第58話 互いの役割
困ったことになったな
仕方ないとはいえ、オリンポス十二神二人を一人で相手取ることになってしまった
ぶっちゃけると無理だ
勝てる確率は限りなく低い
ここで低いと言えるあたりまだやれるとは思えてるようだ
それだけまだましか…
アフロディテに近づく十二神の二人を阻むように間に立ちふさがる
後ろをちらりと見ると、ユウトもアフロディテの暴走を止めるべくアフロディテと相対している
「アフロディテは任せていいんだろうな!」
「あぁ、任せろ!それより自分の心配をしてな!」
んなことは重々承知だよ!
目の前に立つ十二神を睨む
ここで弱気を見えちゃいけない
あくまでお前達とは互角にやれると思わせなくちゃな
とは考えつつも
最初にも言った通り
無理だ
俺の能力はコピー
見たものを3つまでコピーして使うことができる
一度使ったものは消える
イマイチ使い勝手が悪いこの能力
今はさらに酷いことになっている
空き3つのうち、2つに何も入っていない
さっきのクロノスの魔法で使い切ってしまった
残りの1つは何だって?
これはあまり使いたくない
マジで命の危機に瀕したときに使う
さて、どうすっかな
あの戦車で砲撃してくれればそれをコピー出来るんだけど、よけれるという確証はない
あのランスをコピーしてもいいけど、残念ながらあんなでかいものは振り回せない
「あんたらにはアフロディテには指一本触れさせない」
とりあえず虚勢を張る
考える時間がもう少し欲しい
「ならやってみろ」
アレスがランスを構え、突進してくる
そういうのが一番困るッ!!
能力発動、ランスをコピー!
コピーしたランスを召喚し、盾のようにして突進をガードする
刺殺はまぬがれたものの突進の勢いまでは殺しきれない
アレスを止めたはいいが、ショウタは吹き飛ばされ、半壊した別荘に突っ込む
「何やってんだお前」
「うっせ!お前は自分のことに集中しろ」
すぐにがれきから抜け出す
「あーくそっ!」
小さく呟く
やっぱり無理だって
アレス一人でこのざまだぞ
相手はこれと同じレベルがもう一人いるんだ
それに対して俺はただの人間
力の差がありすぎる
「ネガティブになってきた…」
思わず小さく呟く
「私も参加しますよ。時間がもったいないですので」
そう言ってヘスティアは腰から小刀を二本取り出す
「能力はおまけです。私の本命は…」
ふっとヘスティアの姿が目の前から消える
「っうお!!!」
背中に殺意を感じて身をかがめる
その上ギリギリを小刀が振り抜かれる
「ほぉ、今のをかわしますか」
続けてて刃がショウタを襲う
体勢を立て直し、刃をギリギリでよける
「油断大敵」
後ろから声が聞こえたと思った時には既に遅く
アレスがランスを横凪に振るっていた
腕ごと横からランスを叩きつけられミシミシと体が軋む
ショウタは大きく吹き飛び、地面を引きずられる
「がはっ…」
肋骨が折れて肺に突き刺さったのか、口から血を吹き出す
まだだ、
まだやれる
震える手足に力を入れて立ち上がる
口から垂れた血を拭い笑って見せる
ショウタは回復能力は人間を超えているため
肺に空いた穴もすぐにふさがる
「まだ立つか」
重々しいランスを構え直し、虫けらでも見るような目でショウタを見下す
「しつこいぞ」
ランスを高々と上げると同時に戦車が火を噴いた
「来た!」
全ての感覚を研ぎ澄ませ、砲弾を見ることに集中する
一発目、左に飛ぶ
二発目と三発目は上に飛ぶ
四発目は、空中でランスを召喚し、盾として使う
砲弾の爆発からも身を守り、無傷で地面に着地する
「コピー完了…!」
よし、これで互角にやりあえる
空きスロット2つに砲弾を入れる
再び背中に殺意、
「読めてんだよ!」
後ろを見ずに裏拳を放つ
裏拳は見事にヘスティアの顔に当たり、のけぞるヘスティア
すぐさま後ろを振り向き、のけぞるヘスティアに銃の形をした指を向ける
「バーン、」
そのかけごえに呼応して、指先からアレスの砲弾が放たれる
コピーした砲弾の一つ目だ
砲弾は、ヘスティアに着弾すると同時に爆発する
爆発から身を守りつつ、その爆風の勢いを利用し、アレスとの距離を一気に詰める
「近距離戦は苦手なはずだ!」
あんな大きなランスはそこまで速く振り回せないだろう
一気に懐に潜り込み、右手を振り上げる
しかし、
「油断が一番の敵だと言っただろう」
アレスはランスを投げ捨て、拳を振り抜く
鳩尾に入ったアレスの拳は、臓器を押しつぶし、背骨を砕く
地面を引きずって吹き飛ぶショウタ
「ヘスティア、お前も油断しすぎだ」
ヘスティアは左腕が肩ごと抉れて消えている
砲弾の当たる位置をギリギリでずらしていたのだ
「いやぁ、申し訳ない」
くそ…
さすがにもう無理だ
傷は戻るとしても、時間がかかる
体がピクリとも動かない
使うか……《アレ》を…
□■□少し前□■□
さて、こっちもどうすっかな
任せろと啖呵を切ったが特に何をするか考えていない
まぁ、いつもの通り、なるようになるだろ
ユウトは薄く笑ってゆっくりとアフロディテに近づく
「やめて!来な…いで……」
それに気付いたアフロディテが悲鳴混じりの声を上げる
自分の能力が暴走し、辺り一帯の生命力や魔力を奪い去る
近づけば近づくほど奪われる量は増幅する
ユウトもそれをわかっている
わかってて近づいている
魔力が恐ろしい速度で減っているのが分かる
わかってても進む
相手は化物じゃない、
ただの女の子なんだ
「女の子がそんな顔するなんて良くないと思うぜ?」
目の前に立って笑うユウト
実際この距離なら即死レベルで生命力が奪われるはずだ
それでもユウトはアフロディテの前に立ち笑う
その笑顔を見てユウトを突き飛ばすアフロディテ
近づくだけで奪い去る
直接触る、なんてひとたまりもないことだ
それでもユウトを突き飛ばす
それにどんな思いがあったのかはユウトにはわからない
でも、彼女は救いを求めている
それだけは分かる
突き飛ばされて尻餅をついたユウトは、起き上がって再び歩み寄る
再びつきとばそうとするアフロディテの腕を掴む
「まぁ落ち着いて」
ポンとアフロディテの頭に手を置いて優しく撫でる
思わず涙が溢れるアフロディテ
自分のせいで大変な目にあっているのに優しくしてくれる
ユウトが強がっているのは誰が見ても簡単にわかる
顔には出さないが辛いということが簡単に読み取れる
それでも優しくしてくれる
それなのに私は…
「大丈夫だから」
そう言って、アフロディテの額に口付けするユウト
「笑ってくれ」
ニカッと笑うユウト
暴走が止まった
ここでユウトが何をしたのかはわからない
「どうして…」
アフロディテが小さく呟く
「どうして私なんかのためにそこまでできるんですか!?死にかけたんですよ!」
私なんて、
十二神のおまけ、
ただの飾り
散々なことを言われてきた
仲が良かったみんなも先にいってしまい
私を知るものは誰もいなくなって、いつのまにか私の周りには避難の目しかなかった
死にたくても死ねずに十二神として過ごす毎日
誰にも認められず、
誰にも必要とされず
私は…
私は……!
「誰かを助けるのに理由が必要?」
俯き、心が折れかけたアフロディテにそう問いかけるユウト
「目の前に傷ついてる人がいる。君だったらどうする?」
アスモデウス戦の後を思い出す
傷ついたみんなを代償回復で回復させてしまった
嫌われると思ったけど
ありがとうと言ってくれた
私は嬉しかった
認められなかった力が初めて認められて…
いや、違うか
昔の友達も同じようにありがとうと言ってくれたんだった
「助けるだろ?それは自分に得かどうかとかじゃない。困っているから助ける、泣いているから助ける。あえていうならそれが理由だよ。十二神の立場なんて気にするもんじゃないよ」
「まぁ、十二神のやつらが認めなくても、人間派閥のみんなはとっくに君のことを認めてるし、必要としてるはずだよ。もちろん僕もね」
その言葉でアフロディテは救われたのだろうか
どうなのかはわからないが
アフロディテがもう迷うことはないだろう
それだけははっきりとした事実だ
「その…、なんだ、こんな可愛い子が困ってたら助けたくなるって」
少し躊躇うように言うユウト
その言葉に少し赤くなるアフロディテ
「とにかくだ!僕ができるのはここまでだ。ほら、今も君を必要としてる人がいるじゃない」
そう言って八橋をちらりと見る
「行ってあげな」
ポンと肩を叩いて歩いていくユウト
「あの、ありがとうござ…」
振り返ってお礼を言おうとしたがユウトは消えていなくなっていた
ショウタの秘密兵器がついに出るのか
出ないのか




