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竜の子とともに  作者: 眠々
20/27

19話 運命の日「後編」

19話 完了です


今回とても短い物となります。


 沈黙。


 貴族達や冒険者等、色々な人が居るこの部屋はエリスの一言によって静寂に包まれている。

 教皇の視線がエリスと私を言ったり来たり、慌しくその小さな顔を動かしている。若干可愛いと思う。


「そして、私はファルミア様と契約を結びました」


「ま、待て待て!話が飛躍しすぎていて全くわからん!竜?契約だと?どういうことだか全くわからんぞ」


 教皇の焦りも当然だろう。エリスを保護し、連れ帰った。そこから聖女のなかば誘拐まがいの行動に出た挙句自分を泣かせた相手だ。

 それよりも人間の姿をしている俺を竜と言われ、契約とまでなったら話が読めないだろう。


「エリス、ちょっと端折りすぎよ?」


「そうですね。でも、タイミング的にこう話した方が場の空気も変わりますでしょう?」


「いや、まあそうだけれどね・・・」


 エリスの考えがよくわからない。例えばここでこの内容を報告しなくても、ただ感謝されるだけで滞り無く終われたのではないだろうか。

 先ほどのタイミング・・いや、そういえば俺の所為でもあるんだな。どの道エリスが俺と契約したという事はいずれ話す必要があっただろうし、仕方ないだろう。


「教皇、ここからは私が説明するわ」


「む・・頼む、エリスの言葉だけでは理解が追いつかんのじゃ・・」


「まず、私の種族は竜よ。この姿は特殊な術を使って人の形を保っているだけ。エルフの姿をしているのは唯の好みだから気にしないで。で、昨夜、エリスが目覚めたのと同時に尋ねたわ。貴方に言ったのと同じ事を。エリスはこの国に戻りたいのかと。彼女の答えは、私と一緒にいたい。という答えだった。それに私も答えたら契約してしまった。そういう流れよ」


 簡単にだが、昨夜から起こった顛末を話す。話している間、エリスは目を閉じて私の話す傍に静かに佇んでいる。

 教皇はと言えば、額に手を添えて呆れた様に首を振っている。まあ、そうだろう。凡そ国を代表する聖女の行動とは思えぬものだ。

 ただ、これについて咎める事があるのだとしたら、俺も相応に動くわけだが。


「お主が竜、という事はわかった。今まで浴びた魔力の強さから、人ではないというのであれば納得がいく」


「それと、エリスにかかっていた呪いは私の契約と共に解呪されたみたいね。母さんから聞いたけれど、多分、エリスと契約に至ったのは、エリスの呪いもあったからだろう、と言ってたわ」


「どういうことだ?呪いが何故、契約とやらに関係してくる」


「私との契約っていうのはちょっと特殊で、聞いた話では病弱、虚弱な事が一番の条件らしいわ。その中から更に私と契約できる者は限られるみたいだけど」


「・・待て、虚弱な者のみが契約の可能性を得ると?・・そういう、ことか・・・」


 一人頷き、険しい顔となる教皇。多分、俺の事について理解したのだろう。竜種の中でも更に特殊な俺という存在を。


「皆、これから起こる事に何も口を挟むな。そして、この場以外に他言する事を禁ずる。情報が漏洩した場合、その家は取り潰される事と知れ」


 ざわつく室内、その中を徐に玉座より立ち上がり、俺の前に歩み寄り、そして、その場に跪く。

 自国の最高指導者の傅く姿に呆然とするが、すぐに立ち直ったのはバームンドと呼ばれた騎士甲冑を身に付けたあの男だった。


「猊下!?」


 その声に周囲の貴族達も我を取り戻したのか、口々に教皇の取った行動に異論を挟む。


「黙れ!」


 教皇の小さな身体から発された声に、周囲の人々は言葉を失う。声に魔力を乗せて、普通に話すよりも威圧感を出しているのだろう。


「・・御前をお騒がせ致しました。御許し下さい。そして、現在までの数々の非礼、平に御許し下さいませ」


 今までと一変したその態度に、俺自身も驚きを隠せない。ここで鷹揚に許しても良いのだが、今後が更に面倒になりそうだ。

 兎も角、この状況は良くない。貴族連中も見ている中で、教皇がこの態度を取るのは止めるべきだろう。


「非礼については私も相応の対応をしてきたわ。だから問題ない。それよりも教皇、私の種族について、理解したのね?」


「はい、御身が我が国、ミスティナへといらして頂けた事、至上の喜びに御座います」


「そう、それはわかったから、とりあえずその態度を止めてくれるかしら。まだ、そういうのは慣れていないのよ」


「であれば、どのように」


「今までと同じでいいわ。とにかく、私に対して敬語なんていらないわ」


 一瞬の逡巡の後、跪く格好から立ち上がると、私の目をしっかりと見て、今までの強張った表情から、人懐っこい笑みを浮かべる。


「・・ファルミア様が話のわかる御方で良かったのじゃ」


「なんだかいきなり毒を吐くようになった気がするんだけど」


「気のせいなのじゃ。それよりも、エリスの事、改めて礼を・・ありがとう、ファルミア様」


「・・さっきも言ったけど、大した事はしてないから」


 実際、本当に大した事はしていない。仮の宿泊施設を作っただけで、聖教国までの道中はミレイ達に頼りきりだったのだから。

 彼女等こそ、真に礼を言われる方じゃないだろうか。


「猊下・・あの、一体どういうことでしょうか・・」


「あぁ、そうじゃったな・・ファルミア様、彼等はこの国を支える者。私も彼等には隠し事をしたくはないのじゃが、如何じゃろう?」


「構わない。どの道いずれは知れる事だからね」


 俺の前から下がり、身を翻すと玉座へと腰を下ろす。その教皇の顔を貴族達が目で追いかける。

 玉座へと身を沈め、小さく息を吸うと、周囲の貴族達の息を呑む音が聞こえてくる。


「ファルミア様、そちらの御方は刃竜様じゃ。三刃竜の話は、其方等も聞いた事はあろう?」


「「「「「「「は!?」」」」」」」


「そして、エリスはその刃竜様と契約を果たした、王国の公女と同じ存在という事になるな」


「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」


「主等、少しうるさいぞ?」


 耳を穿りながら呆れた様に顔を顰める教皇の姿は、そこだけを見れば歳相応に感じるが、姿からのギャップが少し可笑しく思えた。

 貴族達は顎が外れるんじゃないか、というくらい口を大きく開けて、俺の方を見て呆然としている。


「教皇様、姉さんは黒刃竜様で御座います。三刃竜様の中において、破壊を司る御方。そのファルミア様と契約を致しました私は、聖女という立場に相応しくありません」


「・・たしかに、そうじゃな。じゃが、エリスよ。主の身体にはまだ、イグリース様の加護がある。聖女となるにはその加護こそが大事なのじゃ。残念ながら、主の他に加護を宿す者はおらん」


「それは・・・」


「そもそも、聖女が刃竜様との契約を果たした事すら前代未聞なのじゃ。破壊を司る黒刃竜様と契約をしたとて、異論を挟む余地はなかろうよ」


 人と刃竜の契約によって、契約者は普通の人としては存在できない。以前聞いた紅の契約者の話もそうだ。

 だが、教皇自身も聖女として、エリスをまだ迎えようとしている。エリスの意思としては違うのだろうが、俺はこのままでもいいんじゃないかと思う。


 話を聞きながらもだが、チラチラと此方を確認するエリスの姿に苦笑しながらも、助け舟を出す。


「教皇。エリスを聖女のままこの国に残す術があるんだけど、どうかしら?」


「ふむ・・・エリスも私の話では納得していないじゃろう。その術とやら、聞きましょう」


「家が欲しい。私はエリスと共に居たい。それを叶える為に、この国に住む家を提供しなさい」


「家・・?それで、エリスは納得す「はい!!」るの・・か?」


 教皇の言葉を遮ってまで己の答えを通すエリスの姿に、また苦笑する。ここまで私は気に入られているのだろうか、と。

 むぅ・・・と教皇の唸る声、家、と言ってもそれは突然欲しがられても、すぐに提供できる物ではないだろう。国内と言っても、土地の問題もある。


「・・それであれば、丁度良い場所があるではありませんか」


 唐突に、後ろから声が聞こえてくる。扉の前でずっと沈黙を保っていた、この宮殿に入る前に合流していた、あのメイド、ファリアといったか。


「昨夜、更地になり、そこに居を構えていた者はもうおりません」


「・・なるほど、あそこならば土地の問題は大丈夫じゃな。すぐに手配するのじゃ」


 どうやら土地の問題はクリアされたようだ。というか、土地の問題さえクリアしてしまえば、あとはどうとでもなる。

 わざわざ家を1から建造する必要も無い。


「土地は大丈夫なら、あとは私が魔術で造るから、その手配をする必要はないわ」


「やれやれ・・さすが、というべきなのじゃろうな。聞こえたな。職人の手配は必要ない。土地の譲渡に関する書類・・いや、それも必要なかろう。刃竜様の住まう場所なのじゃ。その敷地内においては法の適用など無用じゃな」


 いいのかそれで、と心の中で引き攣る顔を浮かべるのだが、教皇の采配を止める者はいない。

 というか、貴族達はなんだ。今まで怪訝そうな顔をしていた者達も教皇の声一つ一つにうんうんと頷いている。お前等掌返し感がすごいぞ。


「それで、その土地の場所は?」


「今までの流れで気づかんとはの・・・ルースヴェン卿の屋敷があった場所じゃが、わかりますじゃろ?」


 暫く考えてみる。のだが、俺が知りうる限り、この国での貴族の名というのは先ほどのバームンドという男とエストという女騎士以外知らない。


「誰だ?」


 俺の言葉に教皇、スレイ、ミレイ達、貴族達が一斉に顔を引き攣らせる。横にいるエリスはというと


「私も、知りませんね」


 クス、と小さく笑みを浮かべ、俺に微笑むのだった。 

お読み頂き、ありがとうございます。


これでファルミア君はようやく人の国に住処を得る事ができました。

次からは少し閑話を挟んで新章を始めていくつもりです。

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