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竜の子とともに  作者: 眠々
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14話 過去

14話 完了です。


風邪を惹いてしまいました。

明日の更新は、ちょっと出来るかわかりません。


「ん?」


 自分の身長よりも長く、燃える様に紅い髪をした女は、蹲る様にして眠っていた身体を起こす。紅眼の瞳に映るのは窓の向こうであり、その先から、いや、正確な場所こそ不明なのだが、何かを感じた様に暫くの間眺め続ける。

 気配、とは違う何か。だけど、この感じは以前、一度だけ感じたものだ。


 それは自分の契約者との契りの瞬間であり、自分にとって生涯忘れる事のない感覚。そういえば、わたしの他に白いのがいた筈だ。

 特に興味の無い事は、覚えていない。だけど、対等の存在という場合、嫌でも忘れなくなる。


 いつもわたしの全てを見透かした様に語るあいつが、わたしは嫌いだ。喧嘩だってしそうになった。けれど、人間を巻き込むのは此方としても不本意だったので、その流れは回避した。


「んむ、わたしが見逃したんだ!うん!」


「夜に何を言っているのかしらね、貴女は」


 どや顔でそんな事を言っていると、横に腰掛けた契約者に頭を撫でられる。この行動はとても好きだ。

 初めて会った時は死にそうな顔をして寝床に入ったまま、それでも何故か笑いながら頭を撫でてきた。私が本当はどんな存在なのかを知っても、この契約者だけは笑みを崩さなかった。


「なんでもない!」


 振り返って、にっ、と笑みを浮かべて彼女を見る。もっと撫でて、と言わんばかりに擦り寄りながら、優しいその手の動きに気持ち良さそうに目を閉じる。

 ああ、白いのが私と同じ契りを結んだのなら、今度、わたしの契約者と戦わせてみたいな。

 















 エリスが寝静まった後の事。出会った時から悪かった顔色はなりを潜め、あの光の後に見たエリスの眠る顔は、とても健やかに見える。

 今は眠りに着いたエリスを、囲炉裏のある部屋の前に生成した布団に寝かせ、寝顔を慈しむ様に正座した状態で眺めている。


「ねえ、母さん。あの光の後に、エリスの体調が回復しているように見えるんだけど、何かわかる?」


「・・なんだ、気づいていたのか」


 襖の向こうからスッ、と襖を開けて姿を現したのは、何度見ても反則級に美人の母さんだ。出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。着流した着物の胸元から零れ落ちそうな実りから、目を逸らすのが大変な状態。

 そんな状態の俺を気にせず、囲炉裏を挟んだ対面に寝転がる。


「我は言ったな。聖女に会いに行くのだろう?と」


「あぁ、そうだけど・・」


「我の予想通りだ。まあ、契約にまで至ったのは予想外であったがな」


 パチっ


 囲炉裏にくべた炭の音が鳴り、少し間を置いて母さんは語り始める。


「ファルよ。お前とこの娘の間との間に、契約は成った。お前は、この娘と契約をしたのだ。刃竜の契約、既に教えた筈だな?」


「いや・・エリスには、私が竜であるという事は話していないわ。ただの田舎者のエルフだと思っている筈よ」


 俺の答えに対し、盛大に溜息を吐かれる。心底呆れた、と表情からも読み取れた。


「お前、それはさすがに惨いのではないか?」


「惨い?」


「当然だろう。元々この娘は聖女という存在ではあるが、それ以外についてはただ光属性側の魔術を多少扱える程度の、ただの人であろう?お前が契約した事により、この娘は否応無く、これから世界全てに名を知れ渡らせる。刃竜の契約者としてな。そして聖教国の者達にもいるだろう?刃竜の契約者となったこの娘を、どうにか手駒とし、各国への牽制や、交渉を有利に運ぶ為に利用しようと考える者もな」


 たしかに、いきなり俺が実は刃竜で、しかも契約までしてしまった、と言われてもエリスは途方に暮れるのではないか。

 あれほど守る、と言った矢先に、いや、守ろうとして、逆にエリスを更に面倒事に巻き込まれる状態へと変えてしまった。


「そんな事はさせない。何があっても、エリスが私の契約者である限り守り通すわ」


 母さんに向いていた眼差しを、傍で健やかな呼吸を繰り返すエリスへと向ける。

 この安堵した表情を浮かべる契約者を守る力が、今の俺にはある。例え他の刃竜と契約者が来ても、絶対に守る。


 母さんの再びの溜息に、先程とは違う哀しげな意思が見え隠れする。とても辛そうに、けど、懐かしむ様にも見えた。


「・・皮肉なものだな。本来、黒刃竜の力とは己以外の全てに対する破壊こそ、司るものであり、存在理由であるのだがな。だが、お前は甘く、この娘に至っては聖女と呼ばれている。お前の先代、アレとはまるで違う。・・いや、似ている点もあるか」


「そういえば、母さんは前の黒刃竜を知っているの?」


 俺の先代、スキルにすら黒刃竜の破壊、と記載されているのだから、俺自身もその能力については推測する事は出来る。だが、その人と也については何も知らない。


「そうだな、この大陸には多数の種族が己の国を持っているのはわかるだろう?」


「え?ええ、知っているけれど」


 大陸の中央に位置するのが、母さんの住処だった大森林。南東に聖教国、南に王国、南西に帝国があり、王国の更に南に、にエルフやドワーフ等の種族国家があり、北は魔族領となっている。

 洞窟を出発してからの間に、白水から大体の地理については説明を受けている。ただ、国家がこうも綺麗に分かれている事に疑問は持ったのだが。


「今より遥か昔、この世界に大陸と呼ばれる物は4つあったのだ。エルフ、ドワーフ、シルフの住む大陸、ユグドラシル。魔族を筆頭に、多数の魔に属する種族が支配していた大陸、ネフィリア。そして、人族が住み大陸、オルタンシア。この3つの他に、現在全ての種族が住む大陸があった」


 初耳、なのだが、それよりも、今この世界に大陸は1つだけだ。他の大陸にいた種族が全てこの大陸に居るということは、資源の枯渇等が原因で移り住んだという事だろうか。

 だとしても、それだけでは他の大陸が存在しない理由にはならない。どういう事だ。


「刃竜とは、その大陸を守護する役目を持った、一種の守り神の様な存在だ。そして、その刃竜に守護を願う代償として払われたものが、各種族から選ばれた守人という存在だ。今で言う契約者だな」


 代償とは、生贄ということだろうか。


「お前の考えている事とは違うだろう。代償、とは言ったが、刃竜達はそれぞれ、守護大陸から己の好む者を守人とした。白はユグドラシルに、紅はオルタンシアに。そして黒はネフィリアに」


 色的に、確かにそうなるのだろうが、やはり黒は魔族と仲が良かったのか。

 守人達は生贄としてではなく、お互いに好む相手でなければならなかったという事はわかる。


「それぞれの守護大陸は、守人の存在、統治により安定していた。だが、魔族の住むネフィリアでは、作物が育ちにくく、生活は困窮していた。そこで、魔族はユグドラシルとオルタンシアに攻め込む計画を立てた。だが、守人はそれを良しとせず、皆を説得した」


「魔族が他大陸を滅ぼしたの?」


「そう急くな。まだ終わりではない。守人自身も、黒刃竜の力を頼られたが、頑なにそれを拒んだ。そして、説得に耳を貸さず愚か者がユグドラシルへと攻め込んだ。攻め込まれたユグドラシルは、当然応戦した。だが、魔族の力は強く、戦況は芳しくなかった」


 エルフやドワーフ、彼等は魔術と腕力に特化しているが、そもそものポテンシャルが魔族とは違うのだろう。それに加え、自ら戦争を起こそうとする者だ。当然能力は高いだろう。


「そこで、ユグドラシルの守人は白の竜に願った。力を貸して欲しい、とな。その願いに応え、ユグドラシルに攻め込んだ魔族の大多数は白の竜と守人により殲滅された」


「・・竜と契約者が出てきただけでその被害・・それで、魔族は諦めたの?」


 基本的な能力で勝っていながら、単身の相手に多数の戦力を削がれたのなら、戦意の低下は尋常ではないだろう。負ける事は決まった様なものだ。


「ああ、諦めた。そして少数ながらの敗残兵となった同胞を迎え入れた魔族は、その被害に対する責任の行き先を求めた。本来であれば勝手に戦争を起こした者を断罪するのだが、その者は当時の魔王の子だったのだ。我が子可愛さに、魔王はあろうことか守人にその責を擦り付けた。相手は守人が現れたのに、お前は何故助けようとしなかったのだ、と」


 勝手に戦争を引き起こして、勝手に負けて帰ってきたのに、守人が助けなかったのが悪い。どんな世界、どんな時代、そしてどの様な種族であれ、そんな思考を持つ者がいることに、エリスを見て、拳を硬く握る。


「守人はその責を負った。王と側近、そして戦争の当事者に頭を下げた。そして、極刑を言い渡され、首都で己が守ってきた民に罵声を浴びせられ、石を投げられながら、民衆の前で処刑となった。そして、その様子を黒の竜は見ていたのだ」


 ずっと守ってきた民に裏切られ、守人は何を思ったのだろうか。そして、目の前にいる、聖女は・・・。


「処刑の後、新たに守人を選ぶ際、黒の竜は魔王に問うた。私の最愛の守人はどこだ。何故新しい守人を選ぶのかと。魔王は笑いながら答えた。先の戦争の責任を取って、自害された、と」


「・・それで?」


 今の俺が、エリスを、俺の契約者を目前で殺されたら、俺は、俺を許す事が出来ない。何もかもを投げ出して、殻に篭る未来しか、想像する事が出来なかった。


「・・黒の竜は破壊した。怒りに我を忘れ、最愛となっていた守人が守っていた民を、国を、大陸を。1日を待たずして全てを破壊し尽くしても黒刃竜の怒りは収まらず、ユグドラシルに飛ぶと、守人が責任を取るまでの流れを作ったユグドラシルに対しても、己の怒りをただ只管にぶつけた」


「そうなるわよね・・。わかるけれど、でも・・」


 俺だって、エリスの一件では怒りに支配され、全てを壊そうと想った。だが、俺は何も関わり合いの無い者を殺す事なんて出来ない。元が人だったから、というだけじゃない。殺される側の全てを奪う事に、俺自身が耐えられそうにないのだ。

 以前聞いた話によると、現在の紅の刃竜が戦争に加わった場合、一ヶ月程度で他国を壊滅させると聞いた。それを、黒の竜は1日もかからずに破壊・・先代は、そこまで・・。


「すぐに白の竜と守人が赴いたのだが、契約者と共にある白の竜であっても、怒りに支配された黒の竜を止める事が出来なかった。刃竜同士の戦いの末に、ユグドラシルの全てが焦土と化した。そして、行き場を無くした怒りは止まる事無く、紅の竜のいる人族の大陸、オルタンシアへと向かった」


 ・・完全にとばっちりだ。魔族の起こした戦争が、守り神として存在した竜の怒りを買い、世界全てを破壊する存在へと変えてしまった。過去の人族は、何もしていないのにな。


「お前、人族は何もしていないと思っただろう?それは違う。そもそも、魔王の子にユグドラシルに攻めるよう仕向けたのは人族だ。ユグドラシルには大量の資源と、作物の良く育つ土壌があると扇動した。黒の竜はそれに気づいていた訳ではないが、結果として、己の守人を陥れた張本人の大陸へと、その怒り辿りつかせた」


 前言撤回。やはり、人はどこまでも汚い。どこまで、人はその業を深めれば気が済むのだろうか。


「紅の竜は傷付いた白の竜と、言葉を理解する事すら出来なくなってしまった黒の竜を見て、理解したのだろう。黒の竜を止めなければ、オルタンシアも、そして世界すらも、終末を迎えてしまうのだと。守人と、紅白の刃竜、そして黒の竜。その戦いは熾烈を極めた。黒の竜の力は尋常ではなかった。同格の者が2体、そしてその守人もいる状況において、劣勢を強いられたのは紅白の刃竜の方だったのだ」


 わからないでもない。黒の竜はただ、破壊する。紅と白の竜は、己の後ろに守るべき者を抱えながら戦っていたのだから。


「先に戦い、傷を負っていた白の竜が倒れ、紅の竜は更に劣勢となった。もはや、手段を選ぶ事は出来ずにオルタンシアの大陸、そして自分の守人、己の命を対価として、黒の竜を止める事ができた。紅の竜の最後の力で正気に戻った黒の竜は、己の起こした破壊を知り、己の罪に嘆きそして、神に一つの願いを言った。己の全てを差し出す代わりに、世界を元に戻して欲しいと」


「それで・・どうなったの?」


「願いを聞き届けた神は、黒の竜によって破壊された全ての命を再生した。だが、大陸を再生する事は出来ず、変わりに最後に残った大陸へと、全ての命を移動させた」


 全ての種族が一斉に同じ大陸に・・・?ただでさえ魔族とエルフやドワーフ達は戦争をした間柄だ。そんな状態で強制的に召集されて、大丈夫だったのだろうか。


「神は白の竜に、種族を纏め上げて、国を作らせるよう指示した。そして出来たのが、現在の6国。白の竜の口から、神から伝えられたのだと聞いた各種族は、その通りに行動して己の国を得た。ただ、魔族については今回の責を取り、北の奥地で密かに暮らす、と言って姿を消したらしい」


 神の指示、そしてそれが白刃竜から聞いた話であるのなら、信じざるをえないのだろう。


「ここまでだな。お前の先代の話というのは。少し、我は疲れた。茶を出せ」


「あ・・私も何か、欲しいです」


「あぁ、わか・・・・・」


 寝ている筈のエリスの目が開いている。そして何事も無かったかのようにねだられる。

 紅の契約者は性格が変わった、と聞いたけど、エリスもまさか・・・そうなるの・・か・・・?


 パチッ


 お互いに視線を逸らさないまま、ただ呆然と立ち尽くしてしまう俺とエリス。さて、彼女はどこから、聴いていたのだろうか。

お読み頂き、ありがとうございます。


今回は説明回のような感じになりました。

次回、エリスはいつから・・・?

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