も小さな声で何があったのか噂している。何故こうも面倒ごとが次から次へやってくるのだろう。

 大きく息を吸って、盛大に嘆息する。本当に面倒臭い。目の前の光景からすぐにでも離脱したい俺は、何も言わず踵を返す。屋敷に戻ろう・・。


「待て!貴様、不敬であるぞ!」


 無理無理、俺もうがっくり項垂れモードですよ。耳にするのも鬱陶しいその声から、よたよたと歩きながら遠ざかる。もう歩くのさえ面倒臭い・・。

 不敬とか、そもそも俺、お前の主人の名前すら知らないんだけど。・・あとでエレインに言ってみよう・・。


「おのれ!」


 剣を抜く音と、俺に走り寄る音。不敬だからって剣を抜くのか・・。普通の人間程度に斬られたところで、俺の身体には傷を付ける事は出来ない。

 だが、こんな状態で黙って斬られるというのも、この上なく不快だ。


 歩む足を止めて半身を捻り、顔を向ける。鬼気迫る顔で俺に上段から斬りかかる男。その奥で、気持ち悪い笑みを浮かべて此方を見る豚。

 

「はっ!」


 掛け声と共に繰り出される斬撃。

 だが、その剣が俺に届く事はない。無属性魔術の初歩的な物で、透明な硝子の様な壁を作る魔術だ。本来、強度は硝子と同じ、すぐに割れる程度のものに過ぎないのだが、俺が使えば、この程度の斬撃は防げる。


「何!?」


 俺に剣が届かない事に驚き、距離を取る為に後ろへと跳躍する男。

 魔術名はグラスウォールだったか。消費する魔力も少なめで、護衛をするレベルの男の剣を防げたのなら、これからも活躍する場面はあるだろう。


「何をした!」


「教える必要がある?」


 今度はこちらの番、と思い、魔術を行使する。

 変化があったのは、護衛の男二人と、豚の丁度頭の上だ。そこに顔と同じ程度のサイズの時計が現れる。小さな音と共に秒針が時を刻み始める。

 頭上に現れた時計に、もう一人の護衛が声を上げる。剣を握った方は漸く気付いたようで、頭上の時計を手で払おうとするが、空を切るだけだ。


「何だこれは・・・!」


「それは時の魔術。秒針が再び頂点に戻った時、貴方達の時間は終わる。っていう魔術よ」


 時間が終わる。それは即ち、先に待つのは死である事を指す。


「何だと!?貴様!分かっているのか!?貴族殺しは大罪だぞ!?」


「で?」


 怒声を上げる護衛の男と、下卑た笑みを浮かべていた豚。その横でもう一人の護衛が俺に向かって魔術を使う。

 湧き上がる魔力を触媒に、炎を生み出す。鋭利な槍の様な形を取る数本の炎の塊が俺に向かって放たれる。


「無駄よ。その程度の魔術なら、避ける必要もないわね」


 張り続けていた透明な壁に阻まれ、炎の塊は行き場を無くし霧散する。


「あと三十秒だけど、何か言い残す事はある?」


 魔術を行使した男も、剣を構えていた男も、その場に膝を着き、呆然としている。

 彼等の頭にあるのはどのような思いだろうか。憤怒?恐怖?後悔?その三つの感情が今は彼等の心を支配しているだろう。

 それ以上に、俺の頭にあるのは怒りだ。いや、この世界に来て何度目ともなる、人間への不快感だろうか。


「ファルミア様!!お待ち下さい!」


「・・エスト?」











 戦意を失った相手を警戒する必要もないか、と声のした方に振り返ると、いつの間に現れたのか。

 俺の後ろに跪く姿勢で声を上げるエストの姿があった。随分と焦っているようで、荒い息遣いが聞こえてくる。


「跪いて、どうしたのかしら?エレインとの時間が取れなかった?それなら謝る必要は無いから、立ってくれる?」


 ピリピリとした空気をエストは感じ取る。一瞬にして、今まで走って来た事で流れていた汗が引いていくのを感じる。

 目の前の貴族、自分からすれば格下で、取るに足らない存在であれど、貴族に変わりはない。どうにかしてこの場を、目の前の存在から逃がさねばならない。


「猊下との謁見は問題ありません。滞り無く、お伝え致しましたら、猊下も話したい事があるとの事でした」


「そう、で、なら何故、その姿勢を崩さないのかしら?」


「・・伏して、お願い申し上げます。彼等の命を、私に預けて頂けないでしょうか。この者達は国の法により、正式に罰を与えるように致します」


「そう。国が罰を与えるというのなら、私という存在が罰を与えても構わないでしょう?」


 跪く姿勢のまま、地面と睨みあいを続けるエストの肩が震える。どうすれば良い。どうすれば、この窮地を脱する事ができる?

 思考を今まで生きてきた中で、最速と言っていい程に巡らせる。


「・・・ファルミア様が、態々このような者達に自ら罰を下す・・必要はないかと思います・・」


「なるほど、それもそうね」


 具申した答えに、安堵の息を吐く。顔を上げて、応えてくれた相手の顔を見ようとするも、その安堵の息が、ひっ、という、怯えの混じったそれに変わる。


「けど、もう執行済みなのよね。あと十五秒。それに、罰を下す必要がないというのなら、今更私が、わざわざ解く必要もないわね」


 笑っている。人の死を前に、目の前の、神と同様の存在というこの御方は。数度会話をした中で、笑う事があっても、それは単純に整った顔から生み出される可憐なものだ。

 だが、それが今は違う。妖艶さをすら醸し出すその笑みに、背筋がぞっとする。引いていた汗が再び己の身体を濡らしていくのを感じる。


「ですが!」


「あと十秒ねー」


 どうする、このまま民の目がある中で貴族殺しが発覚するのはとてもまずい。

 とはいえ、自分にはあの見たことの無い魔術を解く方法がわからない。どういった系統なのか、それすらも理解出来ない。


 万事休す。何をしても、この状況を止める事は出来ないのか。

 無力。騎士団副団長という肩書きを持ちながら、私には何も出来ない。やれる事は、もう無い。


「ここまで頼んでおるのだ。聞いてやればよいではないか」


 ファルミア様とは違う声。少し低い声と、威厳のありそうな口調に、声のした方を見上げると、跪く自分の横に一人の女性が立っていた。











「母さん、エリスは屋敷?」


「ああ、ちゃんと送ったぞ。それと、そろそろやめてやれ。この娘、そろそろ泣くぞ?」


 ふむ、保険とはいえ、たしかにやり過ぎた感はある。元より殺すつもりはないのだが、さすがにあの豚も堪えただろう。

 ぱちん。指を鳴らすと同時に、男達の頭上にあった時計は瞬時に消え失せる。


 これも、そもそも殺すための魔術ではない。ただの目覚まし時計だ。時計という概念そのものが無いこの世界で、時間に正確さを保つために、時魔術を使って生み出したものだ。

 まあ、元となる魔術はただ殺すためではなく、もっと惨たらしい凄惨な情景を生み出すものなのだが。


「エスト、エストー?」


 母さんを見上げた状態で、心此処に在らずという彼女は、呼びかけに応じたように此方を見ると、続けて魔術を解かれた男達に視線を向ける。

 母さん、俺、男達と、何度か視線を往復させると、徐に立ち上がり、母さんの肩をがしっと掴む。


「ありがとう‥ありがとうございます‥!」


「む・・・?よくわからぬが、よかったな」


 あ、この状況でエストに母さんの正体を言ったらどうなるんだろう。と更に悪戯心が働くが、どちらにせよ後で話す事になると、それを心に留める事にした。

お読み頂き、ありがとう御座います。


エストの心の中での戦い、エンカウントは豚でした。

PCはグラフィックボードという部品の故障でした。画面が・・・映らない・・・。

明日から、また予定通り二日おきに投稿予定です。よろしくお願いします。

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