第52話 例外的に
イフストのユウトが登場!
トオルが目の前で倒れているのをただ呆然と眺めている間に、シヴァが私を庇って倒れる
倒れて動かない仲間達
そしてそれを背にして目の前に立つ白い少年
この状況に私は絶望するのではなく、疑問を抱いた
「あなたは何者ですか?」
「………」
白い少年は黙ったまま動かない
「なぜあなたが《それ》を持っているのですか?」
「それは…【ゼウス】の力と、ゼウスの《雷霆》ですよね?」
【ゼウス】
誰でも知っているであろうゼウスという神
ギリシャ神話の最高神にして天空を支配する
知名度の高さはそのまま神の強さをあらわす
ゼウスの力はもはや悪魔や天使を凌駕する
それ程の力を持ったゼウスから武器を奪うなんて神業ができるなんて…
いや、そもそもなぜ、ゼウスの能力
《確率操作》が使えるのか
ただの人間が一体どうやって…
「ゼウスの名を口にするな」
ボソリと呟き、ナイフを振り上げる
やばい、《雷霆》の能力は…!
しかし、どうすることもできず
ギュッと目をつぶる
やっぱり十二神としても誰からも認められずに死んじゃうのかな…
………。
あれ、まだ?
ゆっくり目を開けると
知らない人が立っていた
「えと…」
突然現れた第三者に困惑するアフロディテ
「お、おぉふ…、誰お前みたいな顔してるな」
第三者はアフロディテを見て少しかなしそうな顔をするも、まぁ無理もないと苦々しく笑う
「俺の名前は黒石ユウト、第四勢りゃッ………」
ドヤ顔で自己紹介していたが盛大に噛んで、ドヤ顔のまま数秒制止する
そしてそのドヤ顔を保ったまま
「お、俺の名前は黒石ユウト!第四勢力の副リーダーだぜ!」
「は…はぁ…」
反応に困るアフロディテ
ことが進むのが急すぎてついていけてない
「う、引かれた?まぁいい、今はそんなことよりも」
そう言って白い少年と向き合う
「お前一体何やってんだ?紅」
呼びかけても心底うざったそうな顔をしているだけ
邪魔されてイラついてるらしい
紅と呼ばれた少年はナイフを構えて走り出す
「俺の、攻撃が当たる確率100%」
そう呟いて、ユウトにナイフを振り上げる
どうあがいてもよけられないその攻撃をユウトは……
軽々とかわした
予想を越えた、かわされるという現象に不意をつかれ、よろける紅
「お前の能力は効かねぇよ!お前、友達の能力も忘れちまったのかよッ!」
よろめいた紅の下っ腹に右ストレートをキメるユウト
紅は軽く吹き飛ばされ地面に叩きつけられる
「俺は例外的にその能力に対処できるんだよ!」
紅は目を見開いてユウトを見る
初めての能力が効かない相手で驚いているのだろうか
「それより、友達のことを忘れる。いや、女の子を怪我させようとしたやつには制裁を与えなきゃなぁ…!」
口の端を釣り上げて不敵に笑うユウト
「さぁ、説教の時間だぜ!」
何もないところから突然出てきた学ランを羽織るユウト
雰囲気がガラリと変わる
紅が走り出す
「俺の、攻撃が当たる確率100%」
そう呟いてナイフを構える
「は、呆れた」
やれやれと手を振るユウト
交わすそぶりも見せない
ナイフを振るう紅
しかし、ナイフの方がユウトをかわしているように見える
「なんでお前みたいな奴がこんなことするんだ?」
ナイフを軽くよけながら紅に叫ぶユウト
紅は答えずナイフを振り続ける
「なぜオリンポスを狙う」
「……」
「俺のこと覚えてないのか?」
「……」
「……」
「歯ぁ食いしばれ!!」
右手を大きく振りかぶり紅の顔をぶち抜く
「まだまだぁ!」
吹き飛んだ紅に続けてエルボーを入れ、よろけたところにアッパーを入れる
「なんか喋ろ!無視されてるみたいで悲しくなるだろ!」
みたいじゃなくて無視されている
紅の目はどす黒い殺意で溢れる
単純にユウトへの殺意と、邪魔されたことへの苛立ち
その二つが宿った目でユウトを睨みつける
「それ絶対友達見る目じゃないだろ…」
「誰だよお前」
紅が口を開く
「誰だか知らないが邪魔すんな」
そう言ってナイフを振るう
「っ!!」
慌てて腕をクロスさせてナイフをガードする
ビリリと破ける制服と飛び散る血
「あー…、ばれたかな?」
少し焦りの表情が見えるユウト
紅の口がゆがむ
「楽しそうだな…、うおおおお!?」
突きつけられるナイフをよけるユウト
(能力使えよ馬鹿!)
ナイフをよけ、一旦距離を取る
「困ったなぁ」
うーむと唸るユウト
「腕、大丈夫なんですか!?」
アフロディテが心配そうにするが
「あぁ、これはいいんだよ。つばつけときゃ治る」
「そういうわけにはいきません!」
せめて止血だけでもと、か細い回復魔法をあてるアフロディテ
しかし、
傷が悪化し、血が溢れ出す
「!?」
回復していたはずの傷が悪化したことに驚くアフロディテ
手についた血を見て後ずさる
「ぐ…やっちまった…」
(女の子にこんなことさせるとは)
「さっさと終わらせて……?」
目の前にいるはずの紅が消えていた
「……!!!」
振り向くと紅がアフロディテに迫っていた
(しまった!!)
振り上げられるナイフ
「くっ!!感覚共有!!!」
ユウトの叫び声と同時に紅の動きが一瞬止まる
しかし、止まるのもほんの一瞬で、ナイフが振り下ろされる
が、ナイフはユウトの手のひらに突き刺さる
手に刺さったナイフの切っ先は、手の甲から飛び抜け、アフロディテの鼻先ギリギリまで伸びる
「お前を元に戻してやりたかったけど、今の状況じゃぁ無理があるか」
ユウトは苦しそうにそう呟いて
紅の胸ぐらを掴む
「あっちで少しは頭冷やしな!」
そのまま紅を突き飛ばす
地面に倒れる前に紅はフッと姿を消した
「あ、あの!手が!」
アフロディテがあわあわと慌てる
「とりあえず、任務は果たしたかな。君の護衛、君が無事で良かったよ」
苦しい作り笑いを浮かべてユウトは言う
「問題児はここらでお暇するよ、これをみんなに当てたら感情が戻るから」
そう言って制服の切れ端を渡す
「困った時はいつでも呼んでくれ、女の子の頼みとあればすぐに駆けつけるからさ」
そう言ってユウトは色が薄れて行くように消えて行った
不条理な話が大好きです




