第29話 幸運の少年 ◆
コピー能力
それが俺こと八橋 翔太の能力だ
なんだそれ!チートか!とか思っている人、まぁ落ち着け
それがそんなに強いわけでもないんだよ
この能力でコピー出来るのは相手の能力じゃなくて、技だ
しかも最高で3つまでしかストック出来ない
さらにさらに、一度使ったら消える
コピーするにはその技を実際に目で見る必要がある
これはビデオとかでも問題ない
とまぁこんな感じにあんまり強くないんだよ
でも弱くても気に入っている
色々策を練ることが出来るからな
スリルを楽しめる
そういう考えて考えて戦うのが俺は好きなんだ
なんかこんな言い方したらどっかの戦闘狂の中二病みたいだな
(というわけで、今もスリルを楽しんでるわけだが)
目の前には第四勢力のメンバーが立っている
恐らく神だ
魔力が人間のものじゃない
「いったい何の神なのかな?」
ふざけた質問だが答えてくれたらだいぶ策の幅が広がる
神話は大体把握している
「俺は阿修羅だ」
阿修羅…
確か腕が六本くらいあるやつだったよな
「そんなこと聞いてどうする」
「どうもしないよっ!」
阿修羅に向かって走る
相手が阿修羅と知って確認したいことが1つ
やつの能力は多分腕が増えたりしてそれを操ることだろう
それでだ、確認したいのは
それが自分から生えたのを操るのか、それとも空間のどこにでも出せて操れるのかだ
後者なら少しめんどくさいが、前者なら対策が練れる
リーチもわかる
(身体能力には自信がある。回避は出来るはずだ)
すぐに阿修羅の目の前までたどり着く
阿修羅は動かない
(なら一発!)
大きく右手を振りかぶる
それと同時に顔に衝撃が走る
そのまま、走ってきた通りに吹き飛ばされ、体育館の壁に叩きつけられる
「痛っ…」
(何をされた?)
顔をさすりながら思う八橋
鼻血が出てきている
やつの能力は腕を増やして操るのじゃないのか?
衝撃波?
いや、今のは確実に"殴られた"
どうなっている?
阿修羅は動いていなかった
考えろ…
高速移動か何かだろうか
そんなことを考えている間にも
阿修羅は少しずつ八橋に近付いていた
どこまでがリーチかわからない以上、近づかせるのは得策ではない
「お前、俺に何をした?」
苦し紛れに近付くのをやめさせようとする
「言うと思うか?」
阿修羅は歩きながら答える
止まってはくれない
「お前も不憫だな。俺はお前の能力を知っているのに、お前は俺の能力を知ろうと必死だ」
カカカと馬鹿にしたように笑う阿修羅
「バーカ、何言ってんだよ。お前の能力はもうわかってんだよ」
もちろんハッタリだ
「へぇ、ならどんなのか言ってみろよ」
阿修羅は笑ったままだ
仮に知られても問題ないと言うように
「誰が言うか馬鹿」
そう言って立ち上がり、再び走り出す
そして同じく目の前で右手を振りかぶる
阿修羅も呆れたように鼻で笑う
(ここだ!)
スッと顔の前に左手を出す
出すと同時に左手に何かがぶつかる
そのままそれを握って後に引っ張る
阿修羅がバランスを崩し、八橋の方に引っ張られる
「しゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
振りかぶった拳を前によろけた阿修羅の顔面に振り抜く
見事に阿修羅の頬をぶち抜き、遠くまで吹き飛ぶ阿修羅
(予想が当たった…)
「お前の能力は見えない腕!リーチは普通の腕より少し長いくらいだろ」
倒れた阿修羅に向かって叫ぶ八橋
そしてあいつが余裕なのは
見えない腕だからだ
俺の能力は目で見たものしかコピー出来ない
だからあいつの能力はコピー出来ない
俺の今のストックは秘密兵器が1つ、ホルスに放った高橋の座標融解が1つの、合わせて2つだ
不意をついて座標融解を放つか?
あいつは俺の能力を知っていると言った
なら俺が座標融解をコピーしたことを知ってるんじゃないか?
俺の戦闘スタイルとしては相手を煽り、技を出させてそれをコピーしていくというものだが、今回は困った
コピー出来ない
むくりと起き上がりながら阿修羅は喋り出す
「俺の能力を知ったところで、お前は俺」
座標融解
もはやこいつを倒すには不意打ちのこれしかなかった
はずなんだが…
阿修羅には何の変化も見られなかった
溶かす予定だった顔もしっかりと残っている
「ど、どういう…」
「やっと使ったな」
阿修羅が切り出す
「お前がそれを使うのを待っていた。随分と焦らしてくれたな」
なんなんだ?
なんで溶けない
コピーミス?
いや、そんなのありえない
「なんで効かないのかって顔だな。教えてやろう」
「俺はさっきから体の表面を具現化した魔力の膜で覆っていた。大半の神ならこれくらい簡単にできる。いくら強くても温度を操作しているだけだ。魔力で用意に防御できる」
「そんなことできるのかよ…」
まずいことになった
俺の手持ちはあと1つ
ラストも本当にヤバイってときにしか使いたくない
もうこれをコピーできる機会はないだろうし
(困った)
「まぁ、魔力の膜もそんなに便利な物じゃない。消費量が半端ないからな」
さてと、と間を置き
阿修羅の雰囲気が一変する
「これで存分に拳に魔力を注げる」
ドッと地面を蹴り、八橋に向かって走る
「くっそ!」
八橋は背を向けて体育館の端に向かって走る
「馬鹿が!背中なんか向けて、殺されたいのか!」
阿修羅が見えない腕を伸ばす
しかし、それがわかっていたかのようにしゃがんでかわす八橋
そのままくるりとターンして、阿修羅に向かって拳を振るう
もう一本の見えない腕でガードしようとする阿修羅
だが衝撃が来ない
(寸止め!?)
八橋は腕が見えないはず、なのにどうして寸止めができるのか
八橋は止めた腕を引き、足を振り上げる
振り上げた足は見事に顎を捉え、阿修羅を真上に吹き飛ばす
宙へ上がり、落ち、地面に受け身なく叩きつけられる阿修羅
顎を蹴られ、脳が揺れて、意識が朦朧としているようだ
「見えない腕でコピー出来ない?だからなんだよ!俺にはその腕が"見えている"!」
意識は朦朧としてても、耳は聞こえているのか、阿修羅の顔が引き攣る
驚いているようだ
言っておくが、八橋は腕なんか見えてない
全てハッタリだ
背中を向けて逃げたのもわざと
敵の単調な攻撃を誘うため
背中を見せれば背中を狙うだろう
しゃがんで避けたのもまぐれ
大体このくらいでかわすと、勘でやってのけた
一歩間違えれば死んでいたかもしれない
寸止めもまぐれ
しゃがむのと同じように運が良かっただけ
運良く、阿修羅のガードに当たらなかっただけ
全ては計算などの問題ではない
八橋の戦闘センスと運の良さで阿修羅に一撃くらわせた
(うまくいってよかった…)
心の中で安堵する
「やってくれたな」
むくりと起き上がる阿修羅
その目は殺気で埋め尽くされていた
(復活速すぎだろ!)
パチンと阿修羅が指を鳴らすと、周りに武器が召喚された
剣2本、鎖、槍、そして胸元からサバイバルナイフを取り出した
まさかそれ全部持って闘う気か!?
優位な筈なのに焦り始める八橋
「言っておくが、お前のハッタリには気付いている」
あ、バレてるんだ…
一気にピンチとなる八橋
腕が見えていると思わせて、動揺させようと思ったのに
「そしてお前は俺の能力についてもわかりきってない」
「なに?」
「俺の能力は…」
そういいつつ
周りの武器が宙に浮く、見えない腕で拾い上げたようだ
その武器が、全て一斉に消える
「は!?」
まさか…
「俺の能力は触れているものを消す能力だ。今は姿を消している」
まーためんどくさい能力を…
しかも武器のチョイスがいやらしすぎる
接近戦のサバイバルナイフ、まぁこれは見えてる腕で持ってるから回避できる
問題は見えない腕
近距離の剣に、中距離の槍、そして遠距離+相手捕縛の鎖
たちが悪すぎる武器のチョイス
過去最大のピンチか?
うーん…
考える八橋
しかしこの状況は完全に詰んでいるわけで
(仕方ないなぁ。後はタイムアップを待つか)
みんなわかってないと思うけど
特にたゆー
こうなった大元はアキの勘違いだ。
たぶん今、アキと一緒にトールが飛ばされて説得してるだろ
一緒に飛ばされてなければ終わりだけどね
(今はひとまず、誤解が解けるまでか持ちこたえる)
最後のハッタリ
「じゃぁ、俺もストックのラスト。秘密兵器を使っちゃうよ」
ニヤリと笑う八橋
微妙にだが、ピクンと反応する阿修羅
仕込みは完了
後はどれだけ不安を煽るかだ
チラリと体育館倉庫を見る
そこにはアフロディテが顔を半分覗かせている
完全に忘れていた
(女の子の前だし、かっこつけなきゃな)
「倒させてもらうよ」
八橋は拳を握り走り出す