分からず屋の旅立ち
やっと出発しました。
僕は少ない荷物をまとめて、出る準備をした。
あまり長く家に居ると、出る決心が揺らぎそうで怖かった。上京の為に犠牲にした数々の物や断ち切った友達の事を考えると後には引けない。
時計を見ると7時を回っていた。
父はまだ帰って来ない。家を出る前に一言何か言わなきゃと思い、待っているけど…遅い。
僕はとりあえず、自分の部屋を出て居間に降りていった。
居間には、大学生の姉と母がテレビを見ていた。
僕に気付いた姉が、
「まだ居たの?」と言った。
その言葉にムッとした僕は
「父さん待ってんだよ!それにまだ飯食ってねぇし。母さん、飯は?」
少々声を荒げてしまったが母は
「家を出ていくような分からず屋にはありませんよ。世の中、そんな甘いものじゃないからね。考え直すなら作るけど?」
僕は側頭部を鈍器で殴られたようだった。ショックで固まっている僕に姉は更に追い打ちをかける。
「家出るって決めたら、人を頼るなよ。
早速、甘ちゃんの本領発揮か?大体から人の話聞かずに、自分で勝手に話進めるし。無計画の上に超無謀。父さん待ってるって何?小遣いでもせびろーっての?そんなんだったらアンタ、張り倒すよ?あぁ〜分かった。東京行くのが怖くなったんでしょ?アンタが馬鹿でも、世の中物騒ってことくらいわかるもんね。揺るぐ決心だったらやめとけば?そんな甘い考えだと野垂れ死にしちゃうし」
姉はマシンガンのごとくまくし立てると満足したのか目線をテレビに戻した。
母に目線を向けるとうんうんと何度も頷いている。
僕の中で何かが弾けた。
「もういい!俺は行くから。」
そう叫ぶと、小さな荷物を担いだ。
僕の大きな声に驚いたのか二人とも大きく眼を開いていた。
背中越しに母が何か言っていたけど、僕は無視して玄関のドアを乱暴に閉めた。
外に出たら、ヒヤリとした冷たい風が頬を撫でた。
鼻の奥からじんと込み上げるモノをぐっと堪える。
僕は顔を上げて、前を見据え、大きく右足を踏み出した。