表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

これがチートなのかッ!!

 如月 ちあき様にレビューをいただきました。更に『ちあき堂書店』で紹介していただきました。如月 ちあき様、ありがとうございます。レビューいただいた記念で、書き忘れていたエピソードを追加します。


 温度計の工場で働いていたときのこと。

 温度計内部の水銀の入ってる心臓部、ここを作ってる自称この道十年以上の、職人気取りの年寄りのじーさんがいました。


 ある日、事務のひとりがそのじーさんと話をしてるのを横で聞いてたんですが。

 事務員が言うには、以前に納めた工場用の温度計、これに水銀がどれだけ使われているのか知りたい、という電話が顧客からきたんですね。

 それで事務員がじーさんに、この前の製品、1台にどれだけ水銀が入ってるんですか? と尋ねました。

 そのじーさん、腕を組んで頷いて。

「それは、わからない」


 ……自信満々に言うことじゃないな。

 どれだけ恥ずかしいこと言ってるかもわかってない様子。

 まぁ、高温用と低温用では中に入れてる水銀の量は違います。

 あと、作ってる工場の気温は一定じゃ無い。

 夏の熱い時期には水銀の体積は膨らんでいるので、その分、他の季節より重量は少ない。

 逆に冬の寒いときは体積は縮んで少くなり、他の季節よりもちょっと重量は多目に入ってる。

 そんな違いがあります。


 だけど、それ以前の問題として。

 このじーさんが『職人の感覚』で作るから毎回てきとうなんです。

 それを私が調整して目盛りに合わせて製品作るのが、どれだけたいへんだと……。

 なのでこれまで、1度も自社の製品、1台あたりにどれだけ水銀を使っているのか、この工場ではまるで解って無いことが判明しました。

 

 事務員が、

「だいたいでいいんでちょっと教えて下さいよ」

 と言うのでじーさん、少し考えて言いました。

「100cc、くらいかな」


 ……100cc? 本気か?

 ちょっと待ておい、えーと、1ccが1mlだろ? 自販機の缶コーヒーがだいたい190mlだから、つまりアバウトで100ccってことは、


 缶コーヒー、約半分。

 そんなに使うわけない。

 なに言ってんのこの人?

 流石にマズイと中に入る。


「1度、作るときにちゃんと計って、それから返事をした方がいい」

 それぐらいしないとダメだろう。私がこう言うとじーさんは不満そう。

「計る方法が無い。1度作ると中を計ることはできない。だから無理だ」

「だったら先に小分けにした水銀の量を計って、1台作ったあとに残った水銀の量を計れば、逆算で1台にどれだけ水銀を使ったか解るでしょう?」

 こんな感じで水銀の量を計る方法をいくつか案にして言ってみました。

 じーさん少し考えて、

「お前が何を言ってるのかわからない」

 あー、難しすぎたか? もっと簡単な方法じゃないとダメなのか? どう言えばこのじーさんにも分かりやすく説明できる?

 だれか小学生の理科の教科書持ってきてー。


 こんなのに付き合ってたら自分の仕事が終わらない。切り上げて自分の仕事の続きをしました。

 ただ、このやり取りを事務員が聞いてたんですよね。


 後日、事務員が、

「前の顧客に電話して、うちの製品は1台あたり水銀を100cc使ってると、伝えておきました」

 ……え? ほんとに? マジでー?

「先方、ビックリしてました」

 そうでしょうね。

 私もビックリです。


 ………………、

 あほかーーーー!!

 あほだったーー!!

 あほ過ぎるーー!!

 誰か助けてーー!!


 仕方無いので私が自分で作って計ることにしました。

 じーさんは自分の仕事に私が手を出すことに、凄い不満そうに睨み付けてきます。

 あんたができないからやるはめになったんじゃろが……。なにブツクサ言って睨んでんだよ……。


 小分けにした水銀を量り、部品を作ったあとに残った水銀を量って、差し引きは、と。

「約、5ccですね」

 自称プロの職人の誤差は95cc。

 20倍くらい違う。

 こんなじーさんが水銀扱ってていいのか?

 そのじーさんがなんて言うのか気になって、静かに返事を待ちます。

 じーさんは腕を組んで偉そうに言います。


「俺は最初から5ccと言った」


 なん………………だ、と?


 俺は今、日本の製造業の闇を、ほんのちょっぴりだが、体験した。い……いや……、体験したというよりは、まったく理解を、超えていたのだが……、あ……、ありのまま、今、起こった事を話すぜ!

 目の前のじーさんが、


「俺は最初から5ccと言った」


 な……、何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も、何を言われたのか、わからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。

 チャチな偽装なんてもんじゃあ無い。

 自称この道十年以上のプロの職人が、そのプライドを守るために、歳をとってボケかけた頭を利用して、たった今、俺の目の前で、


 ()()()()()()()()()()()()()


 信じられねぇ……

 これがチートって奴なのかっ!



 今も日本の工場で使われる温度計は、こんなじーさんが作っています。


 追記


 このじーさん、水銀の入ってる容器を運んでるときに、転んで道路に水銀をぶちまけたことがあります。

 拾えるだけ拾ったけれど、全部掬える訳じゃない。

 アスファルトに残った水銀は、水で側溝に流してしまいました。

 こんなことしてもどこからもクレームは来ないし、行政も何も言ってこないので、何も問題はありません。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ