彼女の空回り
同時刻。健司の通う学校に、女が訪れていた。
健司を襲った女だ。
名をキスティ・リンドブルム。十六歳の若さにして、キスティ・ザ・サードとしてその名を界隈に轟かせている悪魔使いだ。
とある魔術結社の党首の孫娘でもある。
キスティは頭の中で、健司に受けた借りをどう返すか考えていた。
パンツを見られたことを筆頭に、苦い感情が蘇る。
キスティの人生には、危機に陥った経験や苦難を強いられた経験は数え切れないほどある。だが、前日のような、ミスにミスを重ねた上に、相手にコケにされた、という経験はない。
油断。慢心。それはあった。そこを突かれた。そのこと自体は、見事と認めざるをえないという思いがキスティにはある。
出会ったら、なんと言おうか。
名前は既に掴んでいた。魔力探知により住処を特定し、人を使って身辺を調べさせた。
さすがに家に直接飛び込む訳にはいかない。相手は素人同然とはいえ悪魔使い。悪魔使いの家は、一種の要塞のようなものだ。どのようなトラップが仕掛けてあるか分からない。
だからキスティは、魔術を使って認識をずらす暗示を周囲にかけ、転入生として健司のクラスに潜りこむことにした。
あくまでも接触が要件、別に切った張ったをする必要はない。穏便に済ませるための策でもあった。
一発くらい殴りたい、という思いはあったが、それはそれである。
だが、その日、健司は学校に訪れなかった。
同級生たちの好奇の視線、不必要な会話を受け流しながら、キスティは悟った。健司は今日、学校に来ない。
昨日の今日で警戒しているのか。
少しは頭が回る男なのか、と、またひとつ相手を認めた。