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竜の子とともに  作者: 眠々
14/27

13話 自由

13話、完了です。


13話更新中→停電ヌアアアアアアアアアアアアアアアアア


 模擬戦場より、空間生成のスキルを用い、移動した先は己の作り出した場所であり、静寂の先にあるのは母の居る家屋。

 天を仰ぎ見て、一息吐くと、自然と荒んだ心が和らいでいくのを感じた。


「ここから出たくないな・・。本当に、良い場所だ」


 柔らかな風が緑に触れ、葉の重なり合うその先から、暖かい光が挿し込んでいる。幻想的とさえ云える風景に、大きく深呼吸を一度、表情こそ晴れないが、気持ちの切り替えは成っただろう。


 エリスのこれからがどうなるのかは彼女次第だが、それを少しでも手助け出来るのであればいいな、と、俺は考えていた。


 家屋に近付くにつれ、話し声が耳に届く。聞き耳を立てる訳でもないのだが、周囲がこう静かでは、自然と耳にしてしまう。


「ファルが世話になったようだ。そこの少女については我が診よう」


「あぁ、じゃあ俺もここに」


「診る、と言ったのだぞ?少女とはいえ、お主、そういう趣味でもあるのか?」


 呆れを孕んだ言葉に、ドタドタと玄関口の方へ足音が近付いてくる。

 戸が開くと同時、屋内からの逃亡者は俺と視線を交差させるのだが、突然視界に入った俺に慌てたのか、体勢を崩す冒険者の男。


「うおっ・・ぷ」


「お、おい・・!」


 バタン!


 事故、とはいえそれが故意であるか、偶然であるかなど、今この状況では重要な事ではない。

 つまり、今の状況とは男に押し倒される俺。そして馬乗りとなり、今の俺の身体で、一番柔らかな部分を支えとしていた。


 男の顔にあるのは愉悦。ほんの一瞬の悦楽を、男は楽しめただろうか。


「あ・・・いや、これは事故で・・・」


「そうか。わかった」


 男の瞳に映る俺の顔は、極上の微笑。なのだが、その目の据わり様が、明らかな怒気を思わせるものだった。

 男の身体は俺の上から吹き飛び、戸口より10メートル程錐揉みしながら回転し、土を抉りながら尚も回転を重ねた後、停止した。


 衣に着いた土を払いつつ起き上がり、乱れた着付けを正し、戸口を潜って戸を閉める際、男を一瞥するも、気にせずに戸を閉める。


「ただいま、母さん」


「うむ、昨日ぶり・・だ・・・?」


 帰宅の挨拶をするのだが、エリスから目を離し、俺に振り返った母さんの頭に疑問符が浮かぶ。

 子の帰宅を喜ぶべき場面ではあるのだが、実際に現れたのは旅に出た子ではなく、自分と同じ様な衣服を纏ったエルフの少女。


「ファル・・・か?お前、本当は女だったのか?」


 その後、母親の勘違いを正すのは、男が意識を取り戻す程の時間を要した。















「成程、状況は理解した。突然お前ではない気配がしたものだから驚いたのだぞ」


 現在、俺は肘掛に腕を着き、だらしない格好で話す母の前で正座させられている。何故か横に冒険者の男もいるのだが、そこは気にしないでおこう。

 さて、女ではない、と母さんに説明をしたのだが、俺はまだエルフの姿を保ったままだ。「以前のお前も良いが、今のお前も良い。そのままでいろ」と言われてしまったので、素直に従っている。


「ごめん、でも安心できる場所が、ここしか思いつかなかったんだ」


「まあ良い。驚きはしたが、脅威とは呼べんからな。それで、お前はこれからどうするのだ?冒険者にはならんのだろう?あと、口調を正せ」


 冒険者には、確かに既に未練は無い。自由な旅を送りたかっただけの願望だったので、もう気にしていない。

 惜しむらくは、あの受付の猫耳にはもう会う機会が無くなった事だ。そして、口調については「女の姿なのだからそうしろ」とお叱りを受けた。


「冒険者はもういいの、少し残念ではあるけれど。これから・・ね、エリスが目を覚ましてから、考えようと思っているわ」


 1日の旅をした流れは、既に母さんに説明もしている。森での出来事、聖教国で貴族に愛妾にされそうになった事も。

 エリスが受けている呪いについても話してみた。既に鑑定し、状態を理解していた様だが、同じ人間に受けた呪いだと知ると、肩を下げて嘆息していた。


「この娘の呪いは、とても人の行えるモノではない。行えるとしたら、それは己の身を削って発動したのだろうな。聖女なのだろう?何故だ?そこまでこの娘は疎まれていたのか?」


「そうね・・母さんは、慈愛神イグリースの話を知ってる?」


 イグリース、人として生を受けながらも、死後に神となった、聖教国に多くの信徒を抱える初代聖女。

 その名を聞いて、母さんの視線は横で眠るエリスへと向かった。


「・・そういう事か。いつの世も、人とは、誠に愚かな生き物だな」


 今世が竜であったとしても、前世は俺も人だった。俺もまだ、人としての考え方を持っている。

 愚かと言われて、普通であれば憤りを感じるとしても、俺がこの場で出来るのは、ただきつく唇を噛み締める事だけだった。


「すまん、ちょっといいだろうか」


 俺の横、共に正座させられている男から声が上がる。質問する姿勢として、右手を上げている。


「なんだ?ところでお前、ファルからも名を聞いてないが、どこの誰だ?」


 がっくり、項垂れるのだが、すぐに気を取り直して、長年を共にした己の名を告げる。


「聖教国のAランク冒険者、名をスレイという。お宅のお嬢さんに護衛として雇われた者だ」


「護衛?ファルよ、お前自分よりも弱い者を護衛にしたのか?」


 さらに項垂れるスレイ。俺自身もこいつの名前については知らなかった。あの状況では、名を問う暇すら惜しかったので、仕方の無い事だ。

 言葉足らずなスレイに嘆息するも、袖に腕を通し、腕組みをして補足をする。


「この男はその子の護衛。私が近くに居ない時に、壁程度にはなるでしょうから雇ったのよ」


 俺は壁、俺は壁、と呪詛の様に正座する自分の膝を見つめるスレイなのだが、実際、腕は確かな様なので雇ったのは確かだ。

 元々Sランクに席を置いていたのだから、そんじょそこらの者には、エリスに近付く上で結構な障害となるだろう。


「・・ところで、やっぱり、ファルミアの母親ってことは強いのか?」


 あ、復活した。と思いきや、やはり戦闘狂なのか、どことなく嬉しそうに尋ねるスレイに、きょとんとした目で、首を傾げる母さん。


「当然であろう?あぁ、そういえば我も名乗っていなかったな。名など、名乗る機会がそうそうないのだ。我が名はヴァルニア。遥か昔より生きる、最古の竜だ」


「・・は?竜?」


 スレイの呟きも当然だろう。実際、目の前にいる美人が竜と言われ、信じる事など出来る訳が無い。

 何言ってんだこいつ、と苦笑するスレイにむっとした顔で母さんが立ち上がる。


「あ、母さん、エリスが近くにいるから、控え目にね」


「なんだ、随分過保護になったな。女の姿で、母性にでも目覚めたか?」


「母さんこそ、母性に目覚めるべきだと思うんだけど?」


 俺も立ち上がり、笑みを浮かべながらからかう様な態度で言われたそれに、真っ向から向き合う。寝てばかりでなく、少しは動け、と。


 スレイ曰く、その時二人の間に雷光が迸り、母さんの後ろに見るからに強大な力を持つだろう竜と、俺の後ろに眼光鋭く、刃物の様な気配を持つ竜が見えたという。
















「・・ん・・・・」


 眠りながらも、不快な記憶に苛まれていたのだが、途中からの夢は、黒い竜に守られるという、不思議な夢だった。

 木漏れ日が自身を照らし、その眩しさに目を閉じる。寝ている筈なのだが、妙に視界が高く感じると、頭の下に何か柔らかい物を感じた。

 少し視線を下に向けると、黒い衣装に包まれているが、その先から感じる暖かさに、心地よさを感じる。

 

 膝枕・・・?


 ごろり、と身体を転がすと、そこにあったのはまず、視界を覆う程の双丘。少し顔をずらして、先にあったのは、眠っているのだが、絵画の様に整った顔をしたエルフの女性。

 風に揺れ、日の光によって光輝く美麗な髪と、瞼こそ閉じているものの、呼吸をする唇も、全てにおいて美を体現したものの様に見えた。


「・・ふぁる・・姉さん・・・」


 私をあの森で拾って、傷を癒してくれて、家を作ったり、唐突に私を妹と呼んだり、たった1日だけど、この人の傍は、とても優しくて暖かい。

 それでも、私はこの人を巻き込んでしまった。私が、国に帰る、と言ったから。生まれてから、初めての我儘を言ってしまったから。


「・・ごめんなさい・・・」


 口先で謝っても、どうにもならないのはわかっている。それでも、言葉にして伝えたかった。

 冒険者になる為に、聖教国へ来た、とこの人は言ったけど、多分、それは違う。もっと別の理由があったんだろうと、今は思う。


「どうして、謝るの?」


 伏目がちだった私に、優しげな声が聞こえた。この人の綺麗な、翠色の目が、私を見ていた。


「・・私があの国に帰ってしまったから、姉さんまで、巻き込んでしまったのです・・」


 目を合わせるのが怖い。そう思ったのは、自分の、この後ろめたい気持ちから、逃げ出したいと思っていたから。

 私には、この人にただ謝る事しか、出来る事はない。癒す力も失ってしまった今の私には、何も無かった。

 思い切り、泣き叫びたかった。頼る事しか出来ない惨めな自分は、どうしてここに存在しているんだろうと、悔しさと惨めさが混じり、嗚咽が漏れる。


「・・・っ」


 私の髪に触れて、撫でるその手は姉さんのものだ。なんて優しくて、柔らかいのだろう。この手に、ずっと触れられていたい。ずっと、傍にいてほしいと思う。

 ふと、撫でる手が止まる。身動ぎする。もっと撫でて欲しい。もっと触れて欲しいと。


「エリス・・私が、冒険者になりたかったのはね、自由に生きたかったからなのよ」


 自由。私とは一生無縁のものだろうと、まだ小さな私でも理解していた。それは、聖女として使命を帯びた時より、この先もずっと、縛られる事なのだという事も。


「ただ、それだけ。自由に旅をして、何かを食べたかったら食べて、どこかに行きたかったら歩いて、誰かを守りたいと思ったら、守って。まあ、冒険者にこそなっていないけれど、エリスも、守りたいから守っただけよ」


「私は・・っ・・自由にはなれません・・」


 傍に居たいけれど、居てはいけない。またいつ、この人を国の邪な問題に巻き込んでしまうとも限らない。これ以上、この人が、自由に生きるこの人が、あの国にいるべきではないんだと思い、決意を胸に秘め、固く目を閉じる。


「・・教皇に会ったわ。エリスは、またあの場所へ戻りたいの?」


 ずるい問い掛け。戻りたい訳がない。


 飾り物と言われた。

 

 人形と言われた。


「教皇には、エリスが戻りたいと言うのなら連れて行く、と言ったわ」


 戻った先に何があるのだろう。籠の中の鳥のように、ただ飼い殺されるのだろうか。逡巡する事無く思いつくのはそんな未来だけ。

 だけど、それでも、私は。


「聖女としての貴女じゃなくて、私の妹としての、エリシーヌ・イングリッド。貴女は、どうしたいの?」


 帰りたい訳がない。帰りたくない。一人になりたくない。


 姉さんと、離れたくない!


 優しく、だけど私の心を揺らがせる、とても意地悪な問いに、心の中で暗闇の中にいつも一人だった私の傍に、暖かい光が生まれた。


「一緒にいたい・・!もう、一人は嫌・・・!」


 嗚咽が泊まらない、けれど精一杯の声で、抱き着いた相手の顔を見上げて、私は叫んだ。


「一緒にいるわ・・。ずっと、貴女の傍に」


 その柔らかい身体に抱き締められて、我慢する事を止めた私は、籠の扉を開いて、本当の意味で生まれ変わったのだと思う。

 姉さんと、私との間に、ずっと解けない光が、線となって組み合わさっていく。

 この世界で、僅か3種の竜のみが行使するその力が、私に流れ込んできたところで、安堵した心のまま眠りに付く。今度は、優しい夢を見れるのだから。

お読み頂き、ありがとう御座います。


ファルミア君、このままお姉さんが定着しそうなんですが・・・

明日は少し時間が遅れるかもしれません(忘年会)

それによって今後、更新の時間が遅れるかもしれません。

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