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第七話:不死身の凡人





目の前には山賊風の男が二人。

おそらくウォルターが誘ったメンバーだろう。

見た目で人を判断するのはどうかと思うが、どう見ても山賊そのもの。

一体どういう人生を送ればこんな悪人顔になれるのだろうか。


「おう、兄ちゃんがカズヒコって魔法使いか」


「そんな細っこい体で戦えんのか? ギャハハ」


先程から挑発をかけて来ているようだが、その内容があまりに予想通り過ぎて呆れるばかりだ。

まあ、実力の方も予想通りだろうが、こちらはそれでも全く困らない。

後腐れも無く囮に使える分、寧ろ彼等のこの性格は有り難いくらいだ。


「皆さんの足を引っ張らないように頑張りますよ」


こういうタイプにはそういっておけば良い。

案の定、山賊もどき達は舌打ち一つした後、面白くなさそうな顔をして酒を飲み始めた。

仕事前の飲酒はどうかと思うが、囮風情に戦闘能力は期待していないので放っておく。


「悪ぃ悪ぃ、準備に時間がかかって遅れちまったぜ」


そう言いながらもゆっくりと歩いてくるウォルター。走れ。

何故か大型の台車を引いているようだが、行き先は山だぞ。


「流石は兄貴だ。これで大儲け出来るぜ」


「儲けは公平に、だよな?」


何時の間にかこいつらの兄貴分にもなってるのか。

まあ、馬鹿同士お似合いではあるが、そういう間柄なら囮の件は黙っておくべきだな。


「こんな所でいつまでもグズグズしてても仕方が無ぇ、さっさと出発すんぞ」


お前を待ってたんだよ。

その後、ウォルターに二人を紹介されたが、記憶容量を無駄使いする気はないので覚えてはいない。

寧ろ、ワイバーン相手の大仕事にも拘らず、余裕な顔をして酒を飲んでいる事の方が気になる。

もしかしたら、ワイバーンよりもこいつ等の小細工に注意した方が良いのかもしれないな。





「兄貴、ちょっと良いか?」


ラッセン山に上り始めた辺りで、山賊Aが突然話を切り出した。

神妙な顔をしているが、どうせ碌でもない話だろう。


「ここは二手に別れて行動した方が良いと思うぜ」


「何でだ?」


これは好都合だ。

まさか、向こうから囮役を引き受けてくれるとはな。

勿論、向こうは向こうでこちらを嵌めようとでも思っているのだろうが、

そう考えてくれている方がやり易い。

自分が騙す側だと思っていてくれた方が成功率は上がる。

絶対に成功するとは言い切れないが、今の所は何から何まで僕に都合よく動いているようだ。


「ほら、俺らだとワイバーンに見つかったら終わりじゃないっすか」


その通り。

罠云々を抜きにしてもこの作戦は中々悪くない筈だ。

相手を倒せない以上は、なるべくリスクは分散した方がいい。

例え、見つかる確立が上がったとしても、他の誰かが犠牲になる事でその分の時間も稼げる。

こいつ等は知らないだろうが、ワイバーンが魔鉱石の魔力を追ってくる以上、見つかるのは必然。

とは言っても、回避策を持っている僕にとっては何の問題も無いのだが。


「おいおい、始めっから諦めてどうするよ。負けるかどうかなんてやってみなきゃ分かんねぇだろ?」


それくらいは分かっておいて欲しい。

相手を油断させてくれるのは有り難いが、流石に僕もだんだん不安になってきた。

二人組みを見ると、説得が進んでない事にイライラしているのが分かる。

もう、罠だと確信していいだろう。

それも、おそらく自らの安全を確信できるレベルの罠だ。

勿論こいつらの脳内での話だろうが。


「と…とにかく、そういう事なんで、バラバラにやった方が得なんすよ」


「う~ん…まあ、そこまで言うなら別に構わねぇけどよ」


どうやら話は終わったようだ。

ウォルターの方はまだ納得できてないようだが、とりあえずは別行動が出来るので良しとしておこう。

それよりも、この程度の話も理解出来ないようだと商会に入ってもやっていけないだろうな。

こいつのコネが効く内に、別の商会の奴に顔を売る必要がある。

全く、出来の悪い兄貴分を持つと苦労するよ。





山の中腹に差し掛かった時に、突然ウォルターが風上から異様な臭いがすると言い出した。

確認してみると、確かに何やら生臭い臭いがする。

この臭いについては、王都の冒険者の魂からその知識とセットで習得済みだ。


「臭い袋ですね」


魔物の嫌う臭いを出し、弱い魔物を避ける為の道具だ。

値段も安く、何処の街にでも売っている。

別段希少な物でも何でも無い。


「臭い袋ぉ? そんな物が何でここにあるんだよ」


そりゃあ、当然あの二人組み以外考えられないだろう。

臭い袋程度がワイバーンに効く訳が無い。

当然、こいつにもそれ位は分かるだろう。

狩人が通常の使用法で臭い袋を使う事はない。

魔物を狩るのが仕事なのだから、それも当然だ。


「さぁ、それは分かりませんね」


そうは言ったが、使用目的も分かっている。

まず、雑魚との戦闘を避けて体力を温存する為。

そして、ある程度の知性があり、且つ人を襲う習性のある魔物をおびき寄せる為。

この場合は後者だろう。

こちら側にワイバーンの注意を逸らしておいてという事か。

この程度の小細工があの余裕の理由だとすれば、とんだ期待はずれだ。


「とにかく、ここは迂回した方が良いって事だよな?」


「そうですね。そうしましょう」


臭い袋なんだから、当然臭いで分かる。

別に人間には感じない臭いも作れるのだろうが、

使用者側に発動してるかどうか確かめようが無いような物を作っても仕方が無い。

こんな猜疑心を煽るような小細工に一体何の意味があるのだろうか。

ある程度臭い袋から離れると、服を叩いて臭いを落とす。

尤も、この程度の臭いならワイバーンに気付かれる筈もないのだが。

まだ何かあると思っておいた方が良いだろう。





あれから半刻ほどが経ち、漸く採石場まで辿り着いた。

ワイバーンが住み着くまで使われていた物らしく、結構立派な造りをしている。

恐らく今頃あの二人組みは反対側の採石場で採掘しているだろう。

迂回した事もそうだが、どこぞの馬鹿が大きな台車を引いて上ってきたせいで大遅刻だ。

この距離だと悲鳴くらいは聞こえる筈だし、それを引き上げの合図としようか。

まだ襲われて無いと良いのだが。


「おい、ちゃんと手を動かしてるか? サボるんじゃねぇぞ?」


そう言ってウォルターが急かして来るが、あいつは確か入り口付近でへばってた筈だ。

まあ、折れた腕で山の頂上付近まで大型の台車を引っ張ってくれば、そうなって当然か。

自業自得なので全く同情はしないが。


「あぁああ!!止めろぉ!!!!来るなぁあ!!!!」


早速馬鹿の叫び声が聞こえてきた。

幾らなんでも早過ぎる。

まだ採掘は全然済んでいない。

採掘量の指定はなかったが、流石にこれでは足りないだろう。

全く、囮としてすら役に立たないとはな。

愚痴りながら作業用具を片付けていると、突如二人組みの不快な叫びが聞こえなくなった。

だが、断末魔が聞こえてきた訳ではない。死んではいないのだろう。

瞬殺されたという可能性もあるが、ワイバーンの激しい嘶きと攻撃音は未だに続いている。

まあ、坑道に篭れば少なくともワイバーンは入って来れないからな。

あいつ等にワイバーンから逃げきる程の能力があるとは思えんし、きっとそのパターンだろう。


「最高の展開だ」


顔に薄っすらと笑みが浮かんでるのが分かる。

何しろ、山を挟んで反対側にワイバーンが貼り付いてくれているのだ。

まさか、奴等がその身を犠牲にしてまで僕達を助けてくれるとはね。

まあ、自らが望んで囮になった訳ではないとはいえ、ありがたい事だ。

そうと決まれば採掘作業を続けるとしよう。

どうやら、僕は奴等を必要以上に警戒し過ぎていたようだな。





それからおよそ30分、元々良質の採石場だったらしく、

採掘途中の場所を力任せに切り崩した御蔭で予想以上に早く終わった。

かなりの魔鉱石が駄目になったが、別に僕の土地ではないので構わないだろう。

手早く採掘して持ち帰る。任務上は何の問題も無い。


「さて、あっちはどうなってるかな?」


作業用具をか片付けると、魔鉱石の入った鞄を背負ってウォルターのいた出口付近に向かった。

おかしい、何処にも居ない。

全く、厄介事ばかり起こしてくれる。


「ウォルターさ~ん。聞こえたら返事してくださ~い」


一応呼びかけるが、返事などある筈が無い。

元々そんなに広い場所ではないし、肝心の作業用具が入り口付近に放ったらかしだ。

まあ、想像は出来る。

おそらく、あの弟分とやらを助けに行ったのだろうな。

最近分かった事だが、あいつは中々に面倒見が良いようだ。

あまり役には立たないので、能力のある者にとっては煙たいだけの存在だろうが、

そうで無い者にとっては結構慕われていたりするらしい。

とは言っても、あの二人組みは別だと思うがな。

だが、気づいて無い以上は仕方が無い。

あいつが死んだら僕が困る。

既にワイバーンと対戦してたら仕様が無いとしても、そうであるとは限らない。

とりあえず、呼び戻せるなら呼び戻しておかないとな。

商会の友人を見捨てて犬死するのかとか何とか言っておけば大丈夫だろう。





ワイバーンのテリトリー内に他の魔物が近づくわけもなく、安全に逆側の採石場付近にまで辿り着いた。

坑道の斜め上から現場までゆっくりと這いよっているのだがウォルターの姿は未だ全く見えない。

これは諦めた方が良さそうだな。

距離はおよそ500m程、とても感覚の鈍重なワイバーンに気付かれる距離では無い。

が、そろそろ限界だろう。引き上げ時だ。


「居た」


そう思った瞬間、目線の先で草がザワザワと不自然に動き出した。

どうやらウォルターは坑道の真上に身を潜めているらしい。

猛り狂ったワイバーンには見えていないのかもしれないが、何時バレてもおかしくない状態だ。

あれは駄目だ。距離が近すぎる。

一足で飛びかかれる近さではあるし、本人もそのつもりなのだろう。

だが、下位とはいえ竜種のワイバーン相手にあいつが片手でどうこう出来る筈が無い。

今の僕なら不意を打てばまず負ける事はないだろう。

ウォルターが気を引いてる間に最大威力で詠唱魔法を放てば、

それだけでかなりの手傷を負わせられる筈だ。

だが、流石にここは「だろう」では動けない。

商会とのコネ如き、有って無い様な物の為に命までかける気は無い。

短い付き合いだったが、これでサヨナラだ。

ワイバーンに向かって飛び込んでいくウォルターを見ながら、僕はその場を後にした。


「ッ…!」


が、次の瞬間、ワイバーンの攻撃で崩れた岩の欠片が僕の目の前に落ちてきた。

よく見ればには岩盤には幾つもひびが入り、今にも崩れそうになっている。

ウォルターの無謀な特攻せいで危うく死ぬ所だった。

そのウォルターは上手い事坑道に逃げ込んだようで、中から何やら争い合う声が聞こえる。


「まあ、良い。どうせ死ぬのなら構わないだろう」


岩からこぼれ出た魔石の欠片を岩盤のひびに詰めながらボソリと呟く。

流石に今回ばかりは頭にきた。

自分の判断とはいえ、危うく死ぬ所だったのだ。

坑道の中の奴等の事なんて関係ない。

安全な所から全員まとめてぶっ潰してやる。

幸いな事にその手段に付いては先程の岩石落下を見て考え付いた。

後は、準備に少々手間取るくらいか。

坑道は高く切り立った崖の間に掘られている。

執拗なワイバーンの狩りによって、今や坑道は何時崩れてもおかしくない状態だ。

後は誘爆させてやれば良い。

別に左右両方の崖を崩す必要は無い。片方だけでも崩せばワイバーンに逃げ道は無い。


「空を飛ぶ利を捨てて、地に下りた自分を恨んでくれよ」


安全な場所まで下がると、急いで魔石の欠片を用いて作った導火線に魔力を通した。

ワイバーンがこちらに気付いた様だがもう遅い。


「フィロース エルド グリーディッド ヘル マキナ」


早口で呪文を完成させ、発動する。

放出した魔力を爆破させる低ランクの魔法。

だが、僕の魔力はひびに沿って延々と繋がっている魔石のラインに続いている。

この魔石全てを巻き込んだ爆発なら、崖を崩すくらいの威力は出るだろう。

案の定、魔法を放ったと同時に激しい轟音が鳴り響いた。

地盤が揺れ次々に崩れていくのが分かる。

流石にここまでの事態になるとは思っていなかったが、おそらく他の魔石にも誘爆したのだろう。

崖どころか、付近一帯が崩れてしまったようだ。

これならワイバーンも即死だろうな。

勿論ウォルターも即死だろうが、どのみち餓死か生き埋めかの二択なのだから、

生き埋めの方が楽でいいだろう。

そう結論付ける、僕は最初の採石場に戻る事にした。

あそこには大型の台車があった筈だ。有難うウォルター。

敵もいない事だし、ゆっくりと帰るとするか。

それにしても、惜しい人物を失くしたようだな。

実力さえ伴っていれば勇者と呼ばれるようになった可能性もあっただろうに。


「お~い、誰か助けてくれ~!!」


…あ、生きてた。





商会の件まで終わらせるつもりだったのですが、削りきれませんでした。

そのせいで描写が飛びまくってるかもしれません、申し訳ないです。

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