第35話 来客に来客
新章スタート!
今回はシヴァ編となっています
ちゃんと筋道考えてるから
もう、迷わない
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壊してしまった絆を取り戻す話
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『今回のゲストは今、話題の俳優、小鳥遊 秋人さんです!どうぞ!』
『どうも、小鳥遊です』
『今回、小鳥遊さんが出演する映画《あえてその裏をかく》は1000万部を超える大ヒットとなったもので…』
画面の中で話す司会者をボーッと見ながら、晩飯である冷凍ハンバーグを口に運ぶ
小鳥遊 秋人
母親が今、溺愛している俳優だ
俺も苗字が同じだし、意外に面白い人なので気に入っている
あぁ、そういえばあの後の事を言ってなかったな
あの後、俺達人間派閥は、無事にというかひとまず、天使派閥と同盟を組むことが決定した
第四勢力との誤解も解け、アキちゃんとは依然として仲がいいお隣さんである
重傷だったホルスはやることはやったと、聖戦から離脱することになった
ラーの身柄は天使派閥が押さえ、色々情報を聞き出すらしい
今回の事件の発端であるカオスは天使達にこっぴどく叱られたそうだ
ボーッと画面を眺めていると、画面がCMに切り替わる
シャンプーのCMだ
(あ、やべ。シャンプー買わなくちゃいけねーんだった)
シャンプーがきれていたことを思い出す
時計を見ると7時半を過ぎていた
近場にあるスーパーは8時で閉まってしまう
急げば間に合うだろう
残りのハンバーグを口に押し込み、テレビを消して財布を掴む
靴を履いて、扉を開けるところでチャイムが鳴った
(ん?)
扉を開けるとそこには、先程画面の中にいたはずの小鳥遊 秋人が立っていた
「こんばんわ。少しお邪魔してもいいかな」
「……」
ついさっきまで画面の中にいたはずの人間が目の前にいて、訳がわからず、硬直状態になるトオル
「じゃ、お邪魔しまーす」
トオルの間をスルリと抜けて部屋へ入る秋人
「え?あ、ちょ!」
慌てて靴を脱ぎ、秋人に続いて部屋へ戻るトオル
「はー、ここは相変わらず広いなぁ。少しボロいけど」
「あの、あなた俳優の小鳥遊 秋人さんですよね?」
「うん、そだよ」
「サインもらっていいですか?」
あたりに色紙が見当たらなかったのでとりあえず、ノートを差し出して言う
「うん、いいよ」
ついでにペンも渡して、サインをもらう
母さんに送ったらすごい喜びそうだな
今度送ってやろう
「ここも雰囲気全然変わんないねー」
「あの、なんでここに?」
もっともな疑問だ
人気俳優がこんな所に来るはずない
「俺さ、ここの元住人だったの。たまたま近くに来たから寄ってみたわけ。そしたら、同じ部屋に同じ小鳥遊ってあったからどんな人だろうと思ったわけ」
「なるほど、お茶持って来ますね」
トタトタと冷蔵庫に向かう
「管理人さんは元気?見当たらなかったけど」
「元気ですよ。年の割によく草抜きとかしてますし」
冷えた麦茶を置きながら答えるトオル
「君、名前はなんていうの?」
「透といいます」
「透…透……んー、君、ゲームとかする?」
「ネトゲをやってます」
「やっぱりか、アトラスオンラインってのをやってる?」
「はい、それです」
「名前はクリアだよね」
「そうですけど」
「おおぉ!すげぇ!君がクリアか!なんか冴えないなぁ!」
「冴えない…ですか…。アトラスオンラインやってるんですか?」
「いや、それはちょっと違うかな」
「といいますと?」
言ってる意味がわからず聞いてみると、秋人は自分を指差して言った
「僕、それの開発者。不知火 飛鳥」
想像を遥かに超えた答えが帰ってきた
「は?」
思わず間抜けな声が漏れる
「僕はアトラスオンラインの開発者、不知火 飛鳥だよ。ちなみにこれが本名で小鳥遊 秋人は芸名」
自分を指差してニコニコしたまま、淡々と話す小鳥遊 秋人改め、不知火 飛鳥
「くぁwせdrftgyふじこlp!!?」
思わず立ち上がり、飛鳥の手を握るトオル
「あなたがあの偉大なる不知火様ですか!?お会いできて光栄です!!」
人が変わったかのようにテンションが上がるトオル
まぁ、彼のアトラスオンラインに対する熱情の現れといったところだろう
開発者に対する敬意も尋常じゃない
「え、あ…、ありがとう」
「自分の名前を覚えていただいてるなんて感激の極みです!」
「え…まぁ、登録情報とか見てたから知ってたけど…」
なんか個人情報が危ういことになってるようなことを言っている気がするが、今は興奮してそれどころじゃない
もはや引かれる程のテンションだ
しかし自重しない
「この前のアプデは超すごかったですよね!!あれは本当にありがたかったです!マジ神アプデ!レベル上限が新たに解放さr」
狂ったようにアップデートのレビューを喋り出すトオル
既にメールで、文字数上限いっぱいまでレビューを書いているというのに
5分程続いたトオルのレビューを飛鳥はずっと苦笑いで聞いていた
「…いやー、本当に会えて嬉しいです」
ある程度テンションが落ち着いてきたトオル
「ところでトオル君。君は【アカシックレコード】って知ってるかい?」
飛鳥がトオルに尋ねる
「へ?いや、知りません。なんですかそれ。次のアプデの話ですか?」
「いや、気にしないでくれ」
そろそろ帰るとするよと立ち上がる飛鳥
「今日はお話できて楽しかったです!また近くに寄ったらいらしてください!」
トオルが軽くお辞儀する
「うん、暇な時にでも行くよ」
靴を履きながら答える飛鳥
「君のアイテムボックスに特別アイテムをプレゼントしておくよ」
人気俳優であり、アトラスオンラインの開発者である不知火 飛鳥は最後までトオルを興奮させて帰って行った
「いやー、まさか開発者様に会えるとはね」
ご満悦といった風にパソコンの前に座る
どんなアイテムが来るか待っとくか
パソコンを起動したところで再びチャイムが鳴る
「誰だ?」
小走りで玄関へと向かい、扉を開ける
そこには、
「会議だ」
「帰れ」
人間派閥の面々が立っていた
「入るぞ」
大群でトオルを押しのけ、部屋へ流れ込む
「ちょ!多いって!ディアナん家でいいじゃん!」
「アタシん家は駄目なの!狭いから」
「部屋の広さは全部同じだ!」
文句を垂れつつも、全員に無視される
既に部屋に入って、いつもの定位置に座っている
パソコン前の机に高橋が、テーブルの所にはアフロディテとシヴァとアヌビスが、そしてベットの上にはディアナが
トオルは部屋の入り口の所で立ったまま話している
「ん?八橋はいないのか?」
「あいつは用があるとかなんとかで当分の間いない」
高橋がご丁寧に答える
用事?一体なんだろうか
「あと、シャルヴィとレスクヴァ」
「あの2人は知らん。あいつらはただのお前の側近であって、人間派閥の正式なメンバーじゃないからな」
「それもそうだな…。で、こんな夜中に大人数で押しかけて…、こんな夜中…」
あることに気付いて、バッと時計を見るが、時既に遅し。スーパーが閉まる時間である8時はとうに過ぎていた
「シャンプーーー!!」
両手をついて、その場にうなだれるトオル
「何か知らないけど、ドンマイです!」
アフロディテがオロオロしながら励ましてくれる
やはり美の神、心の中まで美しい
「話を戻すぞ。わざわざ集まって何のようだ?」
「とある情報が入ってな」
こういうことは大抵高橋が答える
カミを通じて情報が入ってくるのだろうか
「カオスからの情報だ」
「天使派閥のリーダーであるミカエルが悪魔派閥の神数体を倒し、幹部であるマンモンに深手を負わせたようだ」
「うは…恐ろしいなミカエル。神は雑魚扱いかよ」
思わず身震いするトオル
ただの人間である自分じゃ、瞬殺されるかもしれない
「やはり同盟を組んでいてよかったな」
「それでどうなったの?」
ディアナが高橋に聞く
「それで悪魔派閥のリーダーがブチ切れて本気を出し始めたらしい、だから注意しとけって話だ」
「こえー…。…あ!そういえばささっきさぁ!」
トオルのテンションが再び上がってきたところでチャイムが鳴った
「いいところなのに」
渋々玄関へ行き扉を開ける
「どちら様ー?」
扉の前には高校生らしき男女の2人組が立っていた
緑色とセミロングの女の子と
場違い感が半端ない馬の被り物を被った男
「やっほー!しーちゃんいる?」
女の子の方が喋り出した
「は?し、しーちゃん?」
何を言ってるんだこの女の子は
「来てるはずなんだけどなー」
ブツブツと呟きながら勝手に部屋に入る女の子
「ちょ!おい!何勝手に…」
高橋達がいる部屋で叫ぶ女の子
「あ!しーちゃん!」
「ナーサ姉ちゃんじゃん!」
シヴァが反応して叫ぶ声が聞こえた
「ま、まさかシヴァのしーちゃんか?」
玄関から部屋の様子を伺おうとする
「こんな遅くにすんません。ウチの姉貴が行きたいって聞かなくて」
立っていた馬が軽く頭を下げる
「あ、いや、別にいいんですけども…」
元々背が高い上に、馬の被り物で、すごく身長が高く見える
頭を下げると、上から馬に襲われてるみたいで怖い
もうわかったから顔を上げて欲しい
「なら遠慮なく」
スルリとトオルの間を抜けて部屋へ入る
「さすがにこの人数は無理だ!」
全員を部屋から追い出し、全員で公園へと向かった