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竜の子とともに  作者: 眠々
17/27

16話 主の為に

16話 完了です。


 風邪、酷いです。寝正月だけは嫌だなぁ・・・

 今回は短いです。


 ファルミアがスレイを崖から放ったその頃、聖教国でも一部の人間のみが入室を許される、円卓の間において緊急の会議が行われていた。

 円に繋げられたテーブル、そしてそこに座る者はどの者も、聖教国の中で権力という力を持つ者である。


 平時であれば、教皇は笑みを絶やさずにいるのだが、今日ここにおいては教皇の絶望した様なその表情に、出席した者は心を痛め、そして皆が皆、この静まり返った室内の空気に疑問を抱いていた。


「め、珍しいですな。猊下直々の召集とは。それで、何かあったのですかな?」


 口火を切ったのはこの国の枢機卿の一人、いわば教皇に次ぐ発言権を持つ者だった。

 その言葉に周囲の出席者は安堵する。この無言の状態を打破した彼を、誰もが賞賛した。

 何のために、教皇自身がわざわざ水晶を用いてまで召集を行ったのか。それについて何も知らされてはいないのだ。


「・・昨夜、ルースヴェン卿が亡くなった。そして、卿の屋敷も消滅した」


 唖然とする者、声を荒げる者、それぞれ反応はバラバラだが、聖教国の大司教の一人が死んだ事に驚きを隠せない。


「あの・・消滅・・とは、一体どういうことでしょう?」


「・・言葉通りじゃ。昨夜、私は凡そ人とは思えぬ尋常ではない魔力を感じ、その場所へ赴いた。そこにあったのはルースヴェン卿の屋敷が見る影もなく、ただ荒地となった場所があっただけなのじゃ」


「猊下!その様な状況を知りながら、何故自らが赴かれたのですか!」


 自身の言葉のすぐ後に、間髪いれず騎士団長の声が上がる。テーブルを叩き、怒気を孕んだ声に、周囲の出席者はびくりと呆気に取られている様に見えた。

 団長の言葉は尤もだ。そもそも、この手の内容については何度も言われている。危険な事と知りながらも、教皇自身が何度もその渦中に飛び込む事は、団長だけでなく、傍付きや従者にも幾度と無く言われ続けていた事だ。


「私達聖騎士団は民を守る事もありますが、我等の本懐は猊下の盾となる事と、何度も言ったではありませんか!何故、理解して下さらない・・!」


「だが、今回のあの魔力についてはじゃな、少々お主達には・・」


「我等では猊下の御力に及ばない事は百も承知です!それでも、私は、私達は・・猊下をお守りできなければ、一体何のための騎士団なのですか・・!」


「落ち着かれよ、団長殿・・。猊下のこういった行動には、我等も何度も進言したのだ・・。猊下、ここまで御身に忠義を尽くす者に、この様な仕打ちは・・」


 うっ・・、分かっている事ではあるのだが、エレインは今回の事について、騎士団ではなく、自身の元に居た近衛騎士のみを連れて現場に赴いた。

 それは単に早急な調査を行う必要があった、というだけではない。感じた魔力の強大さに大きな危険性があり、それの調査に聖騎士団を向かわせ、何かあった場合、国の防衛力の低下と自身の存在を天秤に掛けた上での判断だった。


「この様な事、本当に、本当に!今後は控えて頂きたい・・」


 騎士団長は額を抑え、顔を隠すようにして押し黙ってしまう。ほんの少しだが、嗚咽の様な声が聞き取れる。


「すまん、本当にすまん。じゃが、どうか民達の事を考えた上での判断だと、理解して欲しいのじゃ」


 教皇という立場上、確かに守られる事については仕方の無い事。だが、それよりも彼等には民の事を一番に考えて欲しい。

 私なら大丈夫、などという驕りから来る理由ではない。国を支えているのは、私ではなく、この国に生きる民達なのだ。


「・・話が逸れたな。それで、今回召集した理由じゃが・・・二日前、聖女が姿を消した」


 ざわつく室内。聖女とは、ここ、聖教国において特別な存在であり、かの教会の、そしてこの国の崇める神、慈愛神イグリースの加護を持つ者。

 その聖女が姿を消したとあっては、驚愕するのも当然、そして何より、ここの出席者は、私と聖女の関係を知っている者だ。


「落ち着け、聖女は昨日この聖教国に戻った・・・・一人のエルフの少女と共にじゃ」


 各出席者が安堵し、そして手を合わせて祈る仕草を取る。まだ、話は終わっていないというのに。


「まだ話は終わっておらん。聖女の帰還を助けたその少女は、冒険者となる為にこの国に来たと言っておった。そして、冒険者ギルドでの試験の際、試験監を魔力で操った者が、少女の怒りを買った。そして、その操者の元に向かい・・その存在そのものを消滅させた」


「存在・・を・・・?まさか!」


「あぁ、そうじゃ。その試験監を操ったのがルースヴェン卿であり、その際、聖女が姿を消した理由も自分だと言ったそうじゃ」


 信じられない。そう言った声が方々から上がる。ルースヴェン卿はたしかに強欲の塊の様な者であったが、それでも聖教国に多く貢献した敬虔な信徒でもある。

 何が卿を腐らせたのかはわからないが、それでも、あの少女からの話でありながらも、己の奥底に苛立ちと不快感を感じるのは当然だった。


「ルースヴェン卿は呪術をもって聖女に呪いを施し、近衛と影を殺害、そして聖女を単身試しの森へと放り込んだらしい。そのエルフには、そこで助けてもらったのじゃという」


「そのエルフの冒険者は何処に?それが事実であれば、聖女様の救出について恩賞を与えるべきではないでしょうか?」


 そう、本来であればこの国の聖女を救ったとして、多大な恩賞を与え、称えて然るべきなのだ。

 だが、それよりもまず、昨夜あった事を包み隠さず、ここに居る出席者に説明しなければならない。何よりも、恩賞を与えるべき少女は既に・・


「・・おらんのじゃ」


「・・・え?」


「おらんのじゃ。その少女も。そして・・聖女も。今、この国にはな」


 席を立って聖女の帰還を喜んでいた者が、徐々にその表情を曇らせていく。


「どういう・・ことでしょう?」


「私がいけなかったのじゃ。昨夜、冒険者ギルドには私も向かい、少女の魔力と、そして聖女の魔力も感じ取り、その場に居る事はわかっていた・・・聖女の下へすぐに行くべきじゃった。そうしておれば、この様な事にならんかったのじゃ」


 あの時、私は聖女の魔力を感じ取っていた。だが、今まで感じた事の無い強大な魔力を警戒し、近衛達に包囲させてしまった。少女が、聖女の救出を行った英雄と知っていれば、この様な事態も防げたのかもしれない。

 私自身が、聖女の下へすぐ駆け寄って、心配する素振りだけでもすれば、この流れにはならなかったのかもしれない。


「ふふ・・・少女に言われたよ。会いたければ、騎士達よりも先に来れば良かったでしょう、とな。・・年甲斐も無く、目を腫らしたよ。私の知らぬ所で・・エリスが、苦しみに喘いでいた時に、私は何をしていたのだろうな。気を失っていたエリスは、少女の力で転移したようじゃ。とても穏やかで、安全な場所にいる、そう言っておったよ」


「・・・それでも、私は猊下の御判断は間違いではないと、思っています・・!」


「・・あぁ、教皇としてのならば、それで間違いはないのだろうな・・」


 先ほどまでの嬉々とした室内の空気とは打って変わり、悲哀の感情のみが、渦巻いていた。


「その少女は最後にこう言った。エリスが私に会いたい、と懇願するのなら、連れてくると」


「・・聖女を一度救ったとはいえ、今度は一変して誘拐ですか・・今度、この国に来た時は、必ず報復を・・・!」


 煮え湯を飲まされた顔で騎士団長が呟く。その言葉に、私の頭の中の全てが警鐘を鳴り響かせた。気が付けば席から立ち上がった上でテーブルに両手を着き、捲し立てる様に声を荒げた。


「いかん!それだけは絶対にやめるのじゃ!絶対に、あの少女に手を出してはいかん!!」


「・・・っ」


 私の剣幕に押され、一同は押し黙る。あの少女の機嫌を損ねた場合、何が起こるか定かではない。いや、あの魔力だ。この国を一瞬で灰燼と成す事も可能であろう。


「・・何故ですか!聖女様を誘拐されて、黙っていろと仰るのですか!?」


「ではどうしろと言うのじゃ!この国を一瞬にして崩壊させる様な魔力の持ち主を相手に、どう報復などするのじゃ!下手に敵意を向けて、この国を、民を危険に晒せと言うのか!?」


「です・・が・・・!」


「まだ分からぬか・・・。あの少女は、ギルドの魔力測定において、あの水晶の計測上限を超えた。そして扱える属性は時を含む8種・・空すらも切り裂く魔力の持ち主に、どう対処するのじゃ・・・それに、これを見よ」


 手を上げて、後ろに控えていた従者に合図すると、小さな鉄の塊を乗せた皿を持って歩み出る。それを手に取り、出席者に見える様にテーブルの上にそっと置いた。


「・・これは?」


「あのエルフの少女に対し、近衛の一人が声を荒げたのじゃ。そして、その者に少女は指先を向け、次の瞬間にはこの鉄の塊が近衛の居た場所に落ちていた。私にも、どの様な魔術を使ったのか、理解できん」


 教皇の傍に立つ近衛とは、この国の中で聖騎士団の中でもエリート中のエリートのみが配属される部隊であり、聖騎士団の中でも近衛に配属されるのはこの上ない名誉でもあった。

 そのエリートの騎士が、エルフとはいえ、少女を相手に遅れを取った事が、既に信じられない事だった。


「この鉄の塊、いや、近衛騎士はまだ生きているのじゃ。手に触れると、鼓動を感じる。少女も、まだ殺してはいないと言っていたのじゃ」


「この状態で・・まだ、生きていると・・・?」


「ああ、だからこそ、あの少女の機嫌を損ねてはならないのじゃ。私は聖女も守りたいのじゃが、ここにいる近衛も守りたい。私は我儘じゃからな・・だから、どうか御主等も協力して欲しい。頼む、この通りじゃ」


 言い切ると、教皇が深々と頭を下げた。一瞬の逡巡の後、そこに出席していた者は、誰からともなく何も言わず席を立ち上がり、椅子の横で教皇に向かい頭を垂れた。中には涙を流す者もいる。この方に想われる我等は等しく幸福で、恵まれていると。

 この小さな教皇の為に、自分達は何を犠牲にしても、その笑顔だけは守り抜かなければと、さらに堅く決意した。

お読み頂き、ありがとうございます。


5000PV、1000ユニーク突破しました。

これからもよろしくお願いします。

また明日、更新できればいいのですが、体調次第なので未定とします。

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