18話 運命の日「中編」
18話 完了です
大掃除の合間で書いてみました。
まだ終わらない・・・
ギルドの中から3人で外に向かう。受付譲のセリエは仕事に戻るため、ギルド内で別れている。
外に出ると、見覚えのある甲冑を身に纏う女性が、笑顔を向けて此方へと歩み寄ってきた。
「お待ちしていました。ファルミア様、聖女様、そしてスレイ殿ですね。教皇庁への案内を任されました、エストと申します」
見覚えのあるフルプレートアーマー。それは昨夜、ギルドの模擬戦場で俺を包囲していた者達と同じ物だ。聖騎士と判断する。
伝言を伝えた事によって、此方の案内でも押し付けられたのだろうか。運の無い事だ。
「エスト?たしか、聖騎士団の副団長じゃねぇか。こりゃ大物が出てきたもんだ」
「大物?そうね、副団長と言えば大物になるのかな」
「いや、それもあるんだが、エスト・ヴェサリア。枢機卿の一人でもあるヴェサリア家の息女でもあるんだよ。有名なんだぜ?まあ、美人だっていうのも人気の秘密だがな」
騎士団と言えば屈強な男が纏め上げているものだと思っていたのだが、そこは置いておいて、たしかに彼女は見目が良いんだろう。
目つきこそ鋭いが、綺麗な空色の瞳に澄んだ青い長髪。甲冑を身に付けてはいるが、スタイルもとても良いのだろう。
「スレイ殿、今の私は聖騎士団の一員として任務に就いています。家の事は・・」
「あぁ、すまんすまん。・・まあ貴族ではあるが、お前の嫌いな部類じゃねぇ。だから、そう怒るなよ姉ちゃん」
彼女との会話は、私達よりも歩み出たスレイが対応しているのだが、不意に此方へと困った様な表情を向ける。
俺としては平常心を保っているつもりでいたのだが、スレイの振ってきた内容に首を傾げる。
「・・ん?怒って・・るか、私?」
「ああ、そりゃもう、な。横、見てみろよ」
ハッとしてスレイの反対側に位置するエリスの方を見ると、とても心配そうに、俺の袖を摘んで此方を上目遣いで見上げていた。
いかんな。貴族っていうのを見ると、どうも過剰に反応してしまうようだ。これから貴族しかいない場所に赴くのに、この状態はまずいだろう。
「ごめんなさい、大丈夫、もう平気よ。エリス」
反対の腕でエリスを撫でてあげる。これで心配を払拭できるかはわからないが、彼女の表情に笑みが戻ると、こちらも安堵した。
契約の後からこうして頭を撫でると、エリスは嬉しそうに笑う。歳相応に、とても無邪気に。
「んじゃ、行くか。案内頼むぜ」
「わかりました。それでは、此方です」
聖騎士に先導されての移動は、連行でもされているのかと奇異の目に見られるのではと思ったが、それより何より、自分に向けての視線がとても多い。
エルフの姿が珍しいのか、それとも着ている和装の方が珍しいのか。どちらもこの国では一般的ではないのだろう。そもそも和装が一般的な場所が、この世界にあるのだろうか。
特にこれといった出来事も無く、教皇庁への道を進むのだが、少々気になっていた事もあるので、確認しておこう。
「スレイ、貴方ギルドランクはどうなっていたの?」
あの時の貴族に操られていたセリエの行動が、本当に通ってしまっているのか、そこが気になっていた。
「それか。あの時、やはり一度はAに落とされたらしいが、今日セリエに確認してみたら、Sランクに戻りだとよ。あの一件はギルド側からしても隠したいんだとさ。まあ、何かしらの圧力があったのは間違いねぇだろうけどな」
「なるほどね。要するにもみ消しって事でしょう?貴族様の考えそうな事だわ」
「そう言ってやるな。あの時の事が露見したら、貴族だけでなくギルドも運営に差し障るだろ?互いに利害の一致があったんだろうよ」
利害の一致とは聞こえこそいいものの、結局は権力を持つ者同士で勝手に決めた事だ。スレイには何の補填もなく、ただSランクに戻しただけ。聞いてはいないが、セリエに関してはどうなったのだろう。
いけないな、ギルドにももう興味が無くなってきている。腕を組みながら嘆息すると、前方を歩くエストからも声が聞こえた。
「今回の一件で、スレイ殿、及びギルド職員の方々にも多大な迷惑、心労を掛けている事は理解しています・・ここからは教皇庁の方でお話頂けると思います」
「いいわ。そもそも、私はもうこの国に何一つ期待していないの。今回私が来たのは、エリスのお守みたいなものよ」
「・・・っ」
自分で、確かに心ではそう思っているし、口にした言葉も俺の意思だ。だけど、どうしてかこういう事を素で言えてしまう事に疑問を感じる。
たしかに俺はこの国に期待するモノがないと思っている。だが、それは今は、なんだと思う。まだ、俺の見ていない部分もある。
見ていないという部分が俺にとって、エリスにとって良いモノか、悪いモノか定かではないが、それを見てみたいと思うという事は、まだ俺はこの国に期待というか、そういうものを望んでいるんじゃないかと思う。
目の前に聳え立つ白色の建造物。衛兵が駐屯している門を過ぎると、広がるのは色鮮やかな花が咲く花壇に挟まれた道。
「随分と綺麗な場所だなぁ、俺ぁちょっと場違いな感じがするぜ」
「いいえ、スレイさんは私の護衛なのですから、その様な事はありません」
「だそうよ。ちゃんと守ってあげてね、護衛さん」
やれやれ、と言いたげに苦笑するスレイを横目にエリスと二人で笑い合う。そこに門での手続きが終わったのだろうエストが合流する。
「お待たせしました。ここからまた少し歩き、内門の先が教皇様との謁見の間になります。こちらです」
同じ様に先導して歩むエストなのだが、その顔に出会った時の様な笑みは無い。先ほどの俺の言葉が尾を引いてるのだろう。
今更、俺から何かを言った所で、さらに彼女が精神的に追いやられるだけだろう。少し反省しよう。貴族は嫌いだが、会う貴族全てに今の対応をしていては、ただ悪戯に敵を作るだけだ。
エリスの契約者となった手前、こういった態度のままではいられない。
花に囲まれた道を過ぎると、先ほどの門より更に背の高い荘厳な造りの門の前に立つ。門そのものに微かな魔力を感じる。
俺達が傍まで来た事で、門が開かれていく。これは自動的に開く門なのだろうか、と不思議に思っているのも束の間。門の先に広がる光景に、素直に感心していた。
石畳の道の両脇にエストと同じ装備をした騎士達が、剣を胸に立ち並んでいる。
開かれた門の中に足を進めるのだが、そこで先導していたエストが此方を振り返り、一礼して横に移動する。此処からは俺達だけ、という事なのだろう。
「じゃあ、行こうか二人とも。ここからはエリスが先頭で、私とスレイは後ろに控えるわ」
「はい」「おう」
害意というモノは感じ取れる。何かもやもやしたものが、自分の方に向けて伸びてくる。それがどんなモノか、この世界に来たばかりの頃は良くわからなかったのだが、母さんとの半年の間に、それも理解していた。
だからこそ、操られたセリエのそれは感じ取れた。だが、今ここにそういったモノはない。抜剣している騎士の横を通るのは中々に警戒するものだが、必要はなさそうだ。
居並ぶ騎士達の先に、二人、片方は甲冑こそ他と同じだが、身に付けている各部の装備が他の騎士達と違う、年齢は40代程の男の姿。
もう片方は一目見ればメイドとわかるそれだ。眼鏡をかけ、黒い髪は本来長いのであろうが、上で結っている様だ。
奥にある宮殿の様な建造物の、そこに至る階段の前で此方を待っていたようで、騎士達の間を過ぎると、こちらに近付いてくると、その場に跪く。後方となった騎士の全てが、その行動に続いた。
「「聖女様、御無事のお戻り、お慶び申し上げます」」
「ただいま戻りました、バームンド卿。ファリア。至急猊下の下に参ります」
「わかりました、それでは、此方へ」
多分、騎士団長なのだろうバームンド卿と呼ばれた男。そして横のファリアと呼ばれたメイド。
バームンド卿は恐らく、ここからの案内を任されているのだろう。ファリアの方は・・よくわからないが、エリスの使用人の様な立場なのだろうか。
宮殿の中に入ると、そこは今までの町並みや建造物の造りとは違い、俺からすればとても古い感じがした。
今までは中世的な趣をそこかしこに感じていたのだが、ここはそれよりも更に古い印象を受ける。まるで何百、何千年と同じように此処に在るのではないかと。
「ここは代々の教皇猊下が住まわれている場所であり、本来私共も先ほどの門から先に、立ち入る事は許されておりません。今回は特例中の特例として、御案内致します」
「なるほどね。エリスは此処に来た事はあるの?」
「私は・・そうですね、一度だけ、聖女として迎えられた時に」
エリスですら一度だけという事は、たしかに教皇以外の人間はあまり入る事はないのだろう。そのわりに細部に至るまで掃除が施されているのを見るに、使用人位は居るのだろう。
「到着です。この扉の先に猊下がいらっしゃいます・・念のためですが、あまり御無礼の無い様頂けると、良いのですが・・・」
「無礼・・ねぇ。私は別に、この国に世話になっている訳じゃないから必要ないと思うんだけど」
「ですが、私は孤児院に行きたいので、あまり此処で騒ぎになると・・」
うっ・・たしかに、この後に街中にある孤児院に向かうのであれば、ここで下手に騒ぎを起すと面倒になる。
何より、エリス自身も今から会うであろう人物との間に確執は残したくないだろう。
「はいはい・・じゃあ、まあ私はあまり喋らないでおくわ」
バームンドと呼ばれていた男が嘆息する。彼もこの後にどう流れが進むかで一番面倒になる立場の人物だろう。
「聖女様御一行をお連れしました」
その言葉と共に扉がゆっくりと開かれる。まず目に入ったのは玉座の背に広がる壮大なステンドグラスだ。色彩こそシンプルだが、中央に模られた白い花が日の光を浴びて輝きを放っている。
視線を降ろすと玉座に、昨夜見たあの小さな少女が座っている。その表情に笑みは無く。聖女よりも俺の方を睨んでいる印象を受ける。
バームンドが先導し、教皇の前で跪く。それに倣い、エリスとスレイも跪いたのだが、俺は腕を組んでその場に佇む。
「あの・・ファルミア様」
「喋らない、とは言ったけど、それ以上をするとは言ってないわ?私は別に教皇の臣下でもないんだし」
「ですが、それは・・」
「よい、そのままで構わぬ。面を上げよ。聖女、そしてスレイよ」
小さく肯定の意を示したバームンドは、俺達の列から外れ、壁際に立つ貴族連中の横に並ぶ。
改めて教皇を見るのだが、やはりどう見ても三十路を過ぎているとは思えない。エリスよりも小さいのだから、全く理解できない。
「聖女・・いやエリスよ。よくぞ無事に戻った」
「はい、御心配をおかけしました。遅くなりましたが、帰還出来ましたのは、此方のファルミア様と、森で出会った冒険者の方々の御助力によるものです」
「・・やはり、そうであったか。ファルミア、大儀であった。よくぞ聖女を無事にこの国に帰してくれた。感謝する」
教皇がその玉座より立ち上がり、深く頭を下げた。それに続く様に、周囲の貴族達も頭を下げる。
教皇が頭を下げた事にエリスもスレイも驚愕する。スレイの方は落ち着きを失くし周囲を慌しく見遣る。
「大した事はしてないわ。冒険者の人達に同伴できただけよ」
「冒険者というのはこの者達か?」
教皇が横に顔を動かすと同時、玉座の横にある扉が開き、そこからミレイ達、見覚えのあるメンバーが姿を現す。
「お久しぶりです、ファルミアさん。あの時は、お世話になりました」
「久しぶりね。それで、何故ここに?」
「教皇様より此処に来るようにと、あの森から最近帰った冒険者は君達か、と聖騎士の方に言われまして」
人質でも取ったつもりか。あの夜に会った教皇が、まさかこんな手段に出るとは思わなかった。俺の力は昨日、十分に分かっている筈なのに。
知らず内に次第に苛立ちが募り、それは魔力の威圧となってこの室内を圧迫し始める。
「昨夜、思い知った筈なのに、まだ懲りていないようね。エリスも世話になった彼女等を人質にでもしたつもり?」
横に並ぶ貴族達が怯えた様に後退り、尻餅をつく者もいる。ミレイ達も焦り始め、教皇に視線を向けると、息苦しそうにしながらも、声を絞り出した。
「待て・・お主が考えているような理由で呼んだのではない・・!ただ礼を言いたかっただけなのじゃ・・!」
「そ、そうです!私達は人質というわけではありません!」
あ、あれ・・そうなの?まずい、先入観が先走り過ぎて、結局問題を起してしまった。
「そ、そうなの?ごめんごめん、私の勘違いね」
魔力による威圧が晴れると、そこかしこから嘆息する声が聞こえる。そしてエリスからは少し呆れた目で見られる。
勘違いとはいえ、一国の主君を脅していたというのに、居並ぶ貴族からは咎める声はない。ただただ、安堵した顔を見せている。
「はぁ・・目の前でやられると、正直答えるのじゃ・・」
「ほんとですよファルミアさん・・一体どれだけの魔力を持ってるんですか・・」
・・?ミレイと教皇の口調がやけに砕けたものに感じる。ミレイ達はいいんだろうか。それに対しても貴族達に動きはない。
教皇を心配そうに見る者もいるが、それだけだ。
「姉さん・・落ち着きましたか?」
「あ、あぁ、うん。ごめんね、結局こうなっちゃった」
「いえ、多分・・・これで話を進めやすくはなったと思います」
悪戯をして怒られる子供よろしく、シュンとしていたのだが、エリスの言葉に不思議そうに首を傾げた。どういうことだろうか。
「猊下、少々お話がございます。姉さんについてです」
「あぁ、私も聞きたい事が今出来た」
俺の事?話す必要があるんだろうか。
エリスの言葉の真意がわからない俺は、ただ、言葉の続きを待った。教皇も話を聞くようで、ゆっくりと玉座に腰を下ろす。
俺が竜だという事を言っても良いのだが、それもいらぬ問題を引き起こすだけではないだろうか。
「まず私から聞こう。その、姉さんというのはなんじゃ?」
「私を救ってくれた際、聖女という身分が露見するのを防ぐ為に偽ったのです。今もこう呼んでいるのは、私からのお話をお聞き頂ければお分かりになるかと思います」
「ふむ・・言ってみよ」
「では。こちらの、ファルミア様は竜です」
とんでもないレベルでぶっちゃけたぞエリス。やはりエリスが何か変だ。教皇達も目を見開いて呆然としてるんだが・・・。
教皇達が回復するまで、1分弱経過するまで、俺も同じ様にエリスを見て呆然としていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
もう1年終わると思うと、本当に速く感じますね。
歳なんだろうか・・・。
修正
タイトル修正 12/29