第43話 壊した絆
「インドラがやられるとはな」
サタンが倒れたインドラを眺めつつ呟く
「あいつは仮にもヒンドゥー神話の最高神だぞ?」
「ごちゃごちゃ言ってないで、シヴァ開放して俺に倒されろ!」
分身からミョルニルを引き寄せる
さすがにミョルニルまでは分身を作り出せない
まぁ、作れる分には作れるが、重量操作までは作れない
「いくぞオラ!!」
バット程まで大きくしたミョルニルで床を抉るように振る
床をバラバラに粉砕し、破片を悪魔に飛ばす
その破片1つの重さは約1t
悪魔まで距離が届かず、床に落ちる破片は床を貫き、深く抉っている
しかし
圧倒的な破壊力を持った破片は呆気なくサタンの影に飲み込まれた
「ふんっ!」
ミョルニルを持たない左手を振りかぶり、雷を撃ち出す
雷はサタンの影の壁を避けて飛び、弾ける
影で隠れて向こう側が見えない
まぁ結論、見る必要はないのだが
なぜなら、視界を遮っていた影の壁からシヴァを抱えた無傷の2人が出てきたからだ
おそらく、雷が当たる前に影の中に逃げたのだろう
「お前、仲間を助けるとか言いつつ仲間ごと消しさろうとしてるじゃないか」
「いや?ここまでは予定通りだぞ?んじゃ!次いくぞ!」
ミョルニルを投げ捨て、両手に雷を溜める
今出せる全力の出力で悪魔を葬る
「はあああああああああ!!!」
手につけたヤールングレイプが蓄積できる臨界を越し、バチバチと音を鳴らして弾け出す
「あ?」
突如、ヤールングレイプから光が消える
ブレーカーが落ちたように電力が消え失せる
体からも力がなくなっていく
髪が黄色から少しずつ黒に変わる
瞳も同様、
「え、嘘だろ……」
目を見開き、カタカタと震えるトオル
それを見て鼻で笑いつつ
「これも予定通りか?」
サタンがさも楽しそうに笑う
魔力切れ
ヤールングレイプ、ミョルニルに元々溜められていた魔力が全て尽きたのだ
言わずもがな、人間と神では圧倒的に魔力量が違う
トオルを代理にするにあたって、トールはある程度魔力を込めた武器をトオルに渡したのだ
ある程度とはいっても【雷神】のある程度であって、その魔力量は尋常じゃない
その尋常じゃない魔力量でも限定解除なんかに使えば、すぐになくなってしまう
神は、戦闘中でも少しずつ魔力を作り出すことも出来る
しかし、それが出来ない人間であるトオルは、ただ滅茶苦茶に魔力を使い続けていただけなのである
「こうなってしまえばただの人間だな」
グググとサタンの足元の影が浮き上がり、トオルに向かって伸びる
「ぐっ!」
いまやただの人間となったトオルにはかわせるはずもなく、
「グウッッ!!」
足をかすり、膝をつく
「あぁ、もう少しでかわせたな」
完全に舐めきっている
ケラケラと笑いつつ、次々に影を伸ばす
その全てをよけきれるはずもなく、徐々に傷は深くなっていき、辺りは血で真っ赤になっていた
もう立つこともできず、膝をつく
意識も半分飛んでいる
(クソ……)
「飽きてきたし、そろそろ終わらせるか」
サタンは再び影を浮かび上がらせる
「トール兄ちゃん……?」
トオルの耳に悪魔でもない声が聞こえる
見るとシヴァが目を見開いてこっちを見ていた
「あぁ、お前、起きたのか」
シヴァを抱えていたレヴィアタンもシヴァに気づく
「よく見てろよ、お前の仲間がやられるところをな」
シヴァは涙を浮かべて震えながらトオルを見ている
「シヴァ……」
「終わりだ」
いくつもの影がトオルに伸びていき、突き刺さった
「あ……あぁ、」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
悲痛なシヴァの悲鳴が響く
そして、教会が消し飛んだ
□■□■□■□
今回の夢は酷いものだった
いつも僕を虐めていたやつらが僕の友達にまで手を出し始めた
それにはさすがの僕も怒って、そいつら全員、、、
目が覚めると、目の前に傷だらけのトール兄ちゃんと、みんなが倒れていた
一瞬訳が分からなくなったが、すぐに今の現状と夢のことを思い出した
僕はインドラにさらわれたんだった
でもおかしいな、両足がちゃんとある
たしかインドラに消されたんじゃ…
そして、夢のこと
僕を虐めていた奴らが僕の友達にまで手を出したこと
「あぁ、お前、起きたのか」
「よく見てろよ、お前の仲間がやられるところをな」
仲間がやられる?
また昔みたいに?
また僕は何も出来ずに、友達がやられるのを見ているだけ?
また悔しい思いをするのか
また後悔するのか
「終わりだ」
"また"絆を壊すのか
全て思い出す
今までの夢は全部自分が作り上げた妄想
僕を虐めていたやつらも、
そいつらが手を出した友達も、
みんなみーんな
壊したのは僕
友達に手を出されたことに、逆上し、暴れ、周りがまるで見えておらず、破壊の限りを尽くした僕
その力は地形を変え、天候を変え、事象を変え、神話を変え、
絆を粉々に砕いた
そしてついた名が【破壊神】
みんなみんな殺して
ぜんぶぜんぶ壊した
そもそも僕のこの強過ぎる力を妬んで虐めてきたのだろう
こんな力がなければみんなと仲良くできたのに
そもそも僕のこの強過ぎる力のせいで友達までも殺したのだろう
こんな力がなければみんなと今も楽しく遊んでいただろう
そんな僕に友達が、仲間が再びできた
もう死ぬ程嬉しかった
でも昔のことは忘れられない
だから記憶を塗り替え、消しさった
自分の都合のいいように、悪いのは全部自分なのに
そんな再びできた友達も、"また僕のせいで"死ぬ
今、目の前でトール兄ちゃんが串刺しになった
何なんだ?
僕はなんなんだ?
僕のせいなの?
僕のせいでみんな死んだの?
僕を助けるために?
なんでこうなるんだ
なんでなんだ
僕はもう、
友達1人も作っちゃダメなの?
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
壊れろ、全部、もう嫌だ、壊れた絆はどうやっても戻らない
ならば、見えなくなるまで、粉々に、壊してしまえ
ゼンブコワレロ
シヴァの目の下のひし形の刻印が消える
そして教会は弾け飛び、
辺りには黒い魔法陣が何十、何百と現れる
「もう絆なんていらない」
シヴァ君覚醒です




