第19話 第四勢力
19話
【報告】
可愛くない女の子と可愛い女の子が両隣に引っ越してきた
報告終わり
このまま立ったまま話すのもあれだということで
アキはトオルの部屋にお邪魔することにした
「じゃ、入って入ってー」
敵か味方もわからないようなやつを家に入れるなんて、狂気の沙汰と思うだろうが、礼儀正しい子に悪い子はいないと信じる
「お、お邪魔します」
靴をきちんと並べて部屋に入る
(できた子だ…)
テーブルの前できちんと正座で座るアキ
「で、何の用?」
麦茶を出しながら質問するトオル
「あ、ありがとうございます」
ペコリと軽いお辞儀をして麦茶を飲む
(できた子だ…)
「用事は特にありません。本当はお菓子を渡して帰るつもりだったのです」
「え!あ、そうなの…」
(なんか女の子を拉致った気分…)
「色々聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「答えられる範囲なら」
ニッコリ微笑むアキ
守りたい、この笑顔
ロリコンの気持ちがわかるような…
って何考えてんだ俺!
どこかで誰かがくしゃみしたようだ(○橋)
「一つ目、なぜ隣に?」
「たまたまです」
「二つ目、歳いくつ?」
「14です」
「三つ目、その格好なに?」
「動きやすいからこれです」
「四つ目、アキちゃんって呼んでいい?」
「構いませんよ」
……
「こっからが本番。」
トオルは真剣な顔になる
「はい、わかってます」
アキも少し真剣な顔になる
「一つ目、アキちゃんは神なのか?」
「秘密です」
「二つ目、どこの派閥だ?」
「あ、その話ですね。それはこちらからしようと思ってたんですよ」
「???」
「私達は本来ある三つの派閥とは違う、第四勢力です」
「四つ目の派閥?そんなのは聞いてないぞ?」
「はい、確かにそうでしょう。私達はあなたたち人間派閥と同様に、今回の聖戦に無理矢理参加したものですから」
アキが淡々と説明する
「何のために…?」
「あ、その話ですね。といいますか忘れてました。今日はそのお願いをしに来たのでした」
「???」
トオルにはアキが何を言っているのか理解できない
「私達、第四勢力の目的は聖戦を終わらせることです」
「なんでまたそんなことを?」
「えっと、それはですね。聖戦は世界を破滅させかねない危ないものだからです」
「そうなのか?」
「神々が戦い、殺し合う。そして勝者は敗者を支配する。前回の聖戦の場は天界でした。聖戦の結果、悪魔側が勝利し、天界は半分が消滅していました」
「え……」
あまりに壮大すぎる話に息を呑むことしか出来ないトオル
「その後、悪魔は天使の魔力を全て奪い、更に天界をズタボロになるまで攻撃しました。それだけではおさまらず、天使側の神の生き残りを、殺し始めました」
「ひでぇ…」
グッと拳を握るトオル
「え、何言ってるんですか?」
「何って……!?」
アキを見ると顔からは笑顔が消え、トオルを睨むようにして見ていた
「この話は前回の聖戦に参加していた【雷神トール】なら知っているはずですよ?」
「ッ!!!?」
忘れていた…
自分が雷神トールの代理をしているということを
「やっぱり報告通りでしたか」
気がつくとアキは普通の表情に戻っていた
というか何か勝ち誇ったような…
「これで人間派閥の、いや、雷神トールの弱みは握れました」
「な!」
「弱みを握った上でのお願いです」
「な、なんだ…」
これはマズイ、かなりマズイ
俺がトールじゃないとバレたら…
考えるだけ恐ろしい
特にディアナ
アキは少しの間をおいて話し出す
「聖戦を辞退して下さい」
衝撃の一言だった
「え…」
「代理とはいえ、雷神トールの力は強大です」
「ちょっと待て!俺はトールの力をもらった覚えはないぞ!」
「現にあなたはアスモデウスを幻覚とはいえズタボロにしたじゃないですか」
「それは…」
「前回の聖戦、雷神トールがどちらの派閥にいたかご存じですか?雷神トールは悪魔派閥の一員として多くの神を葬っています」
「え…」
「聞いていないようですね。彼の力は悪魔に匹敵するほどのものです。だから《小鳥遊 透》さん。この聖戦から手を引いて下さい」
「……」
どれくらい時間が経っただろうか
長い沈黙の中、トオルは答えを出す
「今、アキちゃんは小鳥遊 透にお願いしたよな」
「そうですね」
「なら答えは決まってる」
息を吸い込み、トオルは決断する
「俺はトオルであってトールじゃない!」
「《何度もいうが俺は雷神トールじゃない》んだよ!」
久しぶりのこのセリフ
最初はこればっかり言っていたな
「俺は俺のため聖戦に参加する。引き下がるわけにはいかない」
トオルはアキをしっかりと見据える
アキは大きなため息をついた
「まぁ、こうなることは予想できたんですけど。やっぱり引いてくれませんか」
アキはとても残念そうな顔をしている
「あなたとは戦いたくなかったのですが、仕方ありません」
アキが立ち上がると同時に身構えるトオル
「今は上に申請している途中なので無理ですがいずれ敵となる日が来るでしょう」
今日は帰りますと玄関まで行くアキ
「俺は敵対するつもりはない。協力は惜しまないつもりだ」
トオルが靴を履いているアキに言う
「それはそれでありがたいです。では、お邪魔しました」
アキは隣の部屋に帰って行った
何度も言うが俺は雷神トールじゃない、か…
このセリフを言う時はまた来るのだろうか
代理は引き受けると決めたのだが
また言う日が来そうだ