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敵が美少女で味方が悪魔

一部宗教色が強かったり、露骨に宗教ネタだったりするかもしれません

 雑木林の中を二人の男が全力疾走していた。

 片方が口を開く。息も絶え絶えだが、言わなければやってられない、というふうに。


「僕はさあ、ただ友達が欲しかっただけなんだよ」


 もう一方が涼しげに答える。走りながらも、表情は張り付いたような笑顔だ。今のこの状況が楽しくて仕方ないといった様子。


「ああ、いいんじゃないか? 友達。いたら楽しいだろうな。きっと毎日バラ色さ」


 二人の背後から爆音。敵の砲撃だ。二人は追われていた。追われながら会話する。


「だからお前を喚び出したんだ。わかるか? わかるよな?」

「おうともさ、兄弟。確かに俺はお前に友達を作るためにここにいるんだぜ。ついでにいうと俺はもうお前の友達気分だぜ」


 二人の近くで何かが炸裂する。転げるように身をかわして、なんとか無傷のまま走り続ける。足を止めたら命がない、そんな状況。


「じゃあ、一つ聞いてもいいかな!」

「おう、何でも聞け! 俺は絶対に嘘はつかねえぜ!」

「なんで僕、こんな危ない目にあってんだよ! ドッカンドッカン爆発してるあれはなんなんだよ!」


「二つ聞いてるじゃねえか! まあいい、答えてやるよ! そりゃあ、俺が悪魔で、お前が悪魔使いで、あいつが退魔師とかご同業とかそういうのだからだろ! 爆発してるのは魔力とかそういうアレだよ、アレ!」


「じゃあ、お前の力で何とかできないのかよ、悪魔!」

「認識阻害だの身体向上だの、俺にできることは全部やってるよ! 今まだ生きているのは俺のおかげだぜ、感謝しな!」

「ああ、ありがとうよチクショウ! 狙われてるのはお前がいるからだけどな! この悪魔野郎!」

「お前が俺を喚んだんだろうが、こんの人間野郎! ていうかお前のマスターとしての力が少なすぎてできることに限りがあんだよ!」


「こんなことになるなんて思っても見なかったんだよ! お前を呼び出して初日だぞ、初日! まだ何もしてねえのにこの仕打ちはないだろう!?」

「ハハッ、人生ってのはいつだってそういうもんだぜ、特に悪魔なんかに頼ろうってやつのはな!」


 木が晴れ、夜空の下に出る。雑木林の端に着いてしまったのだ。このまま逃げて人混みまで辿り着くか、方向転換してまた林の中へ突っ込むか。判断しなければならなかった。

 男二人は林を出る道を選んだ。いつまでも雑木林の中で追いかけっこをしていても体力を消耗するばかりだ。変化を求めたがった。

 そこに、前方から人影。

 その人物から声が発せられる。よく通る、女の声だ。月明かりがその姿を照らす。まだ十代の少女のようにしか見えない。彫刻や人形を思わせる美貌だった。一目で日本人ではないとわかる、白人種系。


「そこまでです、サモナーに悪魔。よく逃げたほうだと思いますが、チェックメイトでしょう」


 少女は銃を構えながら、流暢な日本語で言った。

 男たちの背後からも、人影が現れる。二人を追いかけていた者だ。適度に追い詰めて、ここまで誘導するのが役割だったのだろう。


 三つの人型。その背中にはそれぞれ二対の純白の翼。


 男たちは今、人間と天使に挟み撃ちの形を取られていた。


「おい悪魔、これって絶体絶命じゃねえか?」

「最後まで希望を捨てんなよ人間。もしかしたら話のわかる相手かもしれないぜ。多分。俺実は交渉ごとはあんまり得意じゃないから、そこは人間サマの出番だな」

「そ、そうだな。あ、アー。ナイストゥミーチュー?」


 パン。


 地面に銃弾が突き刺さった。少女の持つ拳銃から硝煙が立ち上がる。


「は、ははは。いきなり発砲はやめてくださいお願いします!」

「手を後ろに組み、跪きなさい。抵抗したらどうなるかは分かりますね」

「サ、サー! イエッサー!」

「私は女性です」


 言われたとおりに両手を背に預けて跪く男。だが、視線だけは前を見ていた。

 ギラギラと光る瞳に、少女は認識を改める。ただの雑魚だと思っていたが、意思だけは結構なものじゃないか、流石に悪魔使いか、と。


「情けねえ、女の言いなりたあ情けねえぜ兄弟。だが、その状況からでも必死に女のパンツを覗きにいく根性、嫌いじゃないぜ」

「バカてめえ、なにバラしてやがるんだこの野郎! もうちょっとで絶世の美女のパンティが拝めたっていうのに! ってぶべ!?」


 少女の足が、馬鹿な男の頭に振り下ろされた。


「まずは安心して下さい。私はあなたの命を取りに来たわけではありません。殺すのであれば既に殺していますわ。むしろ、私は穏便に物事を進めるために、協力を要請しにきたのです。とはいえ、悪魔使いがこの程度の腕でしかなかったのは、残念といったところですが」


 ぐりぐりと男の顔を地面に擦りつけながら言った。


「うわあ。真性のドSかよ、ねえちゃん。いや女王様」


「黙りなさい悪魔」

「そうだ黙れ悪魔。僕はこれでも結構うれしい」

「あなたも黙れ」


 踵が、後頭部にめりこませるために一旦浮き上がり、拘束が解除される。


 その一瞬の隙をついて男は身体を反転させ、少女のブーツに手をかけた。

 そして脱がせる。ついでにスカートの中も覗く。

「きゃっ」


「パンティの色は黒! 色っぽい! 勝負下着か!」


「な、何を言いますの、あなたは!?」


 間髪入れずに立ち上がり、天使に囲まれている悪魔へ呼びかける。


「いけるか悪魔!?」

「おうよマスター! 待ってたぜこの瞬間! ロックンロールだ!」


 悪魔の身体から瘴気のような紫色の霧が立ちのぼる。

 それは周囲一帯に立ち込め、全員の視界を奪った。


「くっ、油断しましたわ……! リリエル、全周囲警戒! アリエル、防壁展開! エリエル、霧の解析をお願い!」

『イエス、マスター』


 3体の天使が少女からの命令を遂行する。危機に陥った時は、命が最優先だ。考えられる限りの防御を命じて、少女は防壁の中で身を守る。

 十秒もしないうちに霧は晴れた。そして、もう男たちは消え去っていた。


「マスター。霧の解析が終わりました。魔力撹乱と視覚妨害以外の効果はありませんでした。しかし、そのおかげで完全に見失ってしまいました」

「逃げられたのね。なんというか……屈辱ですわ。自身の未熟さ故、とはいえ、この私があんなずぶの素人を逃すとは。油断があったのは確かですが、それにしても……屈辱です」

「それは、パンツを見られたからですか?」

 天使の一人、リリエルが聞く。


「うっさい! あんちくしょう、今度あったらどうしてくれましょうか! 靴も取られるし、あれ、お気に入りでしたのに!」

「追いますか?」


「……いいえ、深追いは避けます。今から追いつけるかどうかわかりませんし、仮に援軍などで迎え撃たれたら、こちらが危ない」


 怒りを胸に秘めながら、少女はその場を後にした。


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