再戦! 精神攻撃?
決戦の時間は訪れた。
舞台は再び雑木林。
悪魔の気で充満しており、それが撹乱幕として機能している。
「やはりここを選びましたか。悪魔使いとして少しは矜持というものを持ち合わせていますのね」
キスティにとって、場所は何処でも、それこそ街中でも問題はなかった。ただ、目撃者の処理が面倒なだけだ。
キスティはバックアップ要員の手配までしていた。目撃者を作らないための方策だ。
林の周囲をバックアップ要員に見張らせて、雑木林に踏み込む人間はキスティただひとりだ。
踏み込んですぐ、違和感に気付く。
空気が、異常なまでに清浄だった。神気。天使のように、完全に聖なる者にしか創りだし得ない空間があった。
そこに、学生服を着た、健司のような人影が立っていた。
「争いは何も産みませんよ。中島健司は貴女の敵ではありません。むしろ味方です」
悪魔の力によって増幅された言葉がキスティに襲いかかる。だが、軽く抵抗された。
「リリエル!」
キスティが使役する天使の一人を呼び出し、光弾で攻撃する。中島健司の変わり身となった守護天使は、あっさり弾け飛んだ。
しかし程なくして、まったく同じ格好をした守護天使が現れる。
「なぜ攻撃するのです? 中島健司はあなたの友達でこそあれ、敵対者にはなりませんよ」
「うるさい!」
笑顔のまま、守護天使はまたも光弾によって消滅する。
だが、同じことの繰り返しだった。
「本当に本当のことなんですけど、どうやったら信じてくれるんでしょうねえ。中島健司はあなたの友達。あなたの友達。あなたの友達」
「私に友達など、いない! いらない!」
守護天使が弾け飛ぶ。
「マスター、あいつも友達いないんだってさ。なんか仲良くなれそうじゃねえの?」
「だとしたら嬉しいね。いやあ、それにしてもこんな歳になって友達が誰もいないなんて、可哀想だなあ」
「ご主人様にだけは言われたくないと思いますけどね。では、また行ってきまーす」
少しだけ離れた所で、健司と悪魔はその戦いを見守っていた。
守護天使が消滅するごとに健司から毛を一本抜き、それに形をもたせて、服を着せて話しかける。
今やっていることはただそれだけだ。
消滅、再生、早着替え。込める力は最小限に抑えているので、魔力の消費も少ない。
風船を割り続けさせているようなものだ。
「それにしても、なんか舞台裏ってこんな感じなのかなあ。役者の人とか、大変そうだなあ」
「ずっと舞台に立ち続ける人よか楽なんじゃねえの? おー、よく散るもんだ。痛くないのかね、あれ」
「痛みなんて余計な機能つけたら魔力消費しちゃうから、ほんとうに形作ってるだけだよ」
「いやあ、それにしても相手にとっては悪夢だろうなあ。同じ顔が同じ格好で、殺しても殺しても延々と出てくるんだから」
「じゃあお二人とも、また行ってきまーす」
「おーう。頑張れよー」
「思ったより効いてるなあ。根がいい人なんだろうな。これは結構いけるかもしれないぞ」
「ていうかそのうち服が無くなってしまうんだが、どうするよ」
「完全になくなったら第二フェイズだね」
「こちらには友達になる準備があります。敵になる準備は心の準備すらできてないので勘弁して欲しいです。かしこ」
「黙れッ!」
守護天使は弾け飛んだ。