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竜の子とともに  作者: 眠々
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17話 運命の日「前編」

17話前編 完了です。


 風邪、治りました。

 

 時刻は丁度お昼を過ぎた頃だろうか。私は何故か教皇様のいらっしゃる謁見の間にいます。

 一介の冒険者、さして功績を挙げた訳でもないし、ランクから言っても私達のパーティーが呼ばれる理由が全くわからない。


「そう硬くならずとも良い。今日、この場においては貴族、平民関係無く接して欲しいのじゃ」


「いや・・そうは言われてもよ・・・」


「ガルド・・!あんたちょっと黙ってなさい!」


「ライム・・教皇様の御前だぞ。少し静かにしないか・・」


 うっ、と口元を手で押さえ、小さく謝罪をするライム。実際、ガルドの意見も尤もだと思う。

 これまで、私達はただの平民で、冒険者で、稀に貴族様の依頼なんかもあったが、実際に会う事は無かった。使用人が依頼の発注や進行具合を確認しに来た程度。

 使用人とはいえ、貴族と常に接する人間だ。やはり私達平民とは言葉遣いから仕草まで、全てが違った。


 今、私達のパーティー4人は教皇様の眼前で跪いている。悪い事をした覚えはないし、ここに呼ばれる理由が明かされていない。

 ただ、ギルドに寄った際、屋内に何故か聖騎士団の人間が居た。そこで昨日試しの森から帰った冒険者パーティーは君達か?と言われれば、肯定するしかないだろう。

 下手に虚偽の内容を言って、聖騎士団に目でも付けられたら、それこそこの国にすら私達は居れなくなる。


「あの・・それで、私達がここに呼ばれた理由とはなんでしょう?」


「・・そうじゃな。お主ら、試しの森から帰還する際、二人の少女と出会ったじゃろ?」


「えぇ、確かに会いましたが、それが何か・・」


「隠すつもりはない。率直に言おう。エルフの少女と共にいたあの少女は、この国の聖女なのじゃ」


 ガルドは首を傾げ、ライムとコールは呆然。私もその言葉が俄かに信じる事が出来ない。多分私も、驚きを隠せないでいるだろう。


「聖女の姿はこの国の中であっても、一部の人間しか知らないのじゃ。普段は教会区にある孤児院でシスターの手伝いをしているくらいじゃからな」


「・・仮に、あの子が聖女様だったとして、何故あの様な場所に?あそこは私達の様な冒険者ですら、限られた者しか近付かない場所ですよ?」


「・・聖女はとある者の陰謀によって、あの場所に連れ去られたのじゃ・・だが、それをあのエルフの少女と、お主らに助けてもらったらしいのでな。今日、呼んだのはそれについて礼を言いたいというのが一つじゃ。ありがとう。聖女を救ってくれて、本当に、感謝しているのじゃ」


 玉石と見事な宝飾に彩られた椅子に座りながらも、この国のトップが冒険者に頭を下げる。その意味を瞬時に理解したのは、ミレイのみ。

 すぐに止めるよう他の貴族達が介入するだろうこの流れで、周囲に立つ貴族達は誰一人その行動を咎めようとも、止めようともしない。貴族というのは総じてプライドが高いものだ。平民になど、頭を下げる必要が何処にある?というのが常識だろう。

 だが、この謁見の間では更におかしな現象を目にする事となった。


「「「「感謝致します」」」」


 居並ぶ貴族達が声を合わせてその言葉を口にすると、皆静かに深々と頭を垂れた。


「な、なんで・・・」


「・・当然であろう。貴族といえど、礼を失するような真似はしたくないのじゃ」


 顔を上げて、朗らかに微笑む教皇の顔に、パーティーメンバーの強張った表情が徐々に和らいでいく。


「私達も、当然の事をしたまでです。それに、私達は行動を共にしただけです。聖女様を傍でずっと守っていたのは、他でもないあのエルフの少女、ファルミアさんですよ」


「・・そう、か。あの少女が、聖女を守っていたのか・・」


 微笑む顔が悲しみに染まっていく。教皇のその表情に首を傾げ、あっけらかんとした声でガルドが尋ねる。


「どうしてそんな顔をするんだ?聖女様は帰ってきたんだろ?」


「ガルド!」


 ライムの大声が広い謁見の間に木霊する。肩身の狭そうに萎縮するガルドの横で、威嚇する様に睨むライム。

 あの表情を見るに、教皇様とファルミアの間に何かがあったのは理解できる。聖女様の帰還を助けたファルミアが、何か粗相でもしたのだろうか。


「・・お主ら、ルースヴェン卿を知っておるか?」


「ええ、私達はあまり教会に足を運びませんが、名前くらいは聞いた事があります。たしか、大司教様でしたか?」


「うむ、大司教であり、この国の貴族の一人じゃ。そのルースヴェン卿が昨夜、屋敷諸共消滅した」


 息を呑む。消滅したとは、一体どういう事だ。貴族階級ともなれば、屋敷は結構な広さがあり、私兵すらも持つ事ができる筈だ。

 その屋敷が消滅。ミレイ達を驚愕させるには十分過ぎた。


「何故・・そのような事に・・?」


「・・昨夜、起こった事を話そう。私の起こした過ちと共に」


 いまだ悲哀に染まった表情で、教皇様はぽつりぽつりと話し始めた。私達と共に過ごした二人の少女が、昨夜遭遇した出来事について・・。













「さて、じゃあ行くね母さん。スレイなら大丈夫だと思うけれど、あまり待たせては駄目だからね」


「うむ。あの男、中々面白い人間だ。死なれては我の遊び相手が減る」


「大丈夫ですよヴァルニア様。スレイさんでしたら、姉さんの攻撃を受けても平気でしたから」


 互いに笑い合いながら、何やら不穏な空気を伴う会話をする二人。母さんはなんとなくわかる。だが、エリスの言動に焦ってしまう。

 あの粛々とした態度はどこへやら。白水との会話を終えて、あの空間から出てきたエリスの態度、雰囲気が今までのそれとは大分違っているのを感じる。


「白水・・エリスに何を言ったの・・?」


「大丈夫です。エリスさんはとても見所がありますよ、主様」


 傍に立つ日本人形の様な白水に、それとなく小声で尋ねるのだが、望む内容の答えは一切返ってこない。それに対し頭を抱えるのだが、まあ、二人が仲良くなってくれたのは、喜ばしい事だろう。

 刀の形に戻っても良いのだが、エリスの要望により、白水は人の姿を保ったままでいる。魔力の消費に関しては全く問題にならないので、特に俺からも断る必要は無かった。


「スレイさんもSランク冒険者の方ですから、姉さんとヴァルニア様には負けますが、それでも実力は多分・・えっと、すごい・・と思います」


 最後、若干口ごもったなエリス。まあ、横にいるのが俺だし、さらに母さんまでいるとなれば、断言できないのも無理もない。

 そのスレイだが、俺達が出発するよりも早くに聖教国に移動してもらっている。理由としては、伝言役を務めてもらっているからだ。


 聖女が国に帰ると言うから、連れて行く。また聖女が害意に晒された時は、国ごと潰す、という脅迫めいた伝言をだ。

 元々そんなつもりはないのだが、これくらいの事を言っておけば、あの教皇の事だから俺に対して莫迦な真似はしない様に徹底するだろうという期待もあるのだ。


「そろそろ行きましょうか。スレイにはギルドの模擬戦場で待つように言ってあるし、そこからは歩きましょう」


「はい、それでは、お世話になりました、ヴァルニア様」


 礼儀正しく深く礼をするエリス。俺は手を振る程度に留めたのだが、次からは俺もそうしてみるか、とギルドへと移動する最中、考えていた。




「お、やっと来たか。待ってたぜ」


 エリスと共に空間の跳躍を行い、ゆっくりと模擬戦場へと景色が変わった場所に降り立つ。

 そこで待つのは先に伝言役として送っていたスレイ。そして、その横に見覚えのある姿があるのが目に入った。


「受付をしていた子ね。たしか・・セリエ・・だったかしら?」


「は、はい!覚えていて下さったんですね」


 猫耳をぴこぴこ動かしながら、嬉しそうに尻尾を揺らすギルドの制服であろうものを纏った女性がいた。

 魔力によって操られていた時の、俺に対しての不快で無表情な顔はそこに無く、歳相応に可愛らしい笑顔を浮かべている。


「スレイ、彼女、あの時の事は?」


「魔力によって操られていた間の出来事については、操られながらも、全て見えていたらしいな」


「申し訳ありません・・」


 笑顔から一変して、悲しそうな表情を浮かべる彼女に、どうしたものか、と考えてみる。謝られても此方としては特に彼女自身から被害を受けた訳ではない。

 尻尾も先ほどとは打って違い、力無く下がってしまっている。そこに横から救いの手が差し伸べられた。


「良いのです。あの時の件は、全てルースヴェン卿の所業。貴女に罪はありません」


 悲しみに暮れる少女の下へ歩み寄り、優しい声音で諭すエリスの言葉に、セリエは慌てて跪く。


「・・聖女様・・!・・ありがとうございます・・」


 聖女オーラが湧き出ている様に感じる。俺と契約を果たしてからというもの、エリスという少女を構成する全てが変わっている気がする。たしか、紅の契約者もそうだったな。

 物静かなエリスも良いが、過去のエリスも、今のエリスも、これから先も、彼女は彼女なのだから、好きな様に変わっていけばいいんだと思う。


「・・姉さ・・姉さん?」


「あっ、ど、どうしたの?」


「いえ、少しボーっとしていたみたいですから」


 くす、と、本当に面白そうに笑うエリスに、彼女との契約は間違っていなかったと、再認識する。誤っての契約ではあったが、心配していた事は杞憂だったようだ。


「んじゃ、行くか。教皇庁で謁見するって話になったぜ。案内する」


「ええ、お願い。けど、スレイも参加するのよ?」


「はっ!?」


「当然じゃない、貴方はエリスの護衛なのよ?そう言ってあの時依頼を受けたじゃない」


「いや・・まあ、そうなんだが・・・俺もかぁ・・・」


「よろしくお願い致します、スレイさん」


 柔らかく微笑むエリスに、それを断る手段がスレイにはなかったのだろう。諦めた様に肩を落とし嘆息する。

 実際、エリスにあんな風に言われたら、多分俺も、どんなお願いであっても了承してしまうだろう。そんな破壊力を秘めていた。


「主様」


「ふわっ!」


「とてもだらしの無いお顔でしたよ」


「ぐ・・・ほんと、最近私に冷たくない?白水」


「ん?誰だこの譲ちゃんは」


 そういえば、スレイとはまだ会っていなかったな。どう説明したものか、正直に俺の刀、といえば済む話なのだが、白水のように意思を持つ武器というのが、どれほど珍しい物なのか、正直な所まったくわかっていない。

 

「私の名は白水。主様に従う物であり、刀でもあります」


 刀はおまけなのか・・・。言葉のニュアンスからしてそう取れてしまうのだが、それよりも、隠すか隠すまいか悩んでいた俺と違って、正直に話してしまったのだから、どうしようもない。


「あぁ、なるほどな」


「ん?驚かないの?」


「なんでだ?姉ちゃんの従者なんだろ?貴族様でもないのに従者がいるのは不思議だが、姉ちゃんならいてもおかしくないだろ?」


「あ、あぁ、うん、そうね」


 間違った解釈をしているようだが、問題はないだろう。というか普通に姉ちゃんって言うなよ。お前俺の素性知ってるだろうに。

 なんだか変に考えていた俺が馬鹿らしいな。あとでスレイを鍛えて鬱憤を晴らそう。


「まあ、それじゃ行くか。あちらも待ってるだろうしな」


「そうですね。それでは、姉さん」


「行きましょうか。今回は、穏便に済ませられたらいいんだけどね」


 あんな伝言を頼みながら穏便って・・とスレイの呟きが聞こえたが、気にしないでおこう。あちらがどう対応するかによって、俺の対応も変わるんだからな。

 まあ、でも教皇はわかっているだろう。今日この日が、聖教国の運命を決める日なのだから。 

お読み頂き、ありがとうございます。


年末は更新が止まる・・・かもしれませんが、ご了承下さい。


修正

タイトル修正 12/29

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