彼女の焦り
戦闘が始まって一時間は経過したか。
キスティは、相手の術中に嵌っていることを自覚した。
だからといって退く訳にはいかなかった。中島健司と悪魔。あのコンビは、危険極まりない。たった一週間前はただの素人と雑魚悪魔のコンビだった。なのについさっきは精神防壁でぎりぎり防ぎきれるかどうかの攻撃を加えてきて、そして今現在、キスティと確かに渡り合っている。
健司は戦闘能力などほとんど使っていない。
ただ、すべての攻撃をダミーに受けさせることで、キスティの精神的疲労を誘っているだけだ。
弄ばれている、という思考に支配されそうになる。それこそ中島健司の作戦なのかもしれない。そう思い、キスティは勇気を震わせる。
キスティは考える。ここで中島健司を逃したら、いったいこの世はどうなってしまうだろうか、と。健司が望めば、人は簡単に命を捧げる行為に出るだろう。それがあの悪魔の力だ。人を唆せて、堕落させる強烈な力。まさか、と思う。だが、おそらくは、敵の正体は。
では、目的はなんだ――?
ここで、キスティの思考に迷いが入る。精神防壁に、わずかながらヒビが入ったことを感覚する。
意識を切り替えねばならない。キスティが自身に仕掛けた精神防壁のタイムリミットは、あと4時間を切っている。日の出の直前になるように、夕方、中島健司と出会って施術したときから十二時間。それ以上はキスティの精神にとっても危険だった。
そして、キスティの誤算。度重なる言葉に魔力を載せた精神攻撃に、防壁が攻撃され、タイムリミットは更に短くなっている。日の出までは確実に持たない。それまでに勝負を決めなければ、中島健司を殺さなければ、キスティにとって敗北である。
敗北したからといって、命を取られるわけではない、などという考えが、既に敵の罠なのだ。負けたらどうなるのか、ではない。勝って、殺さなければならない勝負。そしてそのための精神防壁。
キスティは魔力を放出し、中島健司と同じ顔をした守護天使を延々と殺し続けながら、感覚を研ぎ澄ませていった。