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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

気紛れ短編集

見鬼 ~ 爺さんと俺 ~

作者: 泉 真子
掲載日:2016/04/22

暴力描写があります。

苦手な方はお控えください。



アナタには、大切な人はいますか?






      懐かしい、夢を見た。






 カタンカタン



 カタンカタン



『なあ爺さん。どうしてみんな視えないの? こんなにはっきり視えるのに。なあ、どうして?』



 カタン、カタンカタン



テンポ良く響く機織り機の音を聴きながら俺は爺さんにそう尋ねる。


俺は小さな頃から普通の人には見えない不思議なモノを視ることがあった。俺の両親や周りの人は……俺と同じモノが見えない為か、俺の言うことを信じてくれはしなかった。



 カタンカタン



 カタン、カタンカタン



年少の頃は想像力の豊かな子。


小学校に上がってからは虚言癖のある子と言われるようになった。


悪戯好きの彼奴アイツらは視える俺にことある事に驚かしてきた。いきなり悲鳴や逃げ出す俺に、周りは段々と避けるようになっていった。不気味なものを見るような顔をして遠巻きにされる日々。


そんな俺の逃げ場所は、近所で機織り師を営んでいた爺さんの家だった。


この爺さんは近所では人嫌いで有名な人であったのだがどういう訳か俺のめんどうをよく見てくれた。



『知るか。そんなこと俺が知るわけがないだろ』



素っ気なく返される返事。あの爺さんは何時もこんなんだった。



 カタンカタン



 カタン、カタンカタン



『大体他人なんざ自分で見たことしか信じん。それを、『俺は見えるんだ、だから信じてくれ』と言っても誰も本気になんてしやしない。無駄だ、無駄』


『じゃあ何で爺さんは俺の言うことを信じてくれるんだ?』



 カタンカタン



 カタン、カタンカタン



『そんなもん俺も視えるからに決まってんだりろ』


『はぁあ!?』



驚く俺に爺さんは鼻で笑った。



『なんだ、本当に気付いてなかったのか? マヌケな奴だな』


『だって爺さん……視えてる素振りなんて一度も………』


『俺が何年生きてんと思ってんだよ。年季だ年季』



 カタン、カタン



 カタンカタン、カタン



『端っから判ってもらえると思うな。つねに疑え。本当に信用出来る奴はこっちが何も言わずとも勝手に汲み取ってくれる。お前のやるべきことは理解を求めるのではなく、自分の特異さを誤魔化すやり方を身に着けることだ』


『…………』



 カタン………ギィイイ、カッタン



『ふん……こんなもんか………』



織り上がった布生地の出来を確認しながら爺さんはつまらなそうに言った。


出来上がった生地は傍目には紗の入った純白の生地に見えた。が、爺さんはそんな俺の心情を読み取ったのかニヤリと嫌な笑い方をした。



『お前、節穴だな。もっと良く見てみろ』



マヌケの次は節穴だとこのクソジジィと思っていたら織り上がったばかりの布生地を俺の方にズイッと押し付ける。



『うわっ?! おい爺さん! 大切な商売道具だろ! もっと大切に扱えよ!!』


『やかましい。コレの価値が分からんガキが何をえっらそうに……』



憎まれ口を叩きながらもニヤニヤと嫌な笑いを収めない爺さんに、俺は恐る恐る純白の布生地を手に取った。



『……?』



特に変わった様子が無い、白い布生地だ。


そう、思っていたら不意に純白だった布生地の色が一瞬、薄い蒼色に見えた。



『え?』



いや違う。蒼色だけではない。

黄色、オレンジ色、朱色、緑色、水色、紫色、ピンク色、黄緑色、赤紫色などなど。


純白だと思った布生地は角度によって様々な色彩を放っていた。



『…………』



俺は完全にその布生地に魅入っていた。

見たことのないその美しさに、俺はただただ言葉を失った。



『驚いたか?』



言葉無く頷く俺に、爺さんは満足そうに頷いた。



『ふん。そうだろうな。何しろそいつは俺の最高傑作だ。凄くないはずがない』


『……爺さん。さっき、つまらなそうにしながら『こんなもんか』って言ってなかったか!?』



噛み付く俺に、爺さんは馬鹿にした笑いをしながら俺の額を指で弾いた。



『いっ……ッ』


『ばぁ~か。そいつにはな、俺の機織り師としての五十年の月日を費やしたんだ。言葉に惑わされて本質を見誤ったお前に文句を言われる筋合いはないね』


『五十年??!』



人生の殆どを費やしていると言っても過言ではないその年月に当時の俺は仰天した。



『まぁな。……そいつの材料が少々特殊でな。なんだかんだ言って五十年も掛かっちまった………でも、これでようやく肩の荷がおりたな……』


『え?』



爺さんはどこか晴れやかな顔をして肩を回していた。何時も人を馬鹿にした顔しか知らなかった俺はそんな顔も出来たのかと。その顔は随分と印象に残った。


そして爺さんは俺に言った。



『おい、お前。俺が死んだらそれを取りに来る奴が来るまで預かっておいてくれ。宜しくな』



その時の俺は随分とマヌケな顔をしていただろう。

今ではそう思う。


爺さんは何時もの嫌な笑い方をして俺の頭をぐりぐりと撫で回した。



『うっわ!?』


『頼んだからな』



それから半年後、爺さんは亡くなった。


そして────






●○●○●○●○






拝見 爺さん。


爺さんが亡くなってから早くも九年近くの時間が流れた。あれから俺は爺さんが残してくれた遺産である大量の漢文の書物(しかも白文。読めるか!)と巻物書物(草書がき。だから読めないって!)やら爺さんが生前手慰みで作った布生地の数々(暇潰しなら高級絹糸使わずいっそ麻でやれ!)とか爺さんの家や爺さんが言っていた例の純白の布生地を俺は受け継いだ。


爺さんの残してくれた巻物書物はどれもその道の人なら大金持って土下座に来る勢いの稀少品だとか。爺さんが実は国が認定した人間国宝というどえらい偉人さんで、しかも手慰みとはいえ高級絹糸で織られた布生地は下手したら数千万(再現不可能な爺さん特有技術製作の為)は軽くする代物で皇室御用達のとんでもないものだったというのも今となってはいい思い出である。


爺さんが俺が成人するまで信用出来る弁護士の人に任せてくれたお陰で爺さんの遺産を相続したことを両親に知られることがなかったのは助かった。



………だが、これは流石に俺の手には負えねぇよクソジジィ!!!





伊地知いちじさま。どうかお願い致しまする。我々の手には負えぬのです。助けてくだされ』


「俺、視えるだけのただの人だから無理」


『そんな殺生な~伊地知さましか頼れる方がいないのです~~後生です~~~』



俺の足にしがみつき後生です~後生です~と泣いている二足歩行ナマズ。



本来人には視ることの出来ないアヤカシモノ。



ちなみに伊地知とは死んだ爺さんの名字であり俺の名前は石川いしかわ 圭介けいすけだ。今は狙っている大学に入るために日々勉学に励む真面目な受験生である。(キリッ)



『お願い致しまする~~このままでは我が一族は飢えて滅んでしまいまする~~~』


「なに、その重すぎる事情……!」



俺の腰ぐらいまでしかないナマズはヒクヒクと涙を流しながら乞願する。


爺さんが亡くなってから俺の周りに困ったことや相談事の解決を求める妖が湧いてくるようになった。


何故かって?


それは亡くなった爺さんがどうも生前、妖相手に謝礼を必ず渡す代わりに厄介事を解決するということをしていたらしい。そしてその爺さんが亡くなったことを知らない妖共は似ても似つかない俺を爺さんと勘違いしてやってくるのだ。迷惑なことに……!!



「だ~か~ら~……俺は爺さんじゃねえし! お前のいう伊地知さまとやらは九年前にとっくに亡くなっている! だから俺に頼るな!」


『でも伊地知さまを爺さんと呼ぶということは貴方さまは伊地知さまの御孫さまなのでしょう? 我の姿も視えているようですし……。──我々にはもう、貴方さまに頼るしか無いのです! 助けてくだされ~~~謝礼はお払いしますから~~~~~』


「いやいやいやいや!? 爺さん呼びしてっけど俺爺さんの孫じゃねえし! 血は繋がってないから!!」


『なんですと!?』



と言い合いをしながらも最終的にはナマズに引きずられて彼(彼女?)の住処に連れて行かれた……クッソ、ナマズの癖になんつー馬鹿力だ!!



で、



「おいナマズ。ここが、お前達の住処か?」


『はい~~昔は、程よい泥だらけの良い住処だったのですが……今はこの様に綺麗な水の湛える池なってしまいまして~~~住みにくい上に食べ物も無くなってしまったのです~~~~困りましたぁ』



ヒゲをヘナリとさせるナマズに、俺は顔を引きつらせながらも言った。



「今すぐ沼か池に引っ越せ……!!」



ナマズの一族が住んでいた場所は─────






─────数年前に地震の影響で使われなくなって泥だらけになっていた巨大噴水であった。最近再稼働したと聞いていたがまさかナマズの妖が住み着いていたとは………。予想外である。


結局その日はナマズ達の住処探しを協力させられるのだった……。ちなみにナマズ達の新たな住処は見つかったと言っておく。はあ。



……数日後。



『いやはや助かりました~~流石は伊地知さまです~~~』



俺の前に、再びナマズが現れた。ので。



『ぎゃあ!?』



無言でナマズの頭を鷲掴みする。



『痛いです~~痛いです~~お止めください伊地知さま~~~』


「やかましい! 今度は一体何しに来やがったお化けナマズ!」


『お礼です~~お礼の品をお持ちしたんです~~放してくだされ~~~』


「礼? ……ああ。そう言えば、そんなこと言ってたな、お前。でも俺いらんから持って帰れ。じゃあな」


『そんなあ!? 受けた恩を返さぬなど一族の恥。受け取ってくだされ~~~』




ナマズは懐からキラリと輝く五百円玉ほどのコインを取り出した。



『新しい~住処の底に~有りました~~。先代の伊地知さまの求めたものには貴方さまは興味がおありでなさそうなので~~此方にしてみました~~~』


「?」



コインはコインだが、どうやら随分昔の日本に流通したと思われる硬貨だった。



「(この程度なら大丈夫か?)………分かったよ。有り難く貰っておく。ありがとな」



妖というものは人間の常識に疎い。

妖にとっては価値があるものだが人間にとっては使いどころがない、もしくは有害なものを持ってくるものいる。


それをこの九年間で学んだ俺は妖が礼だと言って渡してきたものを受け取ろうとは思わなくなったのだが………。



(ただの古い硬貨みたいだし。この程度なら大丈夫だろ)



受け取った俺を確認したナマズは小躍りしながら帰っていく。



『それでは~~また何かありましたら~~宜しくお願い致しまする~~~~!』



………聞き捨てならない捨て台詞を残して。



「はあ!? ちょ、待てナマズ!!」



呼び止めるもナマズの姿はすでに無く。俺は深いため息を吐きながら帰るのであった。………ガクリ。


家に着いた俺は居間でナマズから貰った硬貨を弄んでいた。するとそんな俺の様子を見咎めた母さんが台所から出てきた。その硬貨は何だと聞いてきたので昨日助けた人に礼として貰ったと伝えた。



「……そう」



そう言って疑わしげに俺を見ていたがこれ以上、話したくなかったのだろう。すぐさま台所に戻っていった。


夜、父さんが帰ってきて母さんと同じく硬貨のことを聞いてきたので同じことを伝えたら父さんはしばらく硬貨を見て何事か考えているようだった。


そして休みの日。

父さんに呼び出された俺は何故鑑定所に連れて行かれた。



「お前の貰ったと言っていた硬貨……まさかと思うが念の為鑑定してもらう」


「ああ。だからコレ、持ってくるように言ったんだ……」



父さんに呼び出された時に硬貨も持ってくるように頼まれてた俺は一人納得した。鑑定自体は「まあ。ナマズはすみかの底で見つけたと言っていたし」と価値はないと言われると思い、鑑定所に入ったのだが………。



「これは……!? ××××年にのみ製造された○○○○○?!! 現在では十数枚しか現存していない稀少品ですよ!!! 時価三百万はくだりません!!」


「はぁあ!!?」



あまりにも稀少過ぎる品にすっとんきょな悲鳴を上げる俺に父さんは……。



「───まさかと思ったがやはり!! 圭介!!」



俺を思いっ切り殴りつけた。

鑑定士の人がギョッとしているのが見えてないのか父さんはさらに俺を殴りつけた。



「お前は……! お前は……!! どこまで親を虚仮にしたら気が済むんだ! 言え! どこから盗んで来たんだ!!」


「ぐっ……はぁあ!!」


「お客様、止めてください! 誰か来てくれ!!」



駆けつけた警備員に取り押さえられる父さん。

急いで警察を呼んでいる店の人に俺は薄れる意識の中でぼんやり見ていた。



「お前のような屑、俺の息子じゃない!! とっとと刑務所でも何処へでも行ってしまえ! 二度と! 俺達の前に現れるな!!」



父さんはどうやら俺が硬貨をどこかの家から盗んできたと思っているらしい。そして俺は家族と縁を切られるそうだ。まるで人事のように父さんの言葉を聞きながら意識を失う寸前に思った。




────妖なんて、関わるもんじゃないなと。




鑑定所が呼んでくれた救急車によって病院に着く頃には俺は目覚めた………医者の診断によると全治二カ月の大怪我だったらしい。


翌日、入院していた俺の元に警察がやってきた。

窃盗の疑いによる聴取かと最初は思っていたが、どうやら俺の疑いはとうの昔に晴れていたらしい。



「君の持っていた○○○○○は歴史的価値の非常に高い物で、持ち主は国によって登録が義務付けられているんだ。君の持っていた○○○○○は国の記録に載っておらず、また持ち主全員に確認したところ窃盗も紛失もしていないと報告が上がっている。つまり、君の無実は証明されている。安心したまえ」



なら何故警察が来たのかというと、どうやら俺は両親による虐待を疑われているようだった。まあ、鑑定所での父さんの行動と言葉を思えば無理はない。



「君のことを少し調べたけど特に問題となる行動はしていない……強いて言えばよく悲鳴や挙動不審な行動を取っているということだが……別にだからといって君が犯罪行動をとったわけではない。学校の成績も生活態度も決して悪いわけではない。何故、君が盗みを働いたと思ったのやら………」



首を傾げる刑事さんはやがてため息を吐いた。



「君は児童保護施設に一時的に預けられることになることが決まった。君の両親………父親に関しては刑事事件になる。目撃者と防犯カメラの映像があるからね。証拠は揃っている。君のお母さんにも事情を聞くために署の方に来て頂いているが………君に、会いにきたかね?」



言いにくそうにしているところを見るとすでに看護士や医者にも確認しているのだろう。刑事とは嫌な仕事だなと思いながらも俺は答えが分かっているだろう刑事さんに正直に答えた。



「母さんは、一度も見舞いに来ていません」


「…………そう、ですか」



その後いくつか質問をした刑事さんは帰って行った。窓の外を眺めていた俺は不意に木陰に隠れている見覚えのある生き物を見つけた。



「………」



向こうは俺が見ていることに気付いていないのだろう。しきりに辺りを見回していたがその内、空気に溶けるように消えていった。





消灯も過ぎた薄暗い院内の廊下をペタペタと歩く奇妙な生き物がいた。大きさは六~七歳くらいの子どもほどであったがその見た目は決して人ではない異形の姿をしていた。


その異形はある病室の前に立ち止まると音を立てぬよう、静かに扉をスライドさせ入ってきた。個室である病室に備え付けられているベットの上には人の気配が。



『……………』



異形は寝入っているのを確認してその隣にある机の上に何かを乗せるとベットで眠るその人に向かって頭を下げた。



『申し訳ない伊地知さま。まさかこのような事になるとは露にも思わず……本当に、申し訳ありませぬ』



病室に侵入したのは圭介が助け、そして今回の現状をつくる切っ掛けとなってしまった化けナマズであった。



『すみませぬ……すみませぬ………』



ポタポタと何が濡れる音が、微かにした。

化けナマズは、泣いていた。頭を下げながら、詫び言を言いながら、泣いていた。



『伊地知さま。すみませぬ、我の所為で御座います……すみませぬ』



しばらく泣きなら謝るナマズは静かに病室を立ち去ろうとしていた。



「────別に、お前のせいじゃないさ。遅かれ早かれこうなっていた。だから……気にすんな」



その背に向かって俺は声を掛けた。


ナマズはビクリと僅かに震えたが、俺に返事はしなかった。だから俺は無視して話す。



「父さんも母さんも、普通の子どもじゃない俺を不気味がって───怖がっていた。元々あの家は俺が高校を卒業すると同時に出て行くことになってたからな。それが、一年早くなっただけだ」



だから気にするな。お前は確かに切っ掛けではあったかも知れないが、不和は最初から存在していた。



偶々お前が、当たりを引いちまったに過ぎない。



「何時ものように脳天気で、いろ。ヘタに気負われる方が余程迷惑だ。分かったな?」



ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、言ったことは紛れもなく俺の本心であった。


ナマズに対して本当に思うことがないかと言われれば絶対に無いとはいえないが、それよりも両親に対する気持ちが複雑過ぎてどうしても比重が偏る。



『………伊地知さま。我等が恩人にお誓い申し上げまする。伊地知さまのお困りの際には我は如何なることであっても御尽力致します』


「………だから、そうい『伊地知さまは何も悪くは御座いません。故にこそ、伊地知さまが嫌な目に合うのは嫌で御座いまする』………」



拒絶の言葉を、さらに拒絶される。



『我は嫌で御座いまする。それ故に我は伊地知さまに御尽力致しまする』



自分が嫌だからと言う言葉が、何故か胸に突き刺さる。



『伊地知さま伊地知さま。視ることしか出来ぬとおっしゃるならば、我は伊地知さまの名を知ろうとは思いませぬ。我は、それでも構いませぬゆえ。どうか、あまり独りで背負われなさるな』



───嗚呼。布団の中にいて助かった。


涙に歪んだ顔なんて、見られたくはない。



「………好きにしろ」


『ハイであります!』



嬉しそうな声に少し笑ってしまったのは秘密だ。


そして今度こそナマズは帰って行った。

起き上がって机の上を見てみると、そこには様々な山の菓子が入った籠が置かれていた。





早朝、俺を訪ねる人がいた。

その人は仕立ての良いスーツを着こなした柔和な顔のお爺さん。


この人こそ亡くなった爺さんが信用していた弁護士だ。



「おはよう圭介君。朝早くからすまないね」


「戸高さん! お久しぶりです」



戸高とだか 英二えいじ。刑事事件から民事事件まであらゆる弁護をこなすエリート弁護士。


爺さんとの関係は、何でも大学の先輩後輩であるらしい。そして爺さんの元専属弁護士。



「本当に久し振りだね。あのクソジジイの命日振りぐらいかな?」


「……そう、ですね」



入院している俺の元に訪れた戸高さん。理由は、一つしかないだろう。



「………圭介君が、入院するまでの経緯を警察から聞いたよ。そして君が一時的とはいえ施設に入ることも聞いた」


「………はい」



やはり、その件だろう。



「単刀直入に言わせてもらう。圭介君。私は君が成人するまでの後見人になりたいと思っている。圭介君の意見が聞きたい」


「─────え?」



戸高さんが、俺の後見人に?



「圭介君のお母さんは君の引受を拒絶した。本来ならば親の責任としての義務を果たさなくてはならない筈なのに………数年前から鬱状態だと抜かして、こんな状態では圭介君を育てられないと抜かしたんだ。確かに二~三カ月に一度の割合で通院している記録があったが…………私の目を誤魔化せると思ったか糞ったれ」



最後の方は聞こえなかったが俺はそれよりも戸高さんが後見人を名乗り出てくれたことの方に驚いた。



「どうして……? 戸高さん、何でそんなことを」


「あのクソ先輩がな。頼んできたんだよ。亡くなる半月ぐらい前だったか? 『遺書に書いてあるガキが……もし家族となんかあったら手を貸してやれ』ってね。最初はどこかに頭を打ったか本人に成りすました別人かと本気で疑ったよ。遺書を書いてあることにも驚いたが、あの人が誰かを気にかける事にも驚いたが」



俺は驚いた。あの爺さん、そんなことを言っていたのか。しかも死ぬ半月前って言うと……あの純白の布生地を仕上げた頃じゃなかったか?



「なあ、圭介君。大切なのは君の気持ちだ。君が、どうしたいのかだ。君の好きに選んでいい」



(───戸高さん)






…………。






………………。






……………………。







しばらく考えて、俺は決断した。



「戸高さん。俺は────」






●○●○●○●○




戸高さんの申し出を、俺は引き受けた。但し、一つだけ条件を付けさせてはもらった。




●○●○●○●○






無事に退院した俺は懐かしい家の前に佇んでいた。



「───良し!」



決意を決めて扉を開ける。






何年振りの爺さんの家。






今日から此処が俺の家だ────。












圭介君は戸高さんに後見人を務めてもらって亡くなった機織り師爺さんが残してくれた家に住むことにしました。



伊地知さんはどこまで見通していたのでしょうね?



圭介君の父親は傷害罪の現行犯で即逮捕。

圭介君が窃盗を行っていないと警察が証明。

父親は最初、そんなはずはないと散々警察を罵倒しましたが事実と解ると今度は黙秘を始めました。

彼は実刑判決を下された後、刑務所に服役する事になります。彼は、自分の手で家族関係に終止符を打ちました。



母親の方は鬱状態ということで彼の引受を拒絶した後、そのまま実家に帰省しようとしますが両親に大激怒されます。実は彼女。元々名家のお嬢様だったのですが縛られた生活は嫌だと当時付き合っていた恋人兼婚約者を捨てて出奔。そして圭介君の父親と出逢い結婚しますが圭介君が妖類を視る変わった子なのを嫌ってそれを理由に圭介君と父親とも距離をおきました。ちなみに父親が圭介君を良く思ってなかったのは彼女があまり良く言ってなかったから。彼女が元凶です。根が我が儘な彼女は両親によって施設送りにされます。最悪なことに、彼女は両親に結婚も子どもがいることも話していなかったので両親は圭介君の存在を知りません。でもその内知る機会があるでしょう。







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