これが日本の製造技術
「早く運べ!」
今日はバイト先の工場が慌ただしい。
段ボール箱を倉庫の奥に隠します。
バタバタと慌てて運びます。
急に親会社が視察に来ることになったので、親会社に製造行程を秘密にしているものを隠します。
いつもこの製品を造ってるパートのおばちゃんも、慌てて食堂に移動します。
製品を作る道具も運びます。
親会社が視察に来ている間は、見つかったら困るものは食堂で作業します。
ちょっと離れているので、ここまで親会社の人は来ないので。
見つからないようにこそこそと。
どんな作り方をしているのかは秘密です。
親会社には嘘の製造行程が送られているので。
まともな機械も無く、クリーンルームも無いから、親会社に出した製造行程どおりに作るのは無理だから。
作っているのは電子部品。
これが今の日本の電子部品の工場の実態。
量産化してるものであれば、親会社の海外の工場でしっかり作られているのかもしれないけれど。
量産化の目処の立たない特殊なものは、国内で手作業で作っているので。
この工場で大事なことは、
見つからないように作って納期に間に合わせることです。
休憩時間に同じ職場の同僚と話をします。
精神に障害があるというので、障害者枠で働いています。
ですが、会話のテンポが少し遅いだけで、真面目な普通の青年です。
どこが悪いのかわかりません。
仕事は丁寧でてきぱきとこなします。
それが工場では都合がいいのか、やたらと働かされてます。
1日働くと背中が痛くなるような作業。
それを毎日残業。土曜出勤も当たり前。ときには日曜出勤も。
体を壊さないように気をつけてください、と言うと、
「強い薬を飲んでますから。疲労を感じないんです。感情も動かなくて、ストレスも感じないんです」
と、答えがかえってきました。
その薬、ちょっと欲しいかも。
これが昔は世界に誇った日本の製造技術。
今も国内で稼働中の工場。
そのなれの果てです。
技術とは衰退するものです。
技術とそれを扱う人を大事にしなければ。