20話 生活環境
20話 完了です。
遅くなりましたが、完了しました。
二日に一度、いえ、三日に一度の更新に訂正した方がいいでしょうか・・・
エリスの突拍子のない俺の竜発言の後、俺が住む家屋の提供を促したのだが、土地の方は先日俺が消した貴族の所有地がそのままのため、整地も兼ねて俺が魔術で家の建築をする事になった。
あの時は夜であり、そこまで気にして見てはいなかったので広さについては正確に覚えていた訳ではない。
「まさか、ここまで広大な面積があったとは思わなかったわ」
「ん?一度此処に来たんだろ?」
「あの時は夜だったし、此処に訪問した理由も理由だったからね。そこまで覚えようなんて思ってないわよ」
スレイの言葉に軽く嘆息し、目前に広がる敷地から目を逸らす。
「っていうか、このまま付いてきてよかったの?娘さんとお話でもすればいいじゃない」
「たしかに娘といえば娘だが、あいつはもう独り立ちしてる。今更面と向かって俺と話する事もねぇよ」
「それにしても、スレイさん結婚されてたんですか?」
エリスの質問に俺もそれは気になっていたので、一緒になってスレイの顔を覗く。
スレイとミレイ、彼等は親子らしい。名前が似ていると思わなかった訳ではないが、実際に親子と知らされるとやはり驚くものだ。
「結婚はしてねぇよ。ミレイは、あいつは俺の友人の子でなぁ」
「へぇ」
「ミレイの親も冒険者でな。依頼を受ける間預かってくれってよ。だがまあ、もう10年ちょっと前に出てってな、戻ってこねぇ。ギルドでは既に死亡扱いって事だ」
「そうでしたか・・」
ミレイの両親はギルド内でも結構な腕利き、夫婦でパーティーを組み、ミレイが生まれてからは簡単な依頼のみを受けていたらしいのだが、昔は戦争がよく起こっていたのもあって、夫婦で他国に潜り込んで欲しいという依頼を受けたらしい。
その際に生後間もないミレイをスレイに預けていった。ミレイとスレイの名が似ているのはただの偶然だと言う。
「それじゃあ、そろそろ始めるよ」
此処は貴族達の多く住む教会区の一等地。周囲に溶け込む様な物で大丈夫だろう。ただ、この家屋は魔術で作り上げる物で、頑丈さは折り紙付きだ。
それより、エレインには少し感謝している。俺がこの家を建てる際、衆目に触れないようにこの一帯に住む貴族達を一度城の方に集めているらしい。
「まさかこれだけの為に貴族連中を大移動させるなんてね。結構面白い事をする」
「大変だったと思いますよ?どの様な理由をつけて動かす事ができたのかわかりませんが・・・」
「それじゃあ、さっさと造っちゃいましょうか。あんまり派手な物は嫌だけど、此処にシンプルな物を造っても逆に目立つからね」
目を閉じて集中する。魔術の基本はイメージ。それを建築に使うのはとても難しい。
例えば、火や水、風等はそれその物が常に動き続けているから、イメージが多少揺らいでもそのまま発現する事が出来る。
だが、土魔術は違う。形が既に固定されている物をイメージで発現するのは困難。その過程を越えて建造ともなれば、並大抵の集中力では可能とはしない。
ボコボコと隆起し始める土の塊が次々に折り重なり、徐々にイメージの中にある形に姿を変えていく。
2階建てだが、横や奥行があり、ゲーム等で良く見かける洋館の形になったそれは、教会区の貴族の屋敷が立ち並ぶ中でもあまり目立たない物を完成させる事が出来た。
「ふぅ、やっぱりこの規模となると少し疲れるわね」
「少し疲れる程度でこの屋敷を造っちまう姉ちゃんの方がおかしいぜ・・」
「さすが姉さんです」
屋敷は建てた。だが、やはりこの規模の家屋ともなると、やはり維持の為に人は多く必要になるだろう。その辺りも後々考えておかないといけない。
建築し終えた屋敷の扉を開けて、中に入るとそこは某ゾンビゲームの洋館をイメージした通り、綺麗な内装に仕上がっている。開けた玄関に中央に二階へと続く階段。
所々にある扉はそれぞれ家として必要な場所に行く為のものだ。
「本当にこれ魔術で造ったのかよ・・とてもじゃねぇが信じられねぇ・・」
「実際に見てたじゃない。何を今更」
「姉さん、扉の先はどうなっているのですか?」
その言葉に、二人を後ろに連れて各部屋の先を見せる。食堂、調理室、浴場、そして最後に食堂より広いリビング。
二階の扉はそれぞれ寝室へと続く廊下に出る。左に続く廊下は俺やエリス、そしてあと一人分の寝室。右にはスレイや他の人間の寝室を用意した。
現状はこれで十分だろう。他に何か必要となれば、夜の内に増築する事も可能だ。
「ああ、そうそう、私とエリスの部屋の先に母さんのいる空間へ繋がる扉を付けようと思う」
家を手に入れたら造ろうと思っていた事だ。母さんもずっとあの空間に居たのではつまらないと思うし、多分、碌な料理も食べていないと思う。
「二人は一度自分の部屋を見てみるといいかもね。何か欲しい物があるなら、後で買い足しましょう。私はちょっと母さんに会ってくるから」
各々の部屋の扉には、既にネームが入っている。そもそも、本人の魔力を感知して開く仕様にしてあるので、本人意外は開く事はできない。俺を除いて、だが。
俺の魔力には全ての部屋が反応する。いわば俺自身がマスターキーのような物だ。
二人はそれぞれ、自分達の寝室となる場所へ離れていく。俺はこれから廊下の先に空間を繋ぐ扉を造る。
扉の設置自体はそれ程大変な事じゃない。ただ、母さんが其処に居てくれれば良いのだが。
空間跳躍をした先、俺の造った小さな日本家屋の中に、母さんの魔力はあった。確認した場所から動いていないのを見ると、寝ているのだろう。
「ただいまー」
扉を開けて、母さんを起こさない様に小さな声で帰宅を告げる。
その足で居間の方へ向かうと、そこに母さんは居た。囲炉裏の横で、何時もと同じく横になって寝ている。
しかし、些かその姿が目に悪い。着物を着崩している母さんは、豊満な胸がこれでもかと自己主張をしている。とてもじゃないが、直視できるものではなかった。
「母さん、母さん」
外見こそ今の俺は女の姿をしているが、中身は三十を過ぎたおっさんだ。相手が竜で、しかも何千年と生きているのも理解している。
という事で、あまり母さんの側を見ないように、肩を揺すってみる。
「ん・・む・・・」
ごろん。
やばい。何がやばいって、寝返りを打って天井を見上げる体勢になった母さんの姿が、あまりにも扇情的過ぎて、もう見ていられない。
そっと手を伸ばしてしまう気持ちをギリギリで押し殺し、はだけた胸元を避けて肩を叩く。
「起きて、母さん」
「・・む・・・なんだ、帰ってきたのか」
まだ半分寝ているのだろう母さんがその身体を起こすと、そのはずみで更にきわどいものが視覚に訴えてくる。
俺は慌てて身体毎背を向けて、なんとかやり過ごす事にした。
「ただいま、とりあえず、あの、服直してくれるかな」
「あー・・?なんだお前、我に欲情したのか?」
「いいから!」
渋々といった感じで返事が返ってきた後、着物の擦れる音がする。ようやく直してくれたのだろうと、再び母さんの方を向く。
「それで、かあさ」
「うむ、なんだ」
固まる俺、視線の先にあるのは一糸纏わぬ美女の姿。何食わぬ顔で首を傾げている。自分の姿が今どのような事になっているのか、理解していないんだろうか。
「なんだ?用があったのではないのか?」
多分面白がっている。身体を左右に揺らして、それと共に揺れる豊満な双丘に目が行くのだが、それよりもその上にある顔がにやにやと笑んでいる。
例えばだが、もし俺がここで押し倒しでもしたら、母さんはどう反応するのか?わりと面白い反応をしそうではあるが、そんな度胸、俺には無い。
「服を着てくれ・・・」
負けを認めるかの様に額に手を当てて項垂れる。母さんが再び衣服を着たのは、その後暫く俺の様子を楽しんだ後だった。
「ふむ、家か・・・」
「聖教国にね。造ったのは私で、住むのは今の所私とエリス、スレイ。そして母さんも、と考えてる。どうかな」
いつまでも一人でこの空間に居てもらうのはどうも忍びない。母さんの事だから気にする必要はないと言うのだろうけど、俺自身がやはり、一緒に居たい。
洞窟の方にも繋がる扉は、母さんの部屋に設置する事にしよう。
「構わぬ。だが、我も我にしか出来ぬ仕事というモノがある。また、あの洞窟に繋がる扉も作ってくれるのだろう?」
「勿論。元々母さんの部屋に設置するつもりだったよ」
「それならば良いだろう。我もその家に住まわせてもらうとしよう」
心の中でガッツポーズ。反対されるとは思っていなかったが、それと同じくらい、賛成してくれるとも思っていなかった。
母さんの仕事、というのは気になるところだが、今はこの喜びに流されようと思う。早速家に帰って、エリス達にも話しておかないといけない。
「じゃあ、このまま行こうと思うけど、大丈夫?」
「問題ない。いつでも良いぞ」
母さんに触れて、聖教国に繋がる扉をイメージする。何時も通りの移動方法だが、少し思うところもある。
エリスの事、あの貴族の事。あれだけ嫌悪した国に、今度は帰る、というのだから。
扉を開けると、俺と母さんの姿に気付いたエリスが近付いてくる。部屋を確認した後はここで待っていたのだろうか。
俺が造り、与えた修道服を纏った姿でゆっくりと、だが、呪いを受けていたあの頃とは違い、しっかりとした足取りで歩み寄って来た。
「おかえりなさい、姉さん。ヴァルニア様もいらっしゃってくれたのですね」
「くく・・・少々からかい過ぎたと思うがな。さて、我の部屋は何処だ」
からかうってレベルじゃなかったぞあれは・・・。
「エリス、母さんの部屋に付いていってあげて。部屋はエリスの部屋の向かいになっている筈だから」
「わかりました。ではヴァルニア様、こちらです」
エリスの先導で廊下を進んでいく二人を見送り、さすがに教皇にも伝えた方が良いだろうと思い、善は急げと屋敷の外に出る。
今朝まで無かったこの屋敷を不思議そうに見る多くの人間が、門の先にわらわらと溢れている。エレインも此処までは対処してくれないか。
「失礼、道を開けて頂きたい」
その人波の中で、凛とした声が響く。つい最近聞いた覚えのある声なのだが、思い出せない。
門の先に群がる人々の中から、騎士甲冑を身に付けた青髪の女性が姿を見せると、周囲の声も治まっていく。
「・・エスト、だった?」
門から屋敷の入り口までの間、ここは門の前に居る連中からも良く見える位置。あろうことか彼女はその場に跪き、俺に対して臣下の礼を取る。それに対し困惑したのは門前の連中だ。
たしか、スレイの話では彼女の家は有名な貴族だったらしいが、その彼女が俺に対して跪くという事は、俺が彼女以上の位に立つ者であると捉えられてしまう。
「御前をお騒がせ致しまして申し訳ありません。まさか本当にこれ程の屋敷を整えられるとは、私達も驚いているのです」
「家は任せろ、とは言ったけれど、驚くのも無理はないわね。それより、何故私に頭を垂れるの?」
「お話は伺っております。ファルミア様の素性を考えれば、仕方の無い事とご理解下さい」
ご理解、と言われましても・・。これが刃竜に対する信仰ということだろうか。
「あまり大事にはして欲しくないんだけど。まあ、それは後で。エレインに用があるのよ。ちょっと時間取れるかしら」
「猊下に、ですか?それは・・すみません、私の一存では決めかねる内容となりますので、暫くお待ち頂けると嬉しいのですが・・」
「しょうがないわね。まあ、国のトップに面会するのに、すぐに行けるとは思ってないから大丈夫よ。それとちょっと聞きたいんだけど、家を造ったのはいい、けれど、家を管理する使用人の様な人間を探しているの。何か、そんな人間を斡旋してくれる場所ってあるのかしら?」
「使用人、ですか・・」
多分、この国には奴隷という制度そのものがないのだろう。いや、隠れてそういう商売をしている者はいるだろうが、公に販売する事は不可能なのだろう。
それならば、使用人を斡旋してくれる場所なんかもあるのではないかと思ったのだが、彼女の表情を見る限り、それも無いのだろうか。
「難しいかしら?」
「あ、いえ、斡旋するという場所はありませんが、使用人をお探しであれば、ご紹介する事は可能です」
紹介ならば可能。なるほど、これは貴族家の息女を女中として紹介するのならば可能という流れなのだろう。
俄か知識だが、貴族の家でメイドなんかをしているのは、自分の家よりも位が低い家の息女が修行なんかの為に送られるというのを聞いた事がある。
「そう、それじゃその件はお願い。それで、結局貴女はどうして此処に?」
「あ、そ、そうでした。すみません、私が此処に来ましたのは、先程の様に猊下に御用がありました場合の連絡役として、私を尋ねて頂ければすぐに対応致します事を、お伝えに参りました」
「連絡役っていうのはわかるけれど、その貴女はいつも何処にいるの?」
「私は騎士団の本部に居ます。そちらをお尋ね頂ければ」
わざわざ騎士団の本部に向かわなければいけないのか。いや、彼女の魔力を通して、空間を移動すればそれ程手間ではないだろうか。
「わかった。けどまあ、私は転移魔術に似た事が出来るから、突然現れるかもしれない事は理解してね」
「いえ、そもそもファルミア様はその転移方法で猊下の傍に瞬時に移動も可能。それを、一度私の方で止めてしまうのですから、私から文句等ありません」
なるほど、彼女達も俺の力については少し理解しているのだろう。移動自体が可能だが、国のトップに面会の連絡もせずに伺うのは流石にまずい。
だから、一度エストの方に連絡さえしてくれれば、過程としては間違っていない。普通の人間であればもっと面会をするまでに過程があるのだろうが、形だけでも俺にそれをさせたいのだろう。
「とりあえずわかったわ。私からは先に言った二つをどうにかしてくれれば問題ない。それじゃあお願いね」
「はい、了解しました。それでは、失礼致します。あと、門の前を囲む者は、放っておいて頂ければ、それ程時間もかからずに居なくなると思います。貴族というのは、どうも珍しい物が好きなようで。害意というものはないのです」
「はいはい、暫くは家の状態を整えるのもあるし、大人しくしているわ」
それでは、と再度一礼して、踵を返して門外に消える彼女の姿を追った後、俺も屋敷の中に戻る。
大体エレインの方に伝える事は今の話で終わった筈。あぁいや、エレインには言っておいた方がいいだろう。面会をする時にでも伝えておくとしようか。
俺が、元は人間であり、そして男であったという事を。
お読みいただき、ありがとうございます。
やっとお家を建てました。そして、やっとエルフ少女から戻る日が来るのだろうか!
次回更新はまた二日後、よろしくお願いします。
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