第38話 補習
ストックが切れてきた
「くあ〜…。よく寝たぁ~」
授業終了のチャイムと同時に大きなあくびをするトオル
「また寝てたの?これじゃ成績落ちる一方だよ?」
隣で教科書類を整理する姫裡にビシッと言われる
「俺は土壇場で頑張るの!最近色々あって疲れてるんだよ」
はぁと深いため息をつく
「ため息つくと幸せ逃げるよ?」
「もう逃がしてあげられる幸せもないんだよ…」
最近本当に色々あって疲れている
土曜の勘違い戦争。
日曜のアシュヴィン双神襲来
そして月曜学校
(ほんと、疲れるんだよ…)
トールの代理になってからいいことがない
強いて言えば、アキちゃんと仲良くなったことだろうか
そういえば最近は全くトールの呼び出しがないな
いや、別に呼ばれたい訳じゃないんだけど
大事な睡眠時間削られるし
「はぁ…。最後の授業何だったっけ?」
「科学だよ」
「科学ってことは…。あいつか…」
「お前らー、席につけー」
天高くそびえ立つ、漆黒の角を煌めかせ、漆黒の白衣に身を包んだ金髪グラサンが、教室内に入ってくる
「じゃ、始めようか」
彼の名前は持月 慎太郎
科学担当の新米教師
(出たよクワガタ…)
最近生徒の間で噂となっているこのクワガタ
あの角で生徒を殺す気だとか
あの黒い白衣は、返り血がどす黒く変色したものだとか
目を見たものは石になるとか
ちょっと笑えるような噂があちらこちらで立っている
教室の空気もほかの授業よりどこかピリピリしている
クワガタは黒板に問題を書いている
「じゃぁ、この問題をだな…」
やば!当てるやつか!
スッと前の席のやつに隠れるように身を縮める
後ろの席の特権だ!
ほかの生徒も目をそらしたり、熱心に教科書を読んでるふりをしたりしている
「それじゃぁ…、岡本。解いてくれるか」
名簿を見ながら指名するクワガタ
なんだ、隠れる意味なかったじゃないか
ひとまず当てられなかったからいいか
あの問題わからないし
「先生、岡本さん休みです」
別の生徒が言う
「なら…、小鳥遊頼む」
「ファッ!?」
思わず変な声を出してしまった
そりゃ、寝る準備してたのにいきなり名前を呼ばれるんだもの
立つよう言われて、立ち上がる
「わ…、わかりません…」
しどろもどろに答える
なんか恥ずかしいよね、わかりませんって言うの
「うーむ、基本中の基本だぞ?テスト近いし、やばいんじゃないか?お前今日残って補習な」
クスクス笑われながらも椅子に座る
最悪だ
(よくも笑いやがって…。お前らもわかってなかったんじゃないか?)
ギロリと周りのやつを睨みつけると、四季崎さんと目が合った
ニコッと笑う四季崎さん
(……可愛い)
笑顔が見れてポーっとしていると、前から手紙が回ってきた
「ん?」
手紙には小鳥遊くんへと書いてある
何かと気になり、手紙を開ける
そこにな可愛らしい文字で
『勉強手伝おうか?by四季崎』
と書いてあった
四季崎さんを見る
こっちを見てにっこり笑っていた
すぐさま返事を返す
『お願いしまああああああああああああああああああああああああああああすすす!!!!』
…これはやりすぎか
いや、テンション上がっちゃってさぁ
荒ぶる文面を消しゴムで消す
『お願いします』
簡素な文でまとめる
これでよし
前のやつに言って、回してもらう
じーっと手紙の行く末を見守る
無事に四季崎さんまで回り、手紙を開けるのを確認する
すると、四季崎さんはこっちを向いてピースする
(…可愛い)
なんて可愛いんだ
こんな可愛い子に勉強教えてもらえるなんて
俺、もう死んでもいい
人生の最盛期だな
いつの間にか科学の授業も終わり、あっと言う間に掃除も終わる
ホームルームもすぐに終わり下校時間となる
(ふふふ…!早速今日から教えてもらえないかな~)
ニヤケながら、昇降口に向かう
途中で肩を掴まれた
「…どうした」
後ろには膝に手をついて、息切れしているディアナがいた
「ヤバイわよ…」
息を整えながら喋るディアナ
「何が?」
「シヴァが攫われたわ」
「……は?」
何を言ってるんだこいつ
攫われた?誰に?
「昨日の夜、会議が終わったあとに襲われたらしい。アフロディテがボロボロになって戻って来て、シヴァが攫われたって言ってたのよ」
「なんだよ…それ…」
一瞬の隙を突かれたのだろうか
いや、関係ないか
言っちゃ悪いが、人間派閥の最弱コンビだからな
隙を突かれてなくてもやられていたであろう
「シヴァはどこにいんだよ!」
思わず声を荒らげる
周りの生徒の注目を浴びる
「攫ったのは悪魔派閥。やつらから伝言があった。シヴァを返して欲しければ今日の18時までに教会に来いだって」
「んだよそれ…。もろに罠じゃねーか!」
露骨すぎる
敵はどれほどの力を持っているかわからない
きっと大人数で待ち構えてるであろう
自分たちは人数が少ない上に力も弱い
この誘いは無謀すぎる
でも、
「無謀でもあいつは仲間だ。仮にも仲間だ。助けに行く」
トオルは何の迷いもなく言う
こういうのは、俺が代理を嫌がってるのとはまた別の話になってくる
「何言ってんの?当たり前でしょ」
急ぐぞと声をかけ、シヴァの所へ走り出す
が、しかし…
「おーい!小鳥遊!どこ行くんだ!」
後ろから声をかけられる
振り返るとクワガタが小走りでやってきた
そういえば補習があったんだった…
「すいません先生!ちょっと用事ができたんで、今日は帰らせてください!」
こんな時に補習なんてやってられない
今は一刻も早くシヴァを…
「駄目だ」
「…え?いや、本当に急いでるんで!」
しつこいクワガタだ
もう喋っている時間がもったいない
無視して走り出す
ディアナはもう行ってしまった
「だから駄目だって〜」
背後から鋭い殺気
振り向くと、サブマシンガンを両手に抱えたクワガタが立っていた
(な…!!?)
ガガガガガガガガガガ!!
両手の銃を乱射するクワガタ
慌てて廊下を曲がる
窓が割れ、床や壁に穴が空く
不思議と生徒は、誰一人としていなかった
「俺は第四勢力のメンツだ。このまま行っても死ぬぞお前」
「そのための《補習》だ。始めるぞ」
トオルの周りに白い魔法陣が現れる
(転移魔法か!?)
白い光に包まれ、トオルは姿を消した