第28話 紫焔衝天
アヌビス編が
思ったよりだいぶ長くなってしまって
焦る
□■□〜業炎哨戒side〜□■□
気がつくと、青々とした芝が生えたグラウンドの上に立っていた
グラウンドの両側にはサッカーゴールが並んでいる
業炎哨戒こと高橋はそのグラウンドの真ん中に立っていた
そして少し先には先程、富永と名乗った男が立っている
「モブだな」
高橋は呟く
「誰がモブだ!お前の方がモブだい!」
富永もすかさず対抗する
紋章を発動して、しばらく経った
(そろそろか…)
封印しておいた力を解き放つ
業炎哨戒の更なる進化
温度操作を超えた超絶の力
「お前の負けは既に決まっている。俺の封印が解けたとき、それがお前の終わりだ」
額に手を当て、アクセサリーをチラつかせつつ、富永を指さす業炎哨戒
うん、誰が見ても中二病だな
だがこの中二病が力になる
念の為に説明しておこうか
彼、高橋 裕也の武器は虚栄の魔槍
その能力は思い込みを現実にするというもの
高橋の十八番である座標融解も虚栄の魔槍の力によって作り上げられた技である
今、彼の腕に光っている紫の紋章も、この虚栄の魔槍によるものだ
さらなる進化も封印も、高橋の単なる妄想
しかしその妄想も虚栄の魔槍さえあれば現実となる
彼はただの中二病患者ではなくなる
思い込みの強さがそのまま自身の強さとなる
細かい設定を作り込み、思い込みに思い込みを重ねた中二病である高橋と、虚栄の魔槍は相性抜群なのだ
だが、細かい設定ゆえ、
封印が解けるのも時間がかかるという無駄な縛りをつけてしまったりすることもあるわけだが…
「俺の役目はお前の足止め、お前を別のところに行かせないためだ」
聞いてもないことをペラペラ喋る富永
「黙れモブ、お前の役目など知る必要がない。それより、さっき座標融解は効かないとかなんとか言ってなかったか?」
そう、全ての元凶はこれだ
十八番である座標融解が二度も防がれたこと
そしてさらに、目の前のモブまで効かないとかほざく
「あぁ、言ったぞ。お前の能力は俺には効かない。封印だっけ?まぁなんか知らんが、どうなろうと、お前じゃ俺には勝てない」
富永はニヤッと笑って挑発する
(そういう能力か?)
「まぁ、死ね」
虚栄の魔槍を召喚する
座標融解発動
超高温による、必殺の、必中の一撃が富永の顔を溶かし尽くす
ことはなかった
業炎哨戒もさすがにイラつきを隠せない
「どんなトリックだ?」
「ハンッ!モブにそんなこと聞くなんてな」
おどけたように笑いながら再び挑発する富永
「フン、まぁお前がどれ程の力を持っていようとも、もう手遅れだ」
虚栄の魔槍を紋章がある腕を前に突き出す
ブワァっと紋章が腕を伝い、虚栄の魔槍に巻き付く
虚栄の魔槍の形状が変わる
なんの変哲もない、鉄パイプの先を尖らせたような虚栄の魔槍が、紋章の力によって加工され、変形する
高橋の足元に巨大な紫の魔法陣が現れる
紫に鈍く光る魔法陣は高橋を包み込み激しく光る
「これが俺の新しい力だ」
光が収まっていき、徐々に高橋の姿が見えてくる
「俺はもう業炎哨戒ではない。俺は…」
高橋の姿がいよいよ明らかになる
さて、どれ程の中二病なのか
「俺は紫焔衝天だ」
黒のファーコートに、形状変化した虚栄の魔槍を片手に、紫焔衝天はそこに佇んでいた
中二病度は下がったように見える
そんなバカな
「何か変わったか?」
富永が言う
確かに変わったところといえば服装だけみたいだ
特に魔力も変わった様子もないし…
「一般人にはわからんだろうな。」
「いや、お前も一般人だろ」
フン、と鼻で笑う高橋
高橋自体の中二病は激しくなったようだ
「思い知るがいい、俺の真の力を…」
ファーコートのファーに紫の焔が灯る
「死ね」
虚栄の魔槍の先端に紫の焔を灯し、横に振る
紫の焔が飛び出し、富永に向かって直進する
「うわっ!?」
予想してなかった攻撃に慌てて避ける富永
紫の衝撃波は、富永がいた所ではじけ飛び、"空中を燃やし始めた"
「はぁ!?どうなってんだ!?」
ありえないことに驚く富永
「俺の焔の力は次元断絶。次元を燃焼させる力だ」
そう言いつつ再び槍を振って焔を飛ばす
富永は横に飛んで回避する
紫焔衝天の新たな力は紫の焔に、紫焔の衣、新たな虚栄の魔槍
紫の焔の能力は次元断絶。断絶となってるが実際は燃焼。次元を燃やしているのである
まぁ、そこらへんは中二病的にも断絶の方がかっこよく感じるだけなのだろう
紫焔の衣の能力は魔力精製と完全防御
これはそのまんまだ
虚栄の魔槍は能力の発動の自由度が上がった
というよりも、形が中二病的にかっこよくなったので、高橋の妄想の幅が広がったというべきか
ただ包帯を外しただけでここまで能力が強化されるのだ
虚栄の魔槍がどれほど強いのか明確になっただろう
「もう俺に勝てるやつは存在しない!」
よっぽど気にいった能力なのか、さっきから笑い続けている高橋
「何言ってんだ。俺はお前に勝てるぜ」
富永が言う
「勝てないわけじゃない」
高橋に向かって走り出す富永
直進しても紫焔衝天の焔に焼かれるだけだ
案の定、紫焔衝天は焔を飛ばす
そして向かってくる富永の目の前で…
消滅した
綺麗さっぱり消えた
「なに!?」
驚く高橋に構わず、高橋の目の前にまで迫る富永
だが紫焔衝天は焦らない
彼には紫焔の衣があるからだ
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
高橋の鳩尾を殴りつける
が、後ろに吹き飛ぶだけでダメージは与えられない
軽く後ろに吹き飛び、体勢を立て直そうとする紫焔衝天
だが違和感があった
右腕が軽い
見てみると右腕が消えていた
紫焔衝天はこの現象をよく知っている
「…座標融解か」
「正解。今のはお前の座標融解だよ。でも使ったのは俺」
へらっとした感じで説明する富永
(こいつ、八橋系の能力か?)
「それじゃ、進化したかなんか知らないけど、こっからは俺のターンだ」
富永が拳を握る