第77話 vsロキ その④
「よくここまで耐えてくれた」
トールは誰に言うわけでもなく一人でそう呟く
ミョルニルを磁力で引き寄せ、握ると同時に電気を流す
魔力を注がれたミョルニルは一瞬でその姿を変える
安っぽい金槌から、金色に輝く大鎚へと変貌する
ミョルニルを両手で持ち、落下の勢いを乗せて、ロキに叩きつける
白い光が弾けて辺り一体を覆い尽くす
閃光と同時に無慈悲な破壊が行われる
振り下ろされたミョルニルはそれを防ごうとしたロキの腕を粉砕し、引き千切って焼き崩す
地面が大きく陥没し、周りにいたトオルとディアナも吹き飛ばされる
「まぁ、挨拶程度だ」
大きく後ろに飛び、ミョルニルを構え直す
「挨拶にしては大袈裟だね。挨拶は普通握手とかじゃないの?」
そう言ってロキはドラウプニルに手をかざす
いつの間にかロキの両手は元の通りに戻っている
ドラウプニルから津波のように金が溢れ出し、手の形に固まる
「こんな風にさ」
真上に掲げられた巨大な金の拳をものすごい速さで振り下ろす
トールとその周りの家々を丸ごと押し潰す
「レーヴァテインが無いのは不服だけど、トールを殺るのには別に必要ないかな」
「神器無しで殺り合おうとか舐めてんのか」
金の拳がフッと上に上がる
金の拳の一番下にはそれを片手で持ち上げるトールの姿があった
ミョルニルの能力はすでにわかっているだろう
「俺は今までずっと、この聖戦でお前と戦うためにずっと魔力を溜めてきた。トオル達にお前の魔力を削らせ、その間に俺は魔力を溜め続ける。トオル達を利用したみたいで悪いが、お前を殺すために仕方が無いと思ってる」
「今の俺の魔力は現時点でのお前の魔力の5000倍だ」
金の拳をロキに投げつけ、それにミョルニルを投げつける
金の拳はミョルニルによってバラバラに粉砕される
そして、
「10t…」
ミョルニルの能力を発動する
粉々に砕けた金の塊その一つ一つの重さが10t
破片一つにでも当たればかなりの傷を負う
当たればの話だが
「こーんなしょぼい攻め方するやつだったっけ?興ざめだよ…」
ロキはトールへの不満を愚痴りながらひょいひょいと塊をかわしていく
落ちた塊はコンクリートを抉って深くめり込む
「これで終わりなわけないだろ」
トールの言葉と同時に、地面にめり込んだ金の塊が光り始める
次の瞬間その塊が弾け、辺りに雷撃をぶちまける
そのど真ん中にいるロキは下から、横から、上から雷撃を受ける
ロキはガクガクと痙攣して膝を着く
意識が飛びかけているのか、片手をついて頭を押さえる
その間にミョルニルに電気を溜めながロキに近づいて行く
今まで溜めつづけた余りあるほどの魔力をミョルニル注ぐ
ミョルニルはすぐに魔力の許容量を超えて辺りに放電し始める
トールはその漏れ出る電流をも操って無理やりそれをミョルニルに込める
許容量を超えてもなお注ぎ込まれる魔力にミョルニルの色は金から白へと変わっていく
「消し飛べ…」
ミョルニルを高く振り上げて、ロキな目の前に立ち、思い切り振り下ろす
雷のような雷撃が一閃、ミョルニルからロキに向かって放たれる
目を閉じていても眩しいような閃光と耳を塞いでいても鼓膜が破けるほどの爆音が響く
トールの目の前の地面が消え失せていた
20m程の穴が空き、底は暗くて見ることができない
「あっぶねぇなぁ!!」
地面からロキが現れて、手刀を振り下ろす
反応が送れたトールは、ミョルニルで防御しようとするが手刀を首に受ける
トールの首と胴体は綺麗に切り離され
何万Vの電気となって弾け飛ぶ
「がっ…ァ……」
ロキの身体中を電気が走り回り、それでも足りずに体の外へと放電される
ロキの皮膚は焼けてただれ、あらゆるところから血が吹き出る
よろよろとよろけながら辺りを見渡す
今のは雷の分身、本体を探そうと辺りを見渡す
「上だ」
そう聞こえた瞬間に肩に衝撃が走る
痛みを感じる間も無く、目の前には見慣れた自分の右腕がぺしゃりと血を撒き散らして現れる
「お前は簡単には殺さない。痛ぶって苦しめて殺す」
うしろか聞こえたその声に反応して、裏拳を放つロキ
しかし、放った拳はミョルニルによって粉砕され、引き千切られる
「がああああああああああああああ!!!!」
左の手首から先が吹き飛び、ちぎれた右腕の痛みも含めて意識が飛びかける
満身創痍のロキに追い打ちをかけるように雷撃を放つトール
ガタガタと痙攣するが、それでも反撃しようと手首のない腕を伸ばすロキ
痙攣して動けないであろうと軽く考えていたトールに一瞬の隙が生まれる
その絶好のチャンスをロキはみすみす見逃すわけがなかった
(とりあえず目を潰す…)
千切れて剥き出しになった骨をトールの目に叩きつける
思わず耳を塞ぎたくなるような音が聞こえ、トールの目が潰される
この程度とたかをくくったトールの油断が招いたこのピンチ
なんていう状況にはならない
目の潰れた音など聞こえない
無慈悲なその雷の分身はロキの攻撃を引き金に青白く弾けて消える
再び全身に電気が走り回り体の内部まで焼かれていく
さっきからやられてばっかりで馬鹿みたいだって?
ロキはずっと回復魔法をかけている
最初の頃は魔力を使い過ぎないようにゆっくりと回復していたが、今は違う
命をつなぐために全力で回復しようとしている
なのにこの状態だ
この原因は…
「俺の雷の特殊能力だ。《ジャミング》俺の電撃を受けた者は魔力の使用効率が極端に下がる。お前がさっきから回復魔法を唱えても回復できないのはこの能力のためだ」
「はは…、そんなの初めて聞いたよ…」
ロキはボロボロの体で無理に笑って見せる
「誰にも言ってないし使ってないからな」
目の前でよろけるロキを見下しながらさらに電撃を放つ
放った電撃はロキの眼前で弾け、ロキは大きく仰け反る
「こんな細かな攻撃で僕を殺せないのは知ってるんだよね」
「だからミョルニルに電撃を溜めてるんだね」
トールの握るミョルニルは再び色が変色し、青白く光り輝いている
「僕はここで死ぬ訳にはいかないんだよ!」
ロキの千切れた手首が再生し始める
手首に重点的に回復を行い、回復速度を高めている
「間に合わねぇだろ」
鼻で笑ってミョルニルを振り上げる
「終わりだ、死ね」
ミョルニルから一筋の電流がロキに伝う
瞬間、
爆発とも取れる何億Vもの電撃、トールの全力の一撃がロキに叩き込まれる
音が空気を切り裂き、弾けた電撃は家々を一瞬で灰にする
自然災害の雷。それすらも軽く凌駕したその一撃はロキという存在全てを消し炭にし、消し飛ばす
「《アイギスの肩当て》」
あいつは圧倒的破壊の真っ只中にいたはずだ
なのにそいつの声が目の前で聞こえる
この破壊の嵐の中を無事で済むわけがない
ありえない
しかし声は続けて聞こえる
「あらゆる電撃を無効化するオリンポス十二神の一人神【アテナ】の神器」
徐々に煙が晴れていき、そいつは姿を現す
五体満足に、完全に無傷の姿で
「いやぁ、右肩をやられていたら終わってたよ。これも運だね。奇跡だね。そしてお疲れトール。お前のその一撃を待ってたよ。ありったけの魔力を使うその一撃を」
ロキの右腕が獣のように大きく膨らみ、鋭い爪が生えてくる
「はは、悔しいだろうねぇ…」
ロキは目の前で目を見開くトールにその爪を突き立てる
突き出された腕はトールの腹部を貫通する
「ほらほらトール、ボーッとしてないでさ」
「もっと遊ぼうよ」
ロキは笑って腕を引き抜いた