第23話 救われなかった話 後編
聖戦中、俺は助けられるばかりだった
格闘術は出来るし、囮くらいにはなれるつもりだった
しかしイシスも、ホルスも、ラーも、誰一人俺を戦わせようとしなかった
三人に守られるような形で、ただ、戦っているのを見るだけ
前と何ら変わらない
ただ見て、憧れるだけ
イシスに置いていかれる、
イシスが遠くに行ってしまうようだった
…ようだった?違う
イシスは遠くへ行ってしまった
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聖戦は悪魔派閥の勝ちで終わった
生き残れた上に勝てた
喜ぶべきなのだろうが、喜べない
嬉しくない
俺は一体何がしたかった
何をした
何もできなかった
聖戦が終わっても、悪魔達は自分らの派閥の神を率いて、天使派閥だった神を潰し始めた
一部の悪魔派閥の神はこれは不味いんじゃないかとざわつき始める
止めた方がいいんじゃないか?
だが誰一人として行動に移さない
当たり前だ
悪魔達とは、強さの格が違うのだから
俺はこれをチャンスとみた
悪魔の隙を突く
悪魔を倒して皆を救う!!
□■□■□■□
悪魔達はギリシャの神々の殲滅を始めた
総指揮は、怠惰を司る悪魔
ベルフェゴール
こいつを狙う
神で構成された軍はベルフェゴールの合図で、突撃を始めた
ベルフェゴールは一番後ろにいる
俺は後列で他の神に紛れながら、少しずつベルフェゴールに近づく
もう少し、もう少し…
最後尾まで来た
「俺もそろそろ出るか」
ベルフェゴールは翼を開き、飛び立とうとする
いまだ
くるりと振り返り翼に剣を突き立てる
が
「さっきからお前、何やってんだ??」
気づかれていた
首を締められ、息が出来ない
しくじった
首を締める力が強くなる
「何するつもりだった?」
「ぐ…あ……」
意識が朦朧とし始める
その時だった
「アヌビス!!?」
突如ベルフェゴールを炎が襲う
ベルフェゴールはアヌビスを投げ捨て空へ舞い上がる
「アヌビス!!大丈夫!!?」
アヌビスに駆け寄り、涙目で叫ぶのは
イシスだった
さっきの魔法もイシスのか
イシスの後ろにはホルスとラーもいた
また、たすけられた
その事実に腹が立つ
イシスを押しのける
「お前の助けはもういらねぇ!俺だって戦えんだよ!!」
ヨロヨロと走り出す
「アヌビス!待っ…」
イシスの声が途切れた
あれ?と思って振り返ると
胸から剣が突き出て、そこから血を吹き出しているイシスが立っていた
剣が抜かれ、ゆっくりと倒れるイシス
後ろには血まみれの剣を持つラーが立っていた
何が起きている?
頭が真っ白になった
ゆっくりと引きずるように、倒れたイシスに向かって歩く
靴が真っ赤な血で濡れる
崩れるようにイシスの横に座り込む
「…イシス?おい、起きろ」
イシスを揺らすが反応がない
イシスの体は冷たくなっていく
両手は血に染まっていた
それを見て俺は
壊れた
俺だって戦える
イシスに言った最後の言葉
それは誰かを救いたい、助けたい、そう思って言ったはず
が、本当は違う
あれはただ、自分が満足したいだけだったのだ
誰かを救ってありがとうと言ってもらいたかった
俺も誰かの役に立てると知って欲しかった
ただのエゴだ
ただの?
それじゃイシスはただのエゴで死んだのか?
イシスは強い
仲間であるラーの不意打ちだろうと、防ぐことが出来たはずだ
でも、俺があんなことを言ったから
イシスにあんなことを言ったから…
あんなこと?
ふざけるなよ自分
お前が言ったことのせいでイシスは死んで、それがイシスへの最後の言葉になったんだぞ
『好き』と伝えることも出来なかったんだぞ?
後悔
後悔後悔
後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔
俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい
イシスが死んだ
俺のせいで
頭の中と目の前が真っ赤に染まった
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気がつくと血まみれのホルスが目の前に立っていた
「…落ち着け」
それだけ呟いて倒れた
ほるすもしぬのか?
おれはやっぱりだれもすくえないのか?
おいだれかおしえてくれよ
おれをひとりにしないでくれ
だれか、
おれを
俺を救ってくれ
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俺の元に第三回目の聖戦が行われるとの知らせが届いた
俺は学んだ
俺には誰も、何も救えない
だが
俺のせいで死んだイシスだけは
たとえ死んでも取り戻す
そうして俺は聖戦に参加した
ここで過去編終了となります
次は挿絵付きで投稿しますー(・∀・)