第48話 海だ水着だ ◆
「トオル!遅いよ!一番最後だよ!」
集合場所の駅に着くやいなや、喚き散らす幼馴染みの姫裡
今は朝の6時だというのになんなんだその元気は
「起こしに行ってやろうと思ったけど、それじゃあんたのためにならないと思ってねぇ」
ニヤリと笑うディアナ
責められている俺が面白いらしいな
つーか起こしに来るってなんだ
誰も頼んじゃいねーよ
「いいじゃない、遅れたっていっても5分だし」
く
荒ぶる2人をなだめる四季崎さん
朝からマジ美しいです
「お前のせいで俺の時間が無駄になった、死んで詫びろ」
高橋が虚栄の魔槍を召喚してトオルを睨む
「はい!そこおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
待ってましたと言わんばかりに叫ぶトオル
「おかしいのそこな!なんで高橋がいるんだよ!そしてなんでさも当たり前のように後ろにアフロディテとシヴァがいるんだよ!」
朝から大声でツッコむトオル
ツッコミキャラだったっけ
「あ、高橋さんは私が誘ったんです」
ニコニコしていたアフロディテがスッと手を上げる
「私今、カフェでバイトしてるんですけど、四季崎さんがそこのお得意さんでですね。話して仲良くなって、今回の件に誘ってもらったんですよ。ね!四季崎さん」
照れくさそうに横で笑う四季崎さん
「へぇ、そうか…」
……話して仲良くなったから別荘来ない?ってどんだけフレンドリーなんだよ四季崎さん
まぁ性格も美人ってことか
完璧な人だな
「…待て、それでどうして高橋が来ることになる?話が繋がらんぞ」
「高橋さんはなんとなく誘いました」
ケロッとした態度で言い放つアフロディテ
「なんとなくで片付けられるリーダーって…」
「なんか言ったか?」
「いえ何も」
とてつもない殺気に襲われ身震いする
高橋って一応俺より2つ年下なんだよな
「で、そこのベンチでぐったりしてる2人はどうしたんだ?」
近くにあるベンチでグロッキー状態のアヌビスと真広を指差す
「あの2人朝は苦手らしいのよ。真広は私が無理矢理連れ出して、アヌビス君はディアナちゃんが叩き起したらしいよ」
姫裡が丁寧に説明する
頭で2人が起こされる(襲われる)状況が簡単に想像できる
俺の所に来なくてよかったと心底思うよ
「じゃ、みんな揃ったところで行きますか!」
□■□■□■□
「はぁ…」
綺麗な海を前にして
深い深いため息をつくトオル
「なんでこうなったのかなぁ」
げんなりとした気分を全面に押し出して、海で遊んでいる面々を遠目に眺める
特にシヴァがはしゃぎまくっている
ここまで響く程叫んでいる
普通なら喜ぶはずの女子の水着姿が今はそんなに楽しめない
隣では幸せそうな寝顔で、ぐっすり寝ているアヌビスがいた
なんか腹立つので軽く砂をまき散らしてやる
「ブファッ!?」と変な声を出すが、変わらず寝息を立て始める
(こいつ………)
全力でいたずらしてやろうと思ったところで、姫裡こっちに来た
「トオルは海に入らないの?ここにいても暑いだけじゃん」
パラソルの下で座っているトオルをのぞき込む姫裡
(…顔が近い)
海に入ってもなぜか眼鏡は着用している
濡れた髪の毛から滴る水に、黒いビキニ
なぜかこいつでもこんなに……
ふと、自分が赤くなっていることに気づき、姫裡を直視出来なくなる
「どうしようと俺の勝手だ」
横を向いて適当に返事をする
「ふーん…」
意味深に頷き、そして
「トオル君はいまだに泳げないのかぁ。それなら仕方ないなぁ〜」
憎たらしく、挑発するように言った
「………よーしわかった。そんなこと言われて黙って引きさがれるわけないよな」
ギラリと姫裡を睨みながら立ち上がる
後悔しても知らないぞ
俺の、fishをも遥かに凌ぐクロールを見て驚くことなかれ!
「じゃぁ、行こっか」
ビーチボールを抱えニッコリ笑う姫裡
「ッ!…………ぉ、ぉう」
走っていく姫裡のあとを追う
(…こいつってこんな可愛かったっけ)
ちなみにこの後、トオル君は見事に溺れ、みんなに大笑いされ泣くことになるのでした
□■□■□■□
「いやぁ、トオル泳げなかったんだな」
焼けた肉を紙皿に分けながら馬鹿にしたように笑う真広
今夜は浜でバーベキュー
金持ちの四季崎さんだけあって、かなり高い肉が、かなりの量ある
「それは言うな…。俺だってもう少し泳げると思ってたんだよ」
心に深い傷を負い、泣くことになったトオル
真広から差し出された紙皿を強引に取る
「これ美味しそうね」
ディアナが、受け取った紙皿の上に光り輝く、高級な肉を眩しそうに眺める
「確かに俺の舌に適合する良質な個体だな」
ここ最近中二度が増してきている高橋リーダー
無駄に装飾された自前のフォークで、肉にかじりついている
「どんどん食べてね!たくさんあるから!」
みんなの食べっぷりを見てニッコニコしている四季崎
「みんな本当にありがとうね。…転校してきたばかりの私なんかの誘いにのってくれて。はやく友達になりたくて…」
少しシュンとした顔になる四季崎
「いいんだよ!そんなことは気にしなくて、もう友達なんだし。それにディアナちゃんも転校してきたばかりだし」
姫裡が肉を食べながらディアナを指差して言う
「そそ、あたしも同じ状況なんだし、お互い仲良くしようよ」
そう言ってニッコリ笑う
こいつの本性を知っている俺としては、気持ち悪いものなんだがな
そんなことを考えてたら睨まれた
こいつも心が読めるのか!?
「アフロお姉ちゃん!おかわりないの!?」
くちの周りをベチャベチャに汚しながら喚くシヴァ
さすが空気ブレイカー
周りなんかお構いなしか
「ちょっと待って、お肉とってくるから」
「私も手伝うよ」
アフロディテについていく四季崎さん
「2人共美人さんだよねー。憧れちゃうなぁ」
並んで別荘に向かう2人を眺めながらぼやく姫裡
「私だってねぇ、本気を出せばあれくらい美人になれるしぃ、もーっと本気出せば胸も大きくできるしぃ」
「え?ちょっと姫裡?何言って…」
突然後ろから胸ぐらを掴まれるトオル
「胸が大きいからなんだよおおおおおおおおおおおおおお!!」
トオルの胸ぐらを掴み、目の前で叫ぶディアナ
「酒くさっ!?お前らまさか酒飲んで…」
(つーか顔が近いんだよ!どいつもこいつも)
顔を背けると無理矢理引っ張られる
「あんたはどっちがいいんだ!?"大きい"方がいいのか!"小さい"方がいいのか!!」
すごい剣幕でどうでもいいことを責められる
ここで大きい方です☆なんて言えば海の藻屑となるだろう
「ち、小さい方です」
小さく呟くようにして言う
なんか恥ずかしい
「なら"無い"あたしはどうすればいいんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「んなこと知るかよおおおおおおおお!!!」
叫びながらトオルを殴りとばすディアナ
「ゴフッ!?」
砂浜に叩きつけられ背中の痛みにもがくトオル
「テメェ…、そ、そんなことで顔を殴りやがって!」
殴り返してやろうと立ち上がった瞬間
ディアナに抱きつかれた
「な…な!?」
殴る気も削ぎ落とされ、手のやり場に困っていると
「ほんとにどうすればいいんだよぉ……」
抱きついたまま泣き出した
(うおおおおおおおお!!?これどうすればいいんだ!?どうすればいいんだ!?)
とりあえず、トオルもディアナを抱き締めてみる
(…………………本当に胸ないんだな)
密着してるせいでそれが簡単にわかる
かなり興奮していたが、それがわかった瞬間なんか冷めてしまった
なんだこの喪失感
「ひとまず離れ…」
ディアナを引き離そうとしたところで後ろから殺気を感じる
恐る恐る振り返るとニッコリ笑った姫裡がいた
「なにをしているのかな〜?」
その笑顔には溢れんばかりの殺気が…
「あ、いや、これはその…」
ポンと肩に手を置かれる
「言い訳無用」
ガッチリと首を固められ、締め付けられる
「死……死…ぬ」
それよりこの状況が死ぬ
前からディアナに抱きつかれ、後ろから姫裡に首を締められる
要するに2人の女子と密着しているわけで…
特に後ろには、前には無い柔らかいものが…
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!高橋!助け……」
「あ、僕はそういうのはちょっと…」
「そ、それでこそ紫焔衝天だ!ってえ?」
高橋がいたはずの場所には、礼儀正しく椅子に座り、ちびちびとお酒を飲んでいる、普通の青年がいた
「ちょっと僕トイレに行ってきますね」
軽く会釈して退席する高橋
(あれ誰だよ…)
「ト〜オ〜ル〜」
首の締めつけが強くなる
ディアナの抱きしめも強くなる
「私はねぇ、トオルのことがねぇ…………」
寝た
首絞めたまま寝やがったこいつ
ディアナも抱き着いたまま寝ている
「どうすればいいんだよコレェ……」
この後、(みんなにお酒を飲ませた張本人である)四季崎さんとアフロディテに無事助けられました
体のバランスが悪いのはご愛嬌✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌