10.5話 業炎哨戒の奮闘記
「ふむ」
業炎哨戒、高橋 裕也は自分で創り出した妄想の世界で声を漏らす
彼の能力で創り出された何も無い真っ白なこの空間は【ウルラモスの次元の狭間】
彼は アルクスガウスの魔道書の四十二章、エウローラの転移魔法によりここへ転送されたのである
説明する必要もないだろうがこの転移魔法も彼の妄想の産物である
高橋が勝手に思い込み、勝手に転移されただけなのだ
「中々めんどくさい所に飛ばしてくれたものだな」
妄想中二病はため息を漏らす
「アスモデウスの事も気になることだし、急いで抜け出すか」
そう呟いて
全ての元凶である虚栄の魔槍を召喚する
高橋が虚栄の魔槍を軽く振ると彼の足元には直径1m程の魔法陣が現れる
(転移まで少し時間がかかるな…しかし変だな)
重い中二病である彼は次元の狭間が何もない平和な場所とは考えてないらしい
いらない妄想が現実となる
(ウルラモスには強力な番人が居ると聞いたのだが)
ーーーーーーーーズン
高橋の後ろで地響きが聞こえる
振り返ると真っ赤な騎士が立っていた
大きさは3m程で右手に大きな縦長い盾、左手には4m程の大剣が握られている
「お前が噂の番人か」
返事は無い
紅の番人は歩いて高橋に近づいていく
「転移魔法の準備をしているのだ。邪魔をするな」
だがそんなことなど知った事かと言わんばかりに紅の番人は大剣を振り上げる
自分の妄想と戦うなんてなんとも滑稽な話だ
番人なんて本来存在しない
この次元の狭間自体が存在しないのだから
紅の番人は高橋向けて大剣を振り下ろす
しかし軽々と高橋はそれを避ける
「遅いな」
高橋…
いや、今は業炎哨戒と呼ぶべきか
業炎哨戒は虚栄の魔槍の切っ先を番人に向ける
座標融解
彼の最も得意とする百発百中であり一撃必殺の温度操作による攻撃
その攻撃を紅の番人に向けて放つ
しかし
番人に変化は無い
(?)
確かに攻撃は行われたはず
なのに紅の番人は無傷で立っている
番人は縦長い盾を振り回す
業炎哨戒は横っ腹に盾をくらい、たまらず吹き飛ぶ
50m程吹き飛び地面に叩きつけられる
業炎哨戒を追いかけて番人が走って来る
朦朧とする意識の中無理に体を起こす
(なぜ傷が回復しない?それよりなぜ座標融解が効かないんだ?)
思い込むだけで妄想の番人は強さを増す
妄想は更なる妄想で強化される
(そういえばウルラモスの番人には能力無効化の力があったんだっけか)
走りながら紅の番人は大剣を大きく振りかぶる
「だが、俺には余り関係無い事だ」
業炎哨戒は振り抜かれた大剣を片手で受け止める
番人が力を入れてもピクリとも動かない
「おかしいと思うのか?なぜ止められるのかと。理由は簡単」
大剣を握力のみで砕き不敵に笑う
「俺が強いから」
業炎哨戒の横に紫色の魔法陣が展開される
そこから大きな黒い狼が現れる
「お前にはこいつで十分だ」
黒い狼の真っ赤な瞳が番人を捉える
「喰い散らせ」
合図と同時に狼は番人に襲いかかる
慌てて番人は盾を構えるが簡単に叩き潰され、兜を思い切り喰いちぎられる
ズズンと番人は倒れ伏し、ピクリとも動かない
いつの間にか狼は消えていた
「案外弱かったな」
業炎哨戒はがっかりしてため息をつく
「準備も整ったことだし、あいつら助けに行くか」
虚栄の魔槍を構えながらそっと呟く
「英雄は遅れて現れるもんだ」
白い魔法陣と共に業炎哨戒、高橋は姿を消した
虚栄の魔槍について
基本は全長2m、重さ10kg
鉄パイプの先が尖ったような簡素なデザインで色は銀、能力発動時に黒く染まる
能力は思い込みを現実にするというもの
この能力は主に自分にしか作用されず
相手に直接影響が出る思い込みは反映されない
従って、
【相手の能力値を全て下げる】
などの思い込みは反映されない
【相手に触れたら能力値を下げる】
など、自分の能力として思い込み、それで相手をどうにかするしかない
そして虚栄の魔槍の使用者を選別する事にもなる、この能力の最重要項目は《思い込みの強さ》である
その気になれば【触れるだけで相手を殺せる】などの思い込みも実現するがそれ相応の思い込みが必要である
そして、
武器強化、武器の召喚や、精霊の召喚などの自分自身に関する思い込み以外はかなりの妄想を必要とする