1話 死後の世界
執筆は本当に少しずつ、しかも深夜に行ったので文がぼろぼろかもしれない。
微睡から覚めるように、何時もと変わらず
瞼を上げていく
視界に広がるのは日本人ならばとても見慣れた光景だった。
広くも狭くもない空間、畳の匂い、腰から下の暖かさは炬燵によるものだろう。
「起きましたか、お加減は如何です?」
俺は不思議に思った
そもそも俺はあの時、事故で死んだ。
だがここはなんだ、見慣れすぎた光景、暖かさも感じる。
手を握る、開く
その行動も出来るし、何より感触もある。
その手で胸に触る。
あの時、貫かれた傷跡は無く、しっかりと鼓動を感じる。
とても不思議だが、まあまずは問いに答えよう。
だが、またしても不思議な事に首を傾げてしまう。
問いかけてきた相手は誰なのだろう。
周囲を確認するが、話しかけるような相手はいない。
炬燵の上に白い猫がいるくらいだ。可愛い。
「まだ、意識が混濁している様ですね」
驚愕だった。
目前の猫が口を開いて、流暢な日本語で語りかけているのだ。
死んだら猫語を理解できるのか、やべぇ、猫好きな人歓喜するだろ。
「死んだからといって、猫の言葉は理解できませんよ?」
あれ、今俺口に出したか?
いや、この空間に来てから、というか目を覚ましてから一度も言葉は発していない筈だ。
「喋れないのであれば、そのまま、心に思うだけで大丈夫ですよ」
あ、ああ、これは親切にどうも
じゃないよな、相手が喋っているんだ、俺も喋らないと失礼だろうしな。
「すみません、まだちょっと、現状が理解できないようで」
「仕方ありません、いきなり猫が喋っているのです。理解できない方が普通ですよ」
まあ、それはその通りだ。だが、現状会話が成立しているので
特に驚く事もせず、会話を続ける。
「あの、ところで俺は死んだ・・・んですよね?」
「はい、黒澤大樹さん。申し上げにくい事ですが、車で横転した際の肺へのダメージで病院に搬送中に」
首を下げて、申し訳なさそうに小さな声で、俺の死を告げられた。
それに対し、やはり特に驚く事も無く、小さく息を吐いて瞼を下げる。
「そうですよね、やっぱりあの痛みや苦しさは本物だったんだな」
切り替えよう。なんだかこの猫に申し訳なさそうにされるのは猫好きとしてちょっとくるものがある。
「ところで、ここは?」
顔を下げていた猫がその問いに対し、姿勢を正して答え始めた。
「ここは私の世界であり、私の部屋、私の空間でもあります。そして、私は創造、創世を司る女神、アリシアと申します」
「世界?女神?ど、どういうこと?」
「私は貴方たちの住む地球を含む、この銀河を生成した神なのです。まあ、他にも何個か別の世界を管理していますが」
「世界の管理・・・なんか壮大な話だなぁ」
「普通であれば、人は死後、輪廻を経て新しい生命として変換されるのですが、貴方の死因は私に責任がある様なものなのです」
「責任?」
「ええ、あの時、貴方が避けた猫は私。偶々地球に少しだけ散歩をしに行っていたのですが、その際に、という事です」
「あ、あの猫って女神様だったの・・・まあ、珍しい感じの猫だったからなぁ」
家に連れて帰りたいとか、なんかすごい不敬な感じだったんだろうか。
「いえ、素直に嬉しく思いましたよ。仮の姿とはいえ、私の姿に変わりはないのです。私も気に入っていますからね」
「そ、そうですか」
そこまで会話を繰り返した時、俺を挟んで反対側の襖が開き
湯飲みを載せた盆を持つ女性が現れた。
和装で、煌びやかな刺繍こそ無く、飾り気のないものだが、女性の容姿ととても良く似合っている。
「アリシア様、お茶をお持ちしましたよ」
「ありがとうシル」
「黒澤様、シルと申します。短い間となりますが、よろしくお願い致します」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。・・・と、少しの間っていうのは・・・」
確かに死んでいるから、少しの間というのは頷ける。
俺はこれからどうなるのだろう、死んでいるという事はつまり、まあ地獄に行くか、天国に行くかしか、俺には今のところ考えられない。
「黒澤様、貴方にはお礼、というわけではないのですが仮の姿とはいえ私という存在と接触しています。本来であればあの時私は普通の人には見えない様、姿を隠している状態でした。」
「え、ということは知らない内に轢いているってなっていたんですか?」
「いえ、私が見えない人、物からすれば私という存在はあの場に存在しないのです。ですから、接触する事もなく、轢かれる事もなかったのです」
「じゃあ、俺は避けなかったとしても車は接触しなかったっていう事ですか?」
「そういう事になります。貴方には見えていても、車は接触しませんから」
「なるほど・・・って事は、俺も死なずにすんだし、アリシアさんもわざわざ俺を接待しなくても良かった。そんな風にもなったんだな」
「ええ、ですが・・・」
「アリシア様、もうそろそろお時間が」
「あ、ああ、もうそんな時間ですか。少々急がないといけませんね」
シルさんに急かされる様に、小さなその猫の手を宙に置く様に、そっと何かに触れた。
透明な端末?アリシアさんの前に何かの画面が出て、認証、という文字が浮かんでいる。
何かあるのだろうか、話を聞いていただけだが、この後の事は特にこれといった情報はないままだ。
本日中に女神様の部屋を終わらせたいなぁ