第三話
「おぉう」
放課後二人の姿は図書室にあった。
二人の手にずっしりと重い図鑑をそろりそろりと開く、すると、数種類の蛍がびっしりと描かれたページがあった。こうして見ると以前家族と見た時と様子が違い、
「なんか、(くろい‥‥)」
しゅんとしてしまうと、のぞみが声を大きくして言った。
「蛍って、顔のところ赤くてかわいいんだね!」
‥‥確かに、言われてみるとここが顔でほっぺみたく見えなくもない?
なんか、ぷつくりしててかわいい、かも?
へにゃへにゃとほたるの顔が崩れた。
「のぞみちゃんありがとうね、このページいっぱいいて、それに大きくてびっくりしちゃったけど、本当のホタルはもっと小さいんだょ。それでねお尻が光るの!」
図鑑の右端には蛍の光る仕組みも説明されていたが2人が興味をもったのは、
「ホタルってこんなに色があるんだね」
「わたしも知らなかったよ!黄色に光ってるコはみたけど緑とかあ、オレンジもあるんだって!」
「え?恐竜のいた時に蛍もいたの?」
「わ!ほんとうだっ!」
「すごいね、ほたる!」
「うん!すごいねっ!」
しぃ〜 はっ!
貸し出しカウンターにいる先生が指を唇に当てながらこちらを見ていた。のぞみがぺこりと頭を下げるのに倣って蛍もぺこり。
2人は顔を近づけてこっそり言った。
「静かにしないと、だね。」
「うん、蛍も見れたし、もぅ帰ろう?うちで遊ぼうよ?」
重たい図鑑を協力してカウンターの先生の所に返す。
手を繋いで帰る帰り道に、のぞみがふと言った。
「僕も本物の蛍を見てみたいなぁ」
「うん!一緒に見ようよ!
見るとね、とってもキレイで元気でるよ!
わたし、ホタルの光が大好き!」
「この近くじゃ見れないのかな?」
「ホタルはね、キレイな水が好きだから、川とか?
でも子供だけで行っちゃダメってお母さん言ってた」
「それじゃぁ、みんなで見たいね」
「そうだね、みんなで見ようね!」
ほたるは繋いだ手を大きく振った。
足取りも軽く、引っ張られたのぞみは歩調を合わせて笑った。
もう2人の家が見えていた。
「ねえ、ほたるちゃん、ほたるちゃんはほかに何が好きなの?」
「わたし?わたしはーーー」
ーーーーーーー
「おいしいっ」
「ほっほんとおっ?!」
のぞみちゃんが食べてるのは昨日お母さんと作ったクッキーだ。
混ぜるのがすごく大変で、しかもお砂糖の量を間違えて、甘さが足りないクッキー。不思議な形のクッキー。兄からは食えないこともないって評されたクッキー。お父さんは美味しいよって言ってくれたけど、いつもそう言うからなー。
帰って手を洗うと、リビングのテーブルの上にそれがあった。
蛍と作ったのよーって、お母さん!?
驚いてる間にのぞみちゃんが一口食べてしまった。
あわあわするわたしにのぞみちゃんがさっきの言葉を、
えっ?!
「あんまり甘くないでしょ?ほんと?」
無理させちゃってないかな???
「僕は甘いものそんなに好きじゃないんだ。でもこのクッキーはほんのり甘くておいしいよ!」
「!そうなんだっ、良かったょ」
ほっとしながらも驚いていた。わたしは甘いの大好きだし、兄はびょー的だって、お母さんが。
「だからあんまりお菓子を食べる機会ないから嬉しいよ、
ありがとう、ほたるちゃん!」
鼻の上に食べカスを付けながら笑うのぞみちゃんを見ていると胸がぽかぽかした。嬉しくて嬉しくてのぞみちゃんにもっと笑ってもらいたくて、
「またお菓子作るよ!甘くないの!
そうしたらまた食べてくれる?」
「うん!ありがとう」
もっともっとぽかぽかするよぉー
「約束っ!」
「約束!」
小指と小指を絡めながら、お菓子屋さんになるのはどうだろうかと思った。
のぞみちゃんが喜んでくれるお菓子を作れる人になれたなら、と。
「マジか!甘いもの嫌いな子供がいるのか?」
夕食後、わたしの作ったクッキーでアイスをこんもり掬いながら兄は言った。
「甘くない菓子など俺は認めん!
そして甘くない菓子店など存在する意味が分からんっ!」
兄が噛むクッキーからがりがりと音が止まらない、お父さんの分無くなっちゃう?
「颯太!業務用のアイス抱え込むのやめなさいっ!
そんな甘い物食べて、虫歯になるでしょ!」
「今日も深夜まで試験勉強するからカロリーが必要なの!」
勉強って言うとお母さんの怒りはちょっと落ち着くんだって、前にお兄ちゃんが言っていた。
今もお母さんはぷりぷりしながら、兄から奪ったアイスを小皿に分けて兄とわたしの前に置いてくれる。
中学1年生の兄は二週間後の試験で二年生のクラス分けが決まるらしく珍しく本当に勉強しているみたい。
目の下にクマがいる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だ、いざとなればペンを転がせば良いようになっている。」
大真面目に言い切る兄の後ろで、母がメラメラと燃えていた。




