第2話 何度も言うが俺は雷神トールじゃない
「ふざっけんなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああ」
勢いよく立ち上がり、授業中だということも忘れ不満を叫ぶ
集まる視線、視線
寝ぼけていたために頭が上手く回らず、 自分が何をやってしまったかを10秒程経ってから気付き、耳まで赤くなっていくのが容易に分かる
「す...すいません」
「後で職員室来なさいね」
先生は冷静に言うと授業を再開した
クスクスとこっちを見ながら笑う女子 と、冷めた目でこっちを見ている男子
(うおおおおおおおお!!!!死にてェ!!!)
赤面しながら椅子に座り、隣で必死に笑いをこらえている女子を睨みつけ小声で言う
「お前いつまで笑ってんだ」
「プククク...トオル、どんな夢見てたわけ!?プッ...」
トオルに負けないくらい顔を赤くして笑いをこらえ ているこいつは俺の幼馴染みの橘 姫裡
茶髪のセミロングの髪で、パッチリとした目には、茶色のカラコンをして茶色の眼鏡をかけている
はっきり言おう
可愛い
俺の幼馴染みは可愛い
断言出来る
この学校でも上位な方だ
あ? 何か勘違いしている人がいるかもしれないが、俺は姫裡が好きなわけではないぞ?
これも断言出来る
てゆーか今はそうじゃない
「そんなに面白かったか?」
「そりゃ面白いよ~。普段"目立たない"トオルが授業中にいきなり叫ぶなんて爆笑ものだよ~」
「喧嘩売ってんのか!?」
恥ずかしさから声が大きくなるトオル
「おぉ!やってやんよ!」
グッと左手で握り拳を作り、トオルの方へ突き出して挑発するように言う
「...勘弁して下さい」
いい忘れてたが、こいつは空手の全国二位だ
男子込みで。
こいつの空手は少しおかしい
もはや空手とは言い難い代物だ
おっとりとした顔つきとは裏腹に
反則ギリギリで相手に襲いかかり、試合が終わる頃には相手は失神寸前
これで名前に姫なんかついてるんだから詐欺である
あ? なんでそんなに詳しいんだって? そんなの幼馴染みだからに決まって...
はァ?好きだからだ? だから何度も言うが俺は(以下割愛)
「それはそうとどんな夢だったの?」
だいぶツボにはまったのか、ニヤけながら聞いてくる
すごい腹立つな
「えーっと、なんか白い部屋にいて...説明が難しい な。なんかリアルな夢だった」
めんどうなので適当にはぐらかす
「ふーん」
別に興味は無かったかのように、姫裡は黒板の内容をノートに書き始める
(聞いといてなんだよそれ)
□■□休み時間□■□
「お前のアレなんだったのよ」
教科書類を片付けていると後ろから声をかけられた
「寝ぼけてたんだよ」
「クラスのやつらには引かれてたな」
こいつは俺の数少ない友達
斑鳩 真広
顔はイケメン
成績もイケメン
運動神経もイケメン
性格もイケメン
ただし趣味が残念
俺と同じく、ネトゲ大好きな上、アニメ大好き、漫画大好きで
『二次元に行きたい!』と公言する程だ
こんな残念な趣味でも、モテるのだから変な話だ
俺が『二次元に行きたい!』なんて公言した日には、男女問わず、軽蔑の眼差しで見られるだろう
なんて理不尽な世界。顔で全て決まる。
別に俺の顔はブサイクではない
そこそこイケメンなのだ
だがそんなのはどうでもいい
「ところでトオル。その顔どうした?」
「ん?なんかおかしいか?」
「目の下になんか傷がある」
「え?」
(顔に傷がつくような事はしてないはずだけど)
席を立ち、真広を連れてトイレの鏡へと歩く
トイレに着いて、鏡をのぞき込むと顔には…
「.....」
「ほら、あるだろ?目の下に」
真広は鏡に映ったトオルの顔を指差す
トオルの左目のすぐ下に、Nを逆にして引っ張ったような雷のマークが、タトゥーのようについていた
(...雷って確か夢で)
「どうした?顔色悪くないか?」
「そ...そうか?」
不意の呼びかけに焦りながらも答える
「おーい!小鳥遊!」
トイレのドアを開けてクラスのやつが入ってきた
「先生がお前の事呼んでたぞ」
「あ、忘れてた」
(そういえば呼び出し食らってたんだった)
□■□職員室前□■□
「先生言いましたよね?終わったら来なさいって」
「...はい」
「それはもう許しますけど。呼んだのは別の件です 。あなたにお客さんが来てるんですよ」
「え?俺にですか?」
(生徒に客とか来るのかよ。つーかそんなやつを学校に入れるのかよ……)
□■□客室前□■□
「ここにいらっしゃるから。入って」
「し...失礼しまーす」
扉を開けて中に入ると
黒いスーツに小袋を持った、20代くらいの男と
半袖の制服を着て、腕に包帯を巻いて、ゴツゴツしたアクセサリーをつけた中学生くらいの男の子がいた
「お前があの【雷神トール】か」
包帯中学生が、いきなりとんでもないことを言い出した
「は...?」
何を言ってるんだコイツと思うが、すぐに夢を思い出す
「夢から覚めればわかるってまさか...」
[小鳥遊様、お願いです!私に話を合わせて下さい! ]
突如頭の中に声が響く
「なんだこれ」
単純な感想を口で述べた途端、スーツの男がビクンと震えた
[口に出さずに頭で念じて下さい!!!私は《シャ ルヴィ》と申します。本物のトール様の側近です]
(これでいいのか。俺の機転の良さに感謝しやがれ 。そこの黒スーツがお前だな?てか、トールの側近ってどういうことだ!)
[お、落ち着いて!お願いです。今は私の言うことに合わせて下さい]
(言うことって?)
[小鳥遊様が【雷神トール】として聖戦に参加して欲しいのです]
(またそれか!絶対に嫌だ!!!)
トオルは黒スーツをキッと睨む
「お前さっきから黙ってるけどなんなの?トールじ ゃねーの?違うんなら口止めのために殺すけど」
包帯中学生が、再びとんでもないことを言い出す
「殺!?はァ!!?」
[彼なら本当に殺りかねませんよ]
(いやいや!意味わからんぞ!俺殺されるのか!?)
「時間が惜しいな」
包帯中学生はそう呟くと、右手を横に出した
すると、何もないはずのその右手から、銀の槍が出現した
それをトオルの喉元に突き付ける
「どうなんだよ。ハッキリしろ」
[小鳥遊様!お願いです!保身の為と思って、ひとまずこの場は!]
「最後に聞くぞ。お前は【雷神トール】か?」
(クッ....この場だけだぞ)
[感謝します]
「あぁ、そうだ。俺がトールだ」
「...やけに間が空いたがいいか。本物かどうかはすぐに分かる」
包帯中学生はまだ不満そうだった
銀の槍はいつの間にか消えていた
「じゃぁ、本物か確かめるぞ。俺に触れろ」
何を言ってんだコイツと再び思うが、言われた通り肩に触る
シャルヴィも肩を触っている
「《転移》」
再び銀の槍を出して、包帯中学生はそう呟くと
客室がグニャリと曲がり、気がついた時には、どこともしれない灰色の壁に囲まれた何も無いホールのような場所に立っていた
よく見ると奥に何人か人がいるようだ
「よし。着いたな」
「あの、ここどこですか?てゆーか今何が起きまし た?」
トオルはワケが分からず混乱している 無理もない
気が付いたら知らない場所に立っているのだから
「よし。じゃぁ自称トール君。"武器"を使ってみろ 」
(無視された...って武器?)
「武器?俺そんなもの持ってないんだけど…」
「そこにあるだろ」
そう言って包帯中学生はシャルヴィが持っている小袋を指差す
シャルヴィがトオルに近づいて小袋を渡す
中を開けて見ると
「....金槌と手袋?」
中にはごく普通の金槌と、黒に黄色いラインがある手袋があった
[その手袋は《ヤールングレイプ》といいます]
(ふーん...で?どう使えと?)
[使ったことがないので分かりません]
(な!?嘘だろ!)
[いいからつけてなんとかして下さい!メチャ睨ん でますよ!あなたの事]
振り返ると、包帯中学生がこっちを睨んでいる
はやくしないと死ぬなこれ
渋々手袋をつけてみる
しかし、何も起きない
バッと腕を上に掲げてみるが
体に力がみなぎる!!わけでもない
むしろ恥ずかしいだけだ
包帯中学生のイライラ顔に拍車がかかる
ほんとに死んじゃうなこれ
(落ち着け。これはあくまでその場凌ぎ。どうやっ て切り抜けようかな...)
「やはり偽物のようだな。これ以上は時間の無駄だ。付き合いきれん。仮に本物でもこんな調子じゃ使い物にならん」
「それは聞き捨てなりませんね。トール様は貴方より確実に強いですよ。まだ召喚されたばかりで、体が慣れていらっしゃってないだけです」
シャルヴィが包帯中学生を挑発する
「...なら確かめるか」
そう言った瞬間、槍を構えトオルめがけて突進して来た
「ちょ!?待っ...!」
串刺しを回避しようと、後ろに飛んだ瞬間
背中に激痛
「カハッ...!?」
肺から空気が押し出される
何が起きたのか分からず、自分の状況を確認しようとする
トオルは壁にめり込んでいるようだった
(はぁ!?何が起きた!?)
「本物だな」
前を見ると包帯中学生が眼前に迫っていた
(!!)
刺されると思い、ギュッと目を瞑る
が、何も起きない
恐る恐る目を開けると、シャルヴィが立っていた
[おめでとうございます。武器の能力はちゃんと発動してました。 《ヤールングレイプ》の能力は電流による肉体強化です。体に電流を流し活性化させるのです。]
(なら今のは、強化された足の筋肉のせいで、自分から壁にめり込みに行ったって事か)
踏み込んだ所は深々と陥没していた
(まぁ、その場凌ぎは済んだ事だし、はやく学校に戻してくれ)
壁から抜け出ながらシャルヴィに念話で話しかける
[...ナンノコトデスカ?]
(...は?)
「疑って悪かったな。俺の名前は高橋 裕也だ。まぁ、お前らのマスターで"人間派閥"のリーダ ーだ。これからの聖戦、宜しく頼むぜ」
「え?」
ギロリとシャルヴィを睨むがシャルヴィは顔をそらして、我関せずと口笛を吹いている
(あんにゃろう!)
トオルはすぐさま高橋に向き直り真実を述べる
「俺はトールじゃありませんッ!」
「ム。そんなわけないだろう。その《ヤールングレ イプ》はトール本人しか使えないんだからな」
「な!?いや、そうだとしても!俺はトールじゃな くて小鳥遊 透っていうんです!ただの平凡な高校生です!」
「お前の言う通りだな。シャルヴィ。本当に聖戦に出たくないらしい」
「はい。私も随分と手を焼きました」
ニヤつきながらシャルヴィは答える
「いや!これは聖戦に出ない為の嘘なんかじゃなくて!本当の...」
トオルの言う事も虚しく、高橋は嬉しそうに大きな声で叫んだ
「北欧神話の神!【雷神トール】!召喚成功!!! 」
その叫びを聞き、ヘナヘナと床に膝をついたトオルも、負けずに半泣きになりながら叫ぶ
「何度も言うが俺は雷神トールじゃないッ!!!」
叫びは虚しく響きわたった
「.....トールですって?」
叫びながらも遠くから、確かにそう聞こえた
遠くから聞こえた謎の声
これはいったい!?