第21話 ホルス
今日は最悪の目覚めだった
昨日はアヌビスの言葉が気になって眠れなかったし、朝はディアナに蹴られて起こされたし、その他にも色々なことが重なって、朝っぱらからテンションはドン底
「はぁー……」
深い深いため息をつくトオル
「どうしたトオル!元気ないぞ!大丈夫か!」
テンションが低いトオルとは対照的に、朝からテンションMAXの姫裡
この騒がしいのも今日だけはトオルをイライラさせるだけだ
「すまん姫裡。少し黙ってくれ」
「おや、ガチトーンだね。ほんとに大丈夫?」
「少し寝不足なだけだ」
目を擦りながら言うトオル
「わ、悪かったわよ。蹴って起こして…」
ディアナもトオルのテンションを見て、慌ててに謝る
「いや、それはいいんだよ」
今日は真広はサッカーの朝練でいない
もうすぐ学校に着く
□■□■□■□
その日の授業は全く頭に入ってこなかった
まぁ、入ってこないのは普通なのだがいつもは取るはずの、ノートすら取らなかった
ただボーっとアヌビスの言葉について考えていた
今は放課後、帰宅中だ
ディアナは今日もまた、友達と遊びに行っている
トオルは一人で歩いている
さざなみ荘が見えてきた
前に人影が見えた
あれは…
アヌビスのようだ
あの圧倒的負のオーラは、まさしくアヌビス
(……聞いてみるか…?)
あの言葉の意味を聞こうと駆け出し、声をかけようとするが
アヌビスはさざなみ荘を通り越し、スタスタと歩き続ける
(あれ?部屋に戻らないのか?)
疑問に思うトオル
と、アヌビスが溝に何かを投げ捨てた
そして角を曲がる
トオルは捨てられたものが何か気になって、見に行った
見てみるとグシャグシャに丸められた紙のようだ
広げると文章が書いてあった
『北の廃工場に一人で来い』
そして最後には何を暗示しているのか隼の刻印がしてあった
「なんだこれ…」
すぐに角を曲がるとアヌビスの姿は消えていた
トオルは廃工場へ向かって走り出した
□■□少し前の【アヌビス】□■□
学校が終わり、さっさと帰ろうとするアヌビス
下駄箱を開けると手紙が入っていた
(なんだ?)
手紙を手に取り、開けてみると
『北の廃工場に一人で来い』
そう書かれていて、最後に隼の刻印が刻まれていた
俺はこの刻印を知っている
「やっぱり止めに来たか……ホルス」
【ホルス】
隼の頭を持つとされるエジプトの天空神
エジプト神話の実質最強だろう
「勝てないのは分かってるんだが」
手紙をグシャッと丸めてポケットに入れる
「これはけじめだ」
靴を履き、歩き出す
廃工場へ、ホルスと決着をつけるために
□■□今の【アヌビス】□■□
廃工場に着いた
錆び付いた扉を開けると
中には
最近、人気がある子供向け番組
[ブチ抜け!ひよこちゃん!]のキャラクター、ひよちゃんのお面を被り、真っ黒なスーツを着込んだ男が立っていた
「そのお面、隼じゃなくてひよこだぞ【ホルス】」
「知っている」
お面を被ったこの男こそ、エジプト神話の天空神、【ホルス】である
「早速だが、アヌビス。お前には聖戦から消えてもらう」
ホルスが構える
「やっぱりそうくるか…」
構えるホルスに対して棒立ちのまま喋るアヌビス
「俺は俺の目的を果たすまで戦い続ける」
キッとホルスを睨みつける
「わかんねぇやつだな!!!!」
ホルスが叫び右手に炎を作り出し、アヌビスに投げつける
3m以上の大きさの炎の玉はアヌビスを貫き、廃工場を火の海に変える
しかし、アヌビスは無傷だった
右手にはアンクを握っている
「俺はイシスを生き返らせる!!」
アヌビスがホルスに叫ぶ
「本当にわかんねぇやつだな!イシスは死んだ!もう生き返ることもない!諦めろ!」
ホルスは叫んで再び火の玉をアヌビスへぶつける
しかしアヌビスは無傷
「諦めろだと?それだけはお前に言われたくねぇよ!それ程の力を持っていたのに!なぜ何もできなかった!!」
アヌビスがホルスに向かって走り出す
「自分が助けられなかったことを他人のせいにするな!自分の無力さを実感しろ!お前はもう誰も救えない!!!」
ホルスに向かってアンクを振り下ろすが、軽々とかわされ炎を纏った拳を顔面に喰らう
吹き飛ばされ鉄骨の柱に背中から叩きつけられるアヌビス
「ガッ…ゲホッ……」
「もう一度聞くぞ。聖戦から降りろ!アヌビス!お前はこれ以上間違うな!」
そう叫び、廃工場いっぱいの火の玉を作り出すホルス
「俺は…イシスを……」
倒れたアヌビスはよろよろと起き上がってホルスを睨む
「そうか、なら消えてもらうぞ!!」
炎の玉が放たれる瞬間
白い閃光が炎の玉を貫いた
炎の玉は空中で飛び散りバラバラと燃え尽きた
「ハァ…ハァ……大丈夫か!アヌビス!」
廃工場の扉には息を切らしたトオルが立っていた
「お前は確か、代理の…」
「ちょ!それは言うな!」
トオルは慌てて雷をホルスに放つ
雷をギリギリでよけるホルス
「アヌビス、お前は間違っている。あの日、あの瞬間から」
アヌビスを見て呟く
「俺は第四勢力の【ホルス】!近いうちに俺達が、お前ら人間派閥を潰しに行く!覚悟しておけ!!」
そう叫んで、ホルスは炎と共に消えた
「大丈夫か!?アヌビス」
すぐにアヌビスに駆け寄るトオル
「俺は大丈夫だ」
そう言ってよろよろと歩いていってしまった
トオルはアヌビスに声をかけようとしたが出来なかった
ある疑問でトオルは頭がいっぱいだったからだ
なぜ、アヌビスは無傷なのだろうか